しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ

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50.右手剣を放て!

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 グリフォンとスティレットの殴り合いは続いた。
 スティレットはまるで、熟練の剣士のように自らの角を使いながら、更に間合いが離れたら、自らの傷を癒やすヒーリングをかけている。

 グリフォンにとっては、これ以上ないほど嫌らしい戦い方だろう。
 スティレットへの攻撃は決定打にならず、かと言ってリック隊の数を減らそうとしても、リック、ゴワス、エドワードの動きは素早いため、簡単には攻撃が当たらない。

 そんなことをしている間に、今度はスティレットとアリーシャが魔法攻撃をしてくる。


 これは、僕たちが何かをしなくても、彼らが倒してくれるかと思ったとき、グリフォンは怒り心頭の様子で近くにある岩を薙ぎ払って、スティレットを攻撃しはじめた。

 さすがのスティレットも、この予測不能な攻撃は防げなかったようだ。
 足や体などに岩石がぶつかると、苦々しい顔をしたままグリフォンを睨んでいた。こうなるとアリーシャも追加で支援魔法をスティレットにかけなければいけなくなり、攻撃の手が止む。

 アリーシャの攻撃がないことで、リック、ゴワス、エドワードの攻撃にもズレが現れはじめ、戦いの流れはグリフォン側に傾こうとしていた。


 ここでグリフォンが勢いづいたら、すぐにリック隊は壊滅する。
 なにせ僕たちは全員が防具を装備していない。スティレットにダメージを肩代わりしてもらって、やっと五分の戦いをしているように見せかけているだけだ。

 僕はオリヴィアに視線を向け、炎魔法で援護するように働きかけた。
 ちょうど僕たちは岩の後ろにいたのだが、オリヴィアは炎の球をホーミングするように放ち、それらは次々とグリフォンへとぶつかっていく。

 グリフォンはすぐにこちらを睨んできた。
 こちらの姿が見えないというのに、凄い勘の良さだ。だけど、次の瞬間にはスティレットが反撃を行い、更にリックやエドワードもグリフォンを棒で殴りつけたので、グリフォンはすぐにスティレットたちを睨んだ。


 僕は再びオリヴィアに視線を向けると、彼女はさっきよりも霊力を放出した。どうやらより高威力の攻撃を御見舞いするつもりのようだ。

 オリヴィアの行動を察しているのか、スティレットたちも上手にグリフォンの気を逸らしてくれている。特にグリフォンは、スティレットに頑張られていることがとても気に食わないらしく、執拗に攻撃を繰り返していた。


 オリヴィアは大出力魔法のチャージを終えると、グリフォンに狙いを定めた。
 これは、普段のファイアショットではなく、もっと貫通力のある炎魔法だ。オリヴィアも引き金を引くように殺気を放った。

「バーニングジャベリン!」

 彼女の指先から、まるで鋭利な槍のような炎が飛び出すと、その穂先がグリフォンの背中に突き刺さり、周囲に着火した上に爆発を起こした。

 思わずえぐいと表現したくなる魔法だが、これも元々は誰かのアビリティだったことを思い出すと寒気さえする。
 オリヴィアの霊力が普通ではないとはいえ、模造品と言える魔法でこの威力なのだから、神から特定の人物に送られたオーダーメイド品だったらと思うと恐ろしい話だ。



 気を抜いた次の瞬間、僕は背後に氷でも押し込まれたかのような悪寒を感じた。
 そこにいたのは……グリフォンだ!

 そいつは爪を大きく振り上げ、オリヴィアを薙ぎ払おうとしている。
 僕はとっさにオリヴィアを突き飛ばし、その攻撃をもろに受けようとしていた。

――偽物の右手剣フォールスライト


 その直後に僕は、形状変化では致命傷から逃れることが出来ないことを察した。もし、このままグリフォンの攻撃を受けたら、どれくらいダメージを持って行かれる?

 おおよそ2000か。というかクリティカルヒット扱いの可能性が高いな。
 ここまで考えて、あれっと思った。今までも何度か、当然のように追い詰められたときに、様々なことを思いついたりして助かってきたけれど、今回のはあからさま過ぎるな。


 グリフォンの爪がまだ、僕の身体にぶつかってすらいない。
 これってもしかして……死ぬ瞬間にモノが凄くゆっくりと動いて見えるというアレだろうか。名前忘れたけど。

――タキサイキア現象

 ああ、そういう名前なのか。走馬灯とは違う意味なんだなこれ。
 ん……どうして僕は、こんなことがわかったのだろうか。

 そういえば、ずいぶん前にオリヴィアと御神木の前に立ったとき、何か僕にはまだ特殊能力があるって話をしていたよな。
 名前は確か、ツゥルースセンスだったか。


 少しずつ、グリフォンの爪が近づいてきている。あまり時間もないな。どうすれば助かるのか……ここは勘に頼るしかなさそうだ。

――勇者の感性ツゥルースセンス

 これは、普段から様々なことを直感的に教えてくれるが、実は自分からも働きかけをできる能力だ。
 自分から検索をかけると、その問いの難しさに応じて、最大MPの3~20パーセントのMPを消費してしまうが、真実の1つを探り当てる能力だ。世の中には無数の正しさが散乱しているから、僕が見抜けるのは、そのうちの1つに過ぎない。

 勇者の感性は、5パーセントのMP消費で答えを返してくれた。


ー―右手剣を放て!

 僕は勘に任せるまま、右手剣をグリフォンに向かって投げた。
 ただし、狙いのは身体ではなく……影の方だ!


【ファイアショットの連続撃ち】
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