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68.ザ・追い込み一角獣
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レーススタートと同時に、スティレットは最後尾に着いた。
もしかしたら僕が、魔馬の邪気に当てられないように配慮……いや、ただ単にこの位置取りが楽だから、じっくりと構えて行くつもりなのかもしれない。
ん、でもよく考えてみると、今回って反時計回りなんだな。
本来なら準備運動のときに気付いておくべきだったけど、本番になって気づくなんて、僕ってけっこう鈍感だと我ながら感じていた。
さて、このトーキョーコースだが、スティレットたちは第2コーナーの奥にあるポケットと呼ばれる場所からのスタートだった。
だから、少し走れば、向こう正面の直線コースとなり、魔馬たちは第3コーナーを目指して走っていく。
どうして、競馬場のコースを丸々1周しないのかといえば、1800メートルでは距離が短すぎるため、こうして途中の場所からスタートすることになるのだという。
「丸ごと1周で走れるコースは出せないのか……お前のステークスって能力は?」
『多分、樹海が広すぎて分割されたから、その弊害だろうね』
ああ、つまり……ステークスという能力の仕様のようなものか。
さすがにレース中にこれ以上、話しかけるのはスティレットに悪いので、天馬乗りしたまま眺めているとスティレットは緩めのペースのまま最後尾を走り続けた。
第3コーナー。第4コーナーともに、スティレットに変化はなく、最後の直線に入っても、彼は脚運びを緩くしたままだった。
ちょっと遅くないか……大丈夫かと心配になったとき、スティレットは霊力を放出。
どうやら、ラスト400メートルになるまで、体中の力を溜めていたようだ。
残り400メートルを通過するとともに、彼は一気にペースを加速させた。
そこは上り坂の途中だったが、僅か100メートルのうちに3頭ものライバルを交わし、更に100メートルを走る間に10番目まで追い上げていく。
残り200メートルになると、より脚運びは激しいモノになった。どうやらここからは更にペースを上げるようだ。
『振り落とされないでね!』
この直後に、スティレットは固まっていた魔馬の馬群を追い抜きにかかった。50メートルも走るうちにその大半を置き去りにし、残り120メートルの地点で3番手にまで上がると、105メートルの地点で2番手にまで並びかけた。
そして残り100メートルのラインを越えた直後に、先頭を走っていた魔馬も抜き去り、ここからはスティレットお得意の引きはがし……いや、負けウマ蹴りタイムと言ってもいいだろう。
ハイペースのまま走り続けていくたびに、後ろのウマたちの脚音がみるみる小さくなっていった。
直後に、ゴールポストを越えると勝敗が決したらしく、僕の頭の中に声というかメッセージが届いた。
――ホワイトスティレット勝利 着差5馬身半
「馬身って……どういう意味だろう?」
『1馬身は……およそ2.4メートル』
さすがのスティレットも、少し息が上がっていたが、どこか嬉しそうな表情をしながら言った。
『さて……どれくらい経験値が入ったかな?』
スティレットの脚運びもゆっくりしたところで、コイツの背中を見てみると、スティレットの格が上がっていることに気が付いた。
「なあ、お前のサラブレッドの欄に……オープン級って言葉が追記されてるぞ?」
『1勝クラスからオープン一角獣に昇進したってことか……』
ついでにスティレットのレベルも48になっている。
ステークスの経験値配分は、乗り手は5パーセントだったはずなのに、僕も複数のレベルが上がったことを考えると、いったいスティレットには、どれくらいの経験値が入ったのだろう?
スティレットに跨ったまま、ステークスが解除されると、僕たちは魔の森の真っただ中に姿を現したが……その視線の先には、例の勇者ウマの姿があった。
『見事なレースだった』
そう言いながら近づいてくると、彼は言った。
『文句なしの合格だ!』
その言葉を聞くと、僕だけでなくスティレットも肩の力を抜いた。
これで僕たちは晴れて、第6次試験にコマを進めたことになる。
「よかった……これで次は、6次試験に……」
『何を言っている? 貴殿ら2名に……森の王の名において勇者資格を与える』
ウマの勇者は、そう言いながら微笑むと、スティレットに視線を向けた。
『特に……我が甥が勇者に相応しい一角獣になったこと……嬉しく思うぞ!』
『あらためて挨拶させてもらうよ……御無沙汰しております。アクアエンハンス叔父さん!』
そう言われると、ウマ勇者は苦笑いした。
『その名で呼ぶのはやめてくれ。吾は単なる黒毛ウマだ』
そういえば聞いたことがある。
フロンティア地方には、2種類の勇者称号があるそうだ。1つ目はフロンティア国が発行している、一般的な勇者資格。
そしてもう一つは、数年に1人現れるかどうかという、幻の勇者資格。
その入手方法は謎に包まれていたが、どうやら……僕たちは偶然にもそれを手にしたようだ。
【スティレット(カイト兄、切り株に乗ってるよ……)】
もしかしたら僕が、魔馬の邪気に当てられないように配慮……いや、ただ単にこの位置取りが楽だから、じっくりと構えて行くつもりなのかもしれない。
ん、でもよく考えてみると、今回って反時計回りなんだな。
本来なら準備運動のときに気付いておくべきだったけど、本番になって気づくなんて、僕ってけっこう鈍感だと我ながら感じていた。
さて、このトーキョーコースだが、スティレットたちは第2コーナーの奥にあるポケットと呼ばれる場所からのスタートだった。
だから、少し走れば、向こう正面の直線コースとなり、魔馬たちは第3コーナーを目指して走っていく。
どうして、競馬場のコースを丸々1周しないのかといえば、1800メートルでは距離が短すぎるため、こうして途中の場所からスタートすることになるのだという。
「丸ごと1周で走れるコースは出せないのか……お前のステークスって能力は?」
『多分、樹海が広すぎて分割されたから、その弊害だろうね』
ああ、つまり……ステークスという能力の仕様のようなものか。
さすがにレース中にこれ以上、話しかけるのはスティレットに悪いので、天馬乗りしたまま眺めているとスティレットは緩めのペースのまま最後尾を走り続けた。
第3コーナー。第4コーナーともに、スティレットに変化はなく、最後の直線に入っても、彼は脚運びを緩くしたままだった。
ちょっと遅くないか……大丈夫かと心配になったとき、スティレットは霊力を放出。
どうやら、ラスト400メートルになるまで、体中の力を溜めていたようだ。
残り400メートルを通過するとともに、彼は一気にペースを加速させた。
そこは上り坂の途中だったが、僅か100メートルのうちに3頭ものライバルを交わし、更に100メートルを走る間に10番目まで追い上げていく。
残り200メートルになると、より脚運びは激しいモノになった。どうやらここからは更にペースを上げるようだ。
『振り落とされないでね!』
この直後に、スティレットは固まっていた魔馬の馬群を追い抜きにかかった。50メートルも走るうちにその大半を置き去りにし、残り120メートルの地点で3番手にまで上がると、105メートルの地点で2番手にまで並びかけた。
そして残り100メートルのラインを越えた直後に、先頭を走っていた魔馬も抜き去り、ここからはスティレットお得意の引きはがし……いや、負けウマ蹴りタイムと言ってもいいだろう。
ハイペースのまま走り続けていくたびに、後ろのウマたちの脚音がみるみる小さくなっていった。
直後に、ゴールポストを越えると勝敗が決したらしく、僕の頭の中に声というかメッセージが届いた。
――ホワイトスティレット勝利 着差5馬身半
「馬身って……どういう意味だろう?」
『1馬身は……およそ2.4メートル』
さすがのスティレットも、少し息が上がっていたが、どこか嬉しそうな表情をしながら言った。
『さて……どれくらい経験値が入ったかな?』
スティレットの脚運びもゆっくりしたところで、コイツの背中を見てみると、スティレットの格が上がっていることに気が付いた。
「なあ、お前のサラブレッドの欄に……オープン級って言葉が追記されてるぞ?」
『1勝クラスからオープン一角獣に昇進したってことか……』
ついでにスティレットのレベルも48になっている。
ステークスの経験値配分は、乗り手は5パーセントだったはずなのに、僕も複数のレベルが上がったことを考えると、いったいスティレットには、どれくらいの経験値が入ったのだろう?
スティレットに跨ったまま、ステークスが解除されると、僕たちは魔の森の真っただ中に姿を現したが……その視線の先には、例の勇者ウマの姿があった。
『見事なレースだった』
そう言いながら近づいてくると、彼は言った。
『文句なしの合格だ!』
その言葉を聞くと、僕だけでなくスティレットも肩の力を抜いた。
これで僕たちは晴れて、第6次試験にコマを進めたことになる。
「よかった……これで次は、6次試験に……」
『何を言っている? 貴殿ら2名に……森の王の名において勇者資格を与える』
ウマの勇者は、そう言いながら微笑むと、スティレットに視線を向けた。
『特に……我が甥が勇者に相応しい一角獣になったこと……嬉しく思うぞ!』
『あらためて挨拶させてもらうよ……御無沙汰しております。アクアエンハンス叔父さん!』
そう言われると、ウマ勇者は苦笑いした。
『その名で呼ぶのはやめてくれ。吾は単なる黒毛ウマだ』
そういえば聞いたことがある。
フロンティア地方には、2種類の勇者称号があるそうだ。1つ目はフロンティア国が発行している、一般的な勇者資格。
そしてもう一つは、数年に1人現れるかどうかという、幻の勇者資格。
その入手方法は謎に包まれていたが、どうやら……僕たちは偶然にもそれを手にしたようだ。
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