しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ

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73.オリヴィアの秘密を知ったカイト

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 オリヴィアは、僕を真剣に見つめ……そして言った。
「実は……子供を授かりました」

 その言葉を聞いたとき、遂にこの日が来たか……と思うくらいで、自分でも驚くほど冷静だった。
 これからオリヴィアの両親に挨拶に行くとか、大した職に就いていないのに授かりました。となれば、うろたえたかもしれないが、今は自分に自信を持っていることも理由の一つかもしれない。

「……何か月くらいなんだい?」
「3から4か月と……言ったところでしょうか?」
「当面の間は、まだお金が残っているから大丈夫だろうけど、なるべくなら僕が働いて貯金を切り崩したくないね」
 そう言いながらスティレットを見ると、彼も視線を上げて考え込んだ。
『ヒールパッチを作る仕事なら、もう少し身重になったオリヴィアでもこなせるんじゃないかな?』

 スティレットの言葉を聞いたオリヴィアは、にっこりと笑って言った。
「俗にいう、ヒーラーの内職ですね。あれ……けっこう得意ですよ」


 彼女の言葉を聞いて、僕はとても満足した。
 ヒールパッチというのは、簡単に言えば回復魔法を仕込んだ包帯のようなものだ。傷口をよく洗って乾かしてから、このヒール布を付けると、通常の数倍の速度で傷が回復する。

 さすがにLPまで回復させることはできないが、ヒーリングアビリティを持っている人間だけしか作ることができないため、需要に比べて供給が少ないから、いつでも値段が高いのである。
「ギルドに戻ったら、ギルド長に報告して……しばらくは負担のかからない仕事をやろう」
「そうですね!」


 2日後。僕たちは、勇者の勲章を受け取りに玉座の間へと行くと、リックともう一人……30代と思しき男性がいた。どうやら、勇者試験の本ルートで見事に勇者資格を手にしたのは2人だったようだ。

 僕たちは騎士のように跪き、国王陛下から直々に勲章を授与された。
 僕の受け取った勲章にはフロンティア国のエンブレムに、ユニコーンのデザインが彫り込まれており、後ろを見るとカイト・キキと向こうの言葉で彫り込まれていた。

 ん、待てよ……これってもしかして、カイトが名前でキキが苗字だと思われているのではないだろうか。ま、まあ……それでもおかしくはないからいいか。
「4人の勇者たちよ……その聡明な頭脳と、鍛え抜かれた力を持って……万民の鉾となり盾となるがいい!」
「ははっ!」

 僕たちが、勇者になったことをかみしめていると、横では市民の中から新聞社が質問をしたそうにこちらにギラギラとした視線を送っていた。
 大臣が質問を許可すると、彼らは一斉に質問を投げかけてきた。

 その内容は、首都出身の勇者が減ってきたことを国王はどう考えているか。
 ユニコーンが2人も久しぶりに勇者に推薦したが、正規の国民ではなかったことをどう考えているか。
 カイトは東洋人っぽいが、素性は大丈夫なのか。
 試験内容に、武力で選出するモノがとても少なかったが、どうして少なくしてしまったのか。

 まあ、どこの時代でもマスコミは、様々な質問をしてくるモノだと思う。



 間もなく僕たちは、勇者の勲章を受け取ると、冒険者街へと戻りフロンティアトリトンズへと帰還した。
 僕とスティレットの勇者試験の合格。更にオリヴィアの健闘を伝えると、ギルド長も誇らしげに微笑んでいた。
「我がギルドから……勇者が……それも、2人も同時に出るなんて!」

「しかも追加の報告がありまして、オリヴィアが遂に子供を授かりました」
「そ、それも凄い!」
 その話を聞いていた近くのギルド員たちも「おお!」と声をあげながら、一斉に僕たちを見た。
「勇者……それもユニコーン勇者とオリヴィアとの子供か!」
「それは将来が楽しみだ!!」

 僕は少し苦笑しながら言った。
「そういうわけで、当分の間はオリヴィアには無理をさせられないので……」
 フェリシティーは、もちろんわかっていると言いたそうに頷いた。
「ギルドとしても、貴方たちの子育てを全面的にバックアップさせていただきます」


 まさに順風満帆という様子の僕たちだったが、あくまで脳裏には堕天使の言葉が残っていた。
 幸せな僕たちの生活を壊すように、悪魔ブラッドリリスが現れる……か。その姿を見た者はいない……

 …………
 …………

 いや、待てよ……
 僕の能力、勇者の感性なら、相手の正体を知ることもできるのではないだろうか。


 能力……発動。ツゥルースセンス!

 どうやら、対価となるのは最大MPの2割分のMPらしい。さすがに……相手がラスボスだけあって、ちょっとした情報を得ようとしても、そのコストは膨大なモノになるようだ。


 間もなく、その勇者の感性が映し出した記憶の断片は……オリヴィアの姿だった。

 僕はすぐにオリヴィアに言う。
「ちょっと、その鏡……貸して」


 僕はレフトナイフを出すと、迷わずに投げつけた。
 オリヴィアの胸に刺さっているが問題ない。僕が投げつけた先は鏡だ。
 本物のオリヴィアが見守るなか、鏡はヒビを走らせていき……やがて瘴気を蒸発させながら消えていった。


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