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27.各試合の消化と、2回戦の相手

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 こうして無事に、リッカシデン隊は2回戦へとコマを進めることができた。
 特にリングのメンテナンスも必要なかったので、審判は予定通りに次の試合を進めていく。

 僕はまだこの世界に来て日も浅いので、詳しいことはわからないが、フリーダの話では、特に波乱もなく各ブロックの試合は進んでいるようだ。
「順当な結果ですね……ロドルフォさん」
「そうですな」


 フリーダに説明してもらいながら試合を観戦していると、注目すべきチームの試合になった。
 その名前は、インディゴメイルズチーム。名前の通り、冒険者街で最古参の冒険者ギルドの代表選手たちである。
「シード枠じゃ……ないんだね」

 意外に思いながら言うと、ロドルフォは僕の耳元でそっと囁いた。
「いいえ、ここに出ているインディゴメイルズのメンバーは、実質的には2軍です」
「え……? どういうこと?」
「実はインディゴメイルズには、勇者の子孫が在籍していまして……その人物は国王より勇者として任命されています」

 ロドルフォの話では、インディゴメイルズの1軍【バルド隊】は、Bブロックのシード枠を獲得していた。
 もし僕が勝ち上がれば、聖剣持ちの勇者と勝負することになるとばかり思っていたが、実績を確認してみるとバルド隊が勝つことも充分にあり得る。
「あ、勇者さま~ 試合はじまるよ!」
「ありがとうマーチル。もちろん見てるよ」
 いや、バルド隊よりも、目の前の試合に注目すべきだろう。

 間もなく、僕たちの対戦相手を決める戦いが始まった。
 インディゴメイルズの対戦相手は中堅ギルドの代表チームらしく、積極的に攻めているが、特にいいところもなく先鋒戦はインディゴメイルズが勝った。

 続く次鋒戦は、両者ともに弓使いを出したため、序盤から激しい弓矢の応酬になったが、こちらも命中精度や威力でインディゴメイルズが頭一つ出ている。

 そして2勝して中堅戦。インディゴメイルズは軽装戦士、中堅ギルドは重戦士を送り込んでの一戦となった。
 これはさすがに、中堅ギルドの方に分があると感じた。軽装戦士は攻撃の手数こそ多いが、重戦士の方がパワーもタフネスも圧倒的だ。
 実際に、中堅ギルドの重戦士は、そのパワーで有利に戦いを進めていく。

 ところが、インディゴメイルズの軽装戦士は水魔法を使ったらしく、手から水塊を出して重戦士のヘルムへとぶつけていた。思わぬ水の侵入に視界をやられた中堅ギルドの重戦士は、あっという間に後ろに回りこまれ、タックルを受けて倒され、勝負ありとなった。

「さすがインディゴメイルズ……だね」
 マーチルが言うと、フリーダも頷いた。
「これは……難しい戦いになりそうです」
 間もなく全ての試合が終わり、今日1日で12ものチームがトーナメント戦から脱落していった。


 冒険者街のホテルに戻ると、マーチルは言う。
「いよいよこれで、ベスト16だね!」
「そうだね」
 僕はトーナメント表の書かれた紙を眺めることにした。次戦のインディゴメイルズとの戦いから、強豪との試合が増えてくる。
 優勝できるかどうかのカギは、ロドルフォ、フリーダ、リッカシデン号の3人をどれくらい温存できるかだろう。

 そんなことを考えていたら、エルフのシャーロットは言った。
「そういえば、いよいよ明日からシード枠の勇者チームが現れるのよね」
「そうですね。どのチームも強いと思います」

 ふと気になったので、僕もDブロックの勇者チームに視線を向けていた。
 本当は明日のインディゴメイルズ戦のことを気にしなければならないが、シード枠の勇者チームとなれば、やはり気になってしまうのが人情だろう。
「僕たちDブロックのシード勇者は、田舎勇者チームか……自分から田舎なんて言うなんて、どんなパーティーなんだろう?」

 そう聞くと、フリーダはすぐに答えてくれた。
「彼らは自分たちでチーム名にしている通り、地方の寒村から来た勇者と仲間たちです」
 彼女の言葉を聞いたマーチルは、驚いた様子で声を荒げた。
「寒村!? どうして田舎のにーちゃんが勇者に?」
「どうやら、母親が村一番の美人だったらしく、異世界転移した勇者のひとりに見初められたそうなのです」

 フリーダの言葉を聞き、僕たちは納得しながら「ああ~そういうことか!」と納得していた。
「仕事で立ち寄り……そのまま、恋に落ちた……と、いうことですな」

 アルマンさえ納得してこちらを見てくるのだから、やはり農村出身の勇者というのは珍しいことがわかる。
「まあ、僕が言っておいてすまないけど、まずはインディゴメイルズとの試合だね」
「そ、そうですな……気を引き締めて参りましょう」

 ロドルフォが言うと、それ以上の寒村勇者の話題は出なかった。
 しかし、何といえばいいのだろう。僕自身が日本では弱者男性なのだから、どうしてもその寒村勇者の存在が気になってしまうものだ。

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