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1.異世界転生するオッサン
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「あなたの人生……話になりませんね」
僕は、女神さまに冷たくあしらわれた。
こう扱われるのも仕方ないほど、ダメで無価値な一生を送ったんだと痛感させられる。
こんな僕にも立派な名前がある。だけど、自己紹介したら、日本全国にいる同姓同名の人たちに迷惑と不快な思いをさせてしまうだろう。だから、ここでは伏せさせて欲しい。
僕は……43歳でこの世を去ったのだが、その死因はゲームのやり過ぎだ。
14歳のときにクラスメイト達に虐められ、それが原因で不登校となり、命尽きるその日までゲームをしたり、競馬を観戦したり、エロサイトを見てよだれを垂らしたり、匿名掲示板で暴れたりと、好き勝手なことをして過ごしてきた。
そして、一生の中で一度たりとも働くことはなく、最後の方は両親からも「働け」とさえも言われなくなったゴミだ。
親戚や近所の奴らからも、クズ扱いされて白い目で見られていたが、それだけの価値しかなかったと思う。
女神様も「話になりませんね」という言葉で止めてくれたのは、ある意味で温情なのだろう。口の悪い神様なら「今すぐに地獄に堕ちろクズ!」と言われていてもおかしくない。
こんな僕でも、最期くらいは言い訳しないでゴミ箱に捨てられたいと思う。
「わかってますよ……地獄でも落としてください」
そう伝えると、女神様は困った顔をしていた。
「地獄というのは、悪人として力の限り生きた人間が行く場所です。貴方のような未熟者などを送れば、鬼たちに迷惑がかかってしまいます」
じゃあどうすればいいんだ……という言葉が喉から出かかったとき、女神様は腕を組んで考え込んだ。
「そうですねぇ……それではこうしましょう」
視線を上げると、女神様は言った。
「これから、ある異世界に貴方を転生させます……それを延長戦として、貴方の魂の価値を測ります」
「そこでも、大したことができなければ?」
聞き返すと、女神様はにっこりと笑った。どうやらかなり自信があるようだ。
「それはあり得ません。貴方の魂は否が応でも……善か悪かのどちらかに傾くことになります」
「…………」
そう言うと共に指をはじくと、僕の周りは光に包まれていき、目を固く瞑っていた。
――――――――
――――
――
―
再び目を開けると、何だか体の様子がおかしい。
そっと手を上げてみると、手のひらが子供の……いや、赤ちゃんのように小さく縮んでいて、体を起こそうとしてもどういうわけか動けない。
それだけでなく、足も縮んでいるようだし、何がどうなっているのだろう。
口を開いて何かを発音しようとしても、「あ、ああ……あっ……」という声しか出ない。
これって……これってもしかして、赤ん坊に戻ってしまったということか!?
おいおい、ちょっと待てと思った。
ここはどこかの村の屋外だ。まだ、布のようなモノに包まれているから凍えることはないが、これで雨でも降ろうものなら……いや、野犬とかに見つかることの方がヤバいぞ!
何だか心細くなると、身体が勝手に泣き声をあげはじめた。
しばらく泣き叫んでいると、ドアが開く音が聞こえてきた。
姿を見せたのは、まだ若い女性だ。茶髪で西洋の人という雰囲気だが、その背中には鳥のような翼が生えている。
「…………」
その言葉はわからないが、彼女はとても気の毒そうな顔をしながら僕を抱き上げ、そのまま家へと案内してくれた。
彼女はそのまま、家の中にいる有翼人の旦那と思しき人に声をかけた。
「…………」
「…………」
その旦那さんは、あまり気が進まなそうな顔をしながら近づき、僕の顔を覗き込んできた。
「…………」
「…………」
貧乏そうな家庭なので、旦那さんは受け入れることに難色を示しているのだろう。その気持ちはよくわかる。僕が彼の立場なら、捨ててこいと言っているところだ。
だけど、奥さんは僕を抱きしめたまま、何かを反論していた。
「…………」
「…………」
何かを言われると、旦那さんは頭を掻きながら頷いた。
なにが決め手となったのかはわからないが、奥さんは鼻歌を口ずさみながら、僕を着替えさせてからミルクを口移ししてくれた。
どうやら、僕はこの家に居てもいいようだ。本当は母乳が……っと、そんな贅沢を言ってはいかん、僕のスケベ!
こうして、貧しいながらも人の良さそうな夫婦に引き取られた僕は、少しずつだが言葉がわかるようになった。僕自身が特に学習しようとはしていないので、赤子だから覚えられるのだろう。
最初は難色を示していた父親も、少しずつだが僕の頭を撫でるようになったとき、奥さんのお腹が少しずつ膨れはじめた。
どうやら、子供に恵まれない夫婦ではなかったようだ。
奥さんはそれでも僕を育てることを中断せずに、お腹の中の子供の世話をしながら、僕の世話をし、更に家事全般を請け負うという、前世の母親顔負けの家事をしてみせた。
この中世世界には、洗濯機やパン焼き器などないのだから、想像以上に大変なはずだ。
やがて、僕が自分の手足で動き回れるようになったときには、お腹の中の子供も生まれた。
女の子だった……。
生まれたばかりの時、彼女はしっかりとした産声をあげ、私は精一杯頑張って生きていくぞという意気込みを感じさせる。こんなことを言うのは兄バカとなってしまうかもしれないが……
…………
…………
コイツはきっと、凄い女の子に育つんじゃないかと、そんな予感がした。
【拾ってくれた女性】
僕は、女神さまに冷たくあしらわれた。
こう扱われるのも仕方ないほど、ダメで無価値な一生を送ったんだと痛感させられる。
こんな僕にも立派な名前がある。だけど、自己紹介したら、日本全国にいる同姓同名の人たちに迷惑と不快な思いをさせてしまうだろう。だから、ここでは伏せさせて欲しい。
僕は……43歳でこの世を去ったのだが、その死因はゲームのやり過ぎだ。
14歳のときにクラスメイト達に虐められ、それが原因で不登校となり、命尽きるその日までゲームをしたり、競馬を観戦したり、エロサイトを見てよだれを垂らしたり、匿名掲示板で暴れたりと、好き勝手なことをして過ごしてきた。
そして、一生の中で一度たりとも働くことはなく、最後の方は両親からも「働け」とさえも言われなくなったゴミだ。
親戚や近所の奴らからも、クズ扱いされて白い目で見られていたが、それだけの価値しかなかったと思う。
女神様も「話になりませんね」という言葉で止めてくれたのは、ある意味で温情なのだろう。口の悪い神様なら「今すぐに地獄に堕ちろクズ!」と言われていてもおかしくない。
こんな僕でも、最期くらいは言い訳しないでゴミ箱に捨てられたいと思う。
「わかってますよ……地獄でも落としてください」
そう伝えると、女神様は困った顔をしていた。
「地獄というのは、悪人として力の限り生きた人間が行く場所です。貴方のような未熟者などを送れば、鬼たちに迷惑がかかってしまいます」
じゃあどうすればいいんだ……という言葉が喉から出かかったとき、女神様は腕を組んで考え込んだ。
「そうですねぇ……それではこうしましょう」
視線を上げると、女神様は言った。
「これから、ある異世界に貴方を転生させます……それを延長戦として、貴方の魂の価値を測ります」
「そこでも、大したことができなければ?」
聞き返すと、女神様はにっこりと笑った。どうやらかなり自信があるようだ。
「それはあり得ません。貴方の魂は否が応でも……善か悪かのどちらかに傾くことになります」
「…………」
そう言うと共に指をはじくと、僕の周りは光に包まれていき、目を固く瞑っていた。
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再び目を開けると、何だか体の様子がおかしい。
そっと手を上げてみると、手のひらが子供の……いや、赤ちゃんのように小さく縮んでいて、体を起こそうとしてもどういうわけか動けない。
それだけでなく、足も縮んでいるようだし、何がどうなっているのだろう。
口を開いて何かを発音しようとしても、「あ、ああ……あっ……」という声しか出ない。
これって……これってもしかして、赤ん坊に戻ってしまったということか!?
おいおい、ちょっと待てと思った。
ここはどこかの村の屋外だ。まだ、布のようなモノに包まれているから凍えることはないが、これで雨でも降ろうものなら……いや、野犬とかに見つかることの方がヤバいぞ!
何だか心細くなると、身体が勝手に泣き声をあげはじめた。
しばらく泣き叫んでいると、ドアが開く音が聞こえてきた。
姿を見せたのは、まだ若い女性だ。茶髪で西洋の人という雰囲気だが、その背中には鳥のような翼が生えている。
「…………」
その言葉はわからないが、彼女はとても気の毒そうな顔をしながら僕を抱き上げ、そのまま家へと案内してくれた。
彼女はそのまま、家の中にいる有翼人の旦那と思しき人に声をかけた。
「…………」
「…………」
その旦那さんは、あまり気が進まなそうな顔をしながら近づき、僕の顔を覗き込んできた。
「…………」
「…………」
貧乏そうな家庭なので、旦那さんは受け入れることに難色を示しているのだろう。その気持ちはよくわかる。僕が彼の立場なら、捨ててこいと言っているところだ。
だけど、奥さんは僕を抱きしめたまま、何かを反論していた。
「…………」
「…………」
何かを言われると、旦那さんは頭を掻きながら頷いた。
なにが決め手となったのかはわからないが、奥さんは鼻歌を口ずさみながら、僕を着替えさせてからミルクを口移ししてくれた。
どうやら、僕はこの家に居てもいいようだ。本当は母乳が……っと、そんな贅沢を言ってはいかん、僕のスケベ!
こうして、貧しいながらも人の良さそうな夫婦に引き取られた僕は、少しずつだが言葉がわかるようになった。僕自身が特に学習しようとはしていないので、赤子だから覚えられるのだろう。
最初は難色を示していた父親も、少しずつだが僕の頭を撫でるようになったとき、奥さんのお腹が少しずつ膨れはじめた。
どうやら、子供に恵まれない夫婦ではなかったようだ。
奥さんはそれでも僕を育てることを中断せずに、お腹の中の子供の世話をしながら、僕の世話をし、更に家事全般を請け負うという、前世の母親顔負けの家事をしてみせた。
この中世世界には、洗濯機やパン焼き器などないのだから、想像以上に大変なはずだ。
やがて、僕が自分の手足で動き回れるようになったときには、お腹の中の子供も生まれた。
女の子だった……。
生まれたばかりの時、彼女はしっかりとした産声をあげ、私は精一杯頑張って生きていくぞという意気込みを感じさせる。こんなことを言うのは兄バカとなってしまうかもしれないが……
…………
…………
コイツはきっと、凄い女の子に育つんじゃないかと、そんな予感がした。
【拾ってくれた女性】
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