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8.リュドの初陣

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 マーズヴァン天馬騎士隊の襲来。数は9騎。
 父エドモンは僕に乗馬したまま、妹のイネスへと言った。
「すぐに隅に隠れていなさい!」
「は、はい!」


 僕は敵天馬隊を睨んだ。
 いくら父親が弓の名手と言っても、相手は9騎……しかも、こちらは飛べないというデメリットを背負っている。警鐘が鳴り響いて、次々と味方が駆け付けると言っても、決していい状況ではない。
「下がれ……なるべく引き付ける」
『了解!』

 僕が修練場の奥へと退避すると、敵天馬騎士たちは格好の的を見つけたと言わんばかりに攻撃態勢を取った。
 長弓を構えた天馬騎士が4人。炎魔法を構える天馬騎士が2人。隊長格の連中は指示を出しつつ、周囲の様子を監視しているようだ。連携の取れた戦い方じゃないか……クソッ!

「ぐはははは……!」
「くたばれ、地上人ども!」
 次々と矢や炎魔法が放たれると、そのほとんどが僕を目掛けて向かってきた。いくら父さんのけん制アローでも、この全てを撃ち落とすことはできない。
 避けきれるか!?

 父さんは、まっすぐに僕に向かってきた矢を撃ち落とすと、僕は両足を素早く真横に動かして、攻撃のほとんどを避けた。だけど……炎魔法だけは直撃してしまう!

 そう危機感を覚えたとき、僕の額から青い光が放たれ、周囲を水の膜のようなモノが覆っていた。
 直後の炎が、僕の目の前と周囲へと広がっていく。

 この薄い水の膜で守り切れるだろうか。膜のあちこちが沸騰していき、ところどころが破れはじめていたが、次々と水蒸気に変わった頃には炎の風はなくなっていた。


 そして、一度は散会した敵天馬騎士隊の騎士たちは、誰もが苦々しい顔をしながら僕を睨んでいる。
 僕は角に、霊力を集中しながらも周囲の様子を探っていた。次に向かってくる敵天馬騎士は誰だ。特に背後は建物の影に隠れていて見えない。ここから奇襲を受けたら……厄介だな。

 とりあえずイネスは、僕から少し離れた建物の影にうずくまっているから、そう簡単には敵も手出しをできない。だとすると、敵が狙ってくるのは僕だろう。

 正面にいる敵は弓矢を構えているが、射かけてくる様子はない。お父さんも矢を持ったまま狙いに行かないので、僕の短い水魔法の射程距離では、到底届かない。

 それよりも敵の攻撃を避けることが大事だ。
 敵は正面から来るだろうか。いいや右側面、左側面。いいや……やはりセオリーと言えば……。
 僕は一計を案じることにした。

「まさか……!」
 父親エドモンの頬から汗が滴り落ちて、僕の肩にぶつかった直後、1騎の敵天馬騎士が背後から姿を現した。
 完全に僕の死角から現れており、もらったと言わんばかりに大弓を構えている。

 だけど、だけどさ……狭い背後という死角があることは、こちらも重々に承知しているんだよ。
 僕は前を睨んだまま角を光らせると、そのまま背後に向かって水塊を斉射した。

 敵天馬騎士は、僕の水塊をモロに顔面に受けたらしく、修練場の真ん中あたりに落馬すると、そのままカラウマになった天馬はバサバサと逃げ出していく。
 錐もみになって落ちた敵騎士は、苦しそうに呻いたまま逃げていく天馬に手を向けると、やがて力尽きた様子で倒れ込んだ。


 敵天馬騎士の1人が、悔しそうに僕を睨んで弓を向けてきたが、別方向から攻撃を受けると舌打ちをして逃げ出していった。
 次々と味方の天馬騎士隊や有翼人隊が向かってくると、敵天馬騎士は追い払われるように逃げ出していく。

 父エドモンも、辺りを見回しながら言った。
「リュド、今のうちに変身を解いて、イネスと一緒に建物の中に避難しなさい。もう……MPの残量が4割を切っている」

 僕はその言葉を聞いて、ハッとしていた。
 そうだった。この状態を続けるだけでも大変なのに、僕は戦闘行為までしたんだ。無我夢中で戦っていると……意外と気付かないモノなんだな。
「わかりました」


 間もなく変身を解いて服を着ると、僕は疲れのあまり修練場の壁に寄りかかっていた。
 さすがにメンタルポイントというだけあって、4割を下回ると倦怠感に加えて、まぶたの辺りにまで疲労を感じてくる。気力を振り絞れば、まだやれそう……と感じることがかえって怖い。
「お疲れ様、お兄ちゃん」

 イネスが笑顔で言ってくれると、何だかとても癒される。
「ああ、イネスも怖かっただろう……何とかやり過ごせて良かったよ」
 そう答えると、イネスは真剣な表情をした。
「私たちでさえも、あれほど怖かったのだから……きっと子供とかお年寄りはもっと怖いと思う」
 彼女は空を睨んだ。

「私……まだまだ強くならないと……お兄ちゃんのように、お父さんを守れるくらいに!」
 何だか勘違いしているようだから、僕は慌てた。
「いやいや、あれはたまたま……偶然だから、あまり真に受けないでくれよ!」

 そう伝えると、イネスはにっこりと笑った。
「ううん、そんなことはないと思う……それに、お兄ちゃんのレベル……上がってたよ?」

 僕は自分の背中を鏡に向けてから服をめくってみると、そこにはこう書かれていた。


名前:リュドヴィック
種族:ヒューマン15歳
アビリティA:ユニコーンケンタウロス
アビリティB:メンタルタイマー


レベル   8
HP  321 / 321
LP    5 /   5
MP   72 / 191


【ギルドの中に戻るリュド(怒ると角は青く光る)】
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