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12.初めての着地
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そのまま故郷の空を飛び続けていると、見覚えのある天馬騎士が近づいてきた。
その金髪はヘルムに隠れているが、身のこなしですぐにわかる。
『貴女は……!』
イネスも僕にしがみついたまま軽く手を振ると、女性天馬騎士は僕のすぐ後方からゆっくりと近づいてきた。
「誰かと思えば、リュド君とイネスさんではありませんか」
「実は……」
イネスはすぐに説明しようとしていたが、女性騎士は手で静止した。
「詳しいお話は、着地してから伺います……ここから先は飛行禁止空域なので……」
そうか。そう言えば、砦や城などの軍施設の周囲2キロメートルは、飛行してはいけない決まりになっているんだった。
『わかりました。なるべくご迷惑をかけないように飛びます』
そう伝えると、彼女は隣を飛びながら言った。
「ちなみに、今回が初めてですか?」
『はい。イネスにおもしろいアビリティが発現しまして……』
女性騎士は横目で僕たちを見ると、やがて頷く。
「もしや、フライングでは?」
「よ、よくわかりましたね!」
イネスも僕も言い当てられたことに驚いたが、フライングはたまに見かける能力なのだそうだ。
「ですが、我がツーノッパ王国にとっては、とても貴重で重宝する能力なのです。特に最近は深刻な天馬不足ですから」
その話は、僕も聞いたことがある。
昔ペガサスは、空軍が独占していたというが、最近では陸軍や海軍も欲しがるだけでなく、貴族や自警団も様々な理由で集めていると聞く。
しばらく女性天馬騎士と並んで飛んでいると、イネスが言ってきた。
「お兄ちゃん、そろそろ……高度60メートルだよ」
『ちなみにMPの残量は?』
「 156/ 200 だよ!」
僕は、まずまずだと思いながら頷いた。
最初のウマ変身と飛び立つ際に、だいぶMPを使ったので心配だったが、空にさえ出てしまえば暫くは飛んでいられるようだ。
おや、僕たちの話に興味を持ったのか、女性天馬騎士がこちらを見た。
「その様子だと、霊力を使って飛んでいるようですね」
『そうなんですよ。メンタルポイントが燃料代わりなので、切らさないように気をつけています』
そう伝えたら、天馬騎士は前を睨みながら答えた。
「私の同僚にも、フライングの使い手がいましてね……彼の話では、最も精神負担が少なく飛ぶ速度というのがあるそうです」
その言葉を聞いて僕は納得した。
どうやら、この世界でも【巡航速度】というものが存在するようだ。これは簡単に言えば、最も燃料消費のわりに移動速度の出る理想的な速度のことだ。
試しにもう少し、移動速度を下げてゆったりと飛んでみると、なんだか楽に飛べている感じがした。
『イネス……いまMPはいくつ?』
「142だよ」
『141になったら、140になるまで何秒かかっているかカウントして』
「わかった」
まもなく141になったらしく、イネスはカウントをはじめた。彼女は一定間隔で数字を読み上げていき……
「13……1……いま、変わったよ」
なるほど、今飛んでいる速度なら、1.35倍くらい長く空を飛んでいられるのか。
確かに、飛びはじめた頃に比べると、ムダな力もだいぶ抜けているけど、この速度はしっかりと覚えておこう。
もうしばらく飛び続け、残りMPが100を下回ったところで、教会に戻ることにした。
『では、僕たちはそろそろ戻ります』
「わかりました。この辺りで着地に向く場所は、教会の裏庭ですね」
彼女は辺りを見渡すと、真剣な表情をする。
「少し風も出てきています。着地の際の突風に気をつけてください!」
突風か。
僕はしっかりと頷くと、教会の裏庭に人がいないことを確認した。そして慎重に高度を下げていく。
風の精霊の加護があったのか、僕たちは特に強風に煽られることなく教会の裏庭へと降り立った。
しかし、まだ体には勢いが残っているので、庭を走りながら少しずつ方向転換してゆっくりと減速していく。
僕の脚運びは、やがて歩いているくらいにまで落ちると、なんとか止まることができた。
背中に乗っていたイネスは、天馬騎士へと手を振っている。
「ありがとう! ブリジットさん!」
どうやら、あの女性天馬騎士の名前はブリジットというらしい。彼女は軽く手を振ると、いつも通りの真剣な表情になってから、砦の方角へと飛び去っていった。
さて、このブリジットだが、わずか数日後に再び僕たちと会うことになるのだが、それは次の話ということにしておくとしよう。
【一角獣リュドヴィック&イネス】
【イネス騎乗状態のステータス】
レベル 9
空中攻撃能力 C ★★★
地上攻撃能力 D ★
攻撃命中率 C ★★★
防御能力 C ★★★
回避能力 C ★★★★
航続距離 C ★★
探索能力 B ★★★★★
本作の主人公にして、ケンタウロスという特殊能力を持つ青年。
普段はヒューマンだが、能力を発動するとウマや一角獣になれる。普通のペガサスとは違い、単独でも戦いに参加することはできるが、妹イネスの助力がなければ空を飛ぶことはできない。
ちなみに、イネスが能力を発動すれば、リュド単体で戦闘することもできるが、徐々にフライングの効率は低下していくので、時間が経つごとに航続距離が下がっていくというデメリットがある。
つまり、イネスはリュドの背中にいるときは、常に飛びやすくするために微調整をしているのである。
その金髪はヘルムに隠れているが、身のこなしですぐにわかる。
『貴女は……!』
イネスも僕にしがみついたまま軽く手を振ると、女性天馬騎士は僕のすぐ後方からゆっくりと近づいてきた。
「誰かと思えば、リュド君とイネスさんではありませんか」
「実は……」
イネスはすぐに説明しようとしていたが、女性騎士は手で静止した。
「詳しいお話は、着地してから伺います……ここから先は飛行禁止空域なので……」
そうか。そう言えば、砦や城などの軍施設の周囲2キロメートルは、飛行してはいけない決まりになっているんだった。
『わかりました。なるべくご迷惑をかけないように飛びます』
そう伝えると、彼女は隣を飛びながら言った。
「ちなみに、今回が初めてですか?」
『はい。イネスにおもしろいアビリティが発現しまして……』
女性騎士は横目で僕たちを見ると、やがて頷く。
「もしや、フライングでは?」
「よ、よくわかりましたね!」
イネスも僕も言い当てられたことに驚いたが、フライングはたまに見かける能力なのだそうだ。
「ですが、我がツーノッパ王国にとっては、とても貴重で重宝する能力なのです。特に最近は深刻な天馬不足ですから」
その話は、僕も聞いたことがある。
昔ペガサスは、空軍が独占していたというが、最近では陸軍や海軍も欲しがるだけでなく、貴族や自警団も様々な理由で集めていると聞く。
しばらく女性天馬騎士と並んで飛んでいると、イネスが言ってきた。
「お兄ちゃん、そろそろ……高度60メートルだよ」
『ちなみにMPの残量は?』
「 156/ 200 だよ!」
僕は、まずまずだと思いながら頷いた。
最初のウマ変身と飛び立つ際に、だいぶMPを使ったので心配だったが、空にさえ出てしまえば暫くは飛んでいられるようだ。
おや、僕たちの話に興味を持ったのか、女性天馬騎士がこちらを見た。
「その様子だと、霊力を使って飛んでいるようですね」
『そうなんですよ。メンタルポイントが燃料代わりなので、切らさないように気をつけています』
そう伝えたら、天馬騎士は前を睨みながら答えた。
「私の同僚にも、フライングの使い手がいましてね……彼の話では、最も精神負担が少なく飛ぶ速度というのがあるそうです」
その言葉を聞いて僕は納得した。
どうやら、この世界でも【巡航速度】というものが存在するようだ。これは簡単に言えば、最も燃料消費のわりに移動速度の出る理想的な速度のことだ。
試しにもう少し、移動速度を下げてゆったりと飛んでみると、なんだか楽に飛べている感じがした。
『イネス……いまMPはいくつ?』
「142だよ」
『141になったら、140になるまで何秒かかっているかカウントして』
「わかった」
まもなく141になったらしく、イネスはカウントをはじめた。彼女は一定間隔で数字を読み上げていき……
「13……1……いま、変わったよ」
なるほど、今飛んでいる速度なら、1.35倍くらい長く空を飛んでいられるのか。
確かに、飛びはじめた頃に比べると、ムダな力もだいぶ抜けているけど、この速度はしっかりと覚えておこう。
もうしばらく飛び続け、残りMPが100を下回ったところで、教会に戻ることにした。
『では、僕たちはそろそろ戻ります』
「わかりました。この辺りで着地に向く場所は、教会の裏庭ですね」
彼女は辺りを見渡すと、真剣な表情をする。
「少し風も出てきています。着地の際の突風に気をつけてください!」
突風か。
僕はしっかりと頷くと、教会の裏庭に人がいないことを確認した。そして慎重に高度を下げていく。
風の精霊の加護があったのか、僕たちは特に強風に煽られることなく教会の裏庭へと降り立った。
しかし、まだ体には勢いが残っているので、庭を走りながら少しずつ方向転換してゆっくりと減速していく。
僕の脚運びは、やがて歩いているくらいにまで落ちると、なんとか止まることができた。
背中に乗っていたイネスは、天馬騎士へと手を振っている。
「ありがとう! ブリジットさん!」
どうやら、あの女性天馬騎士の名前はブリジットというらしい。彼女は軽く手を振ると、いつも通りの真剣な表情になってから、砦の方角へと飛び去っていった。
さて、このブリジットだが、わずか数日後に再び僕たちと会うことになるのだが、それは次の話ということにしておくとしよう。
【一角獣リュドヴィック&イネス】
【イネス騎乗状態のステータス】
レベル 9
空中攻撃能力 C ★★★
地上攻撃能力 D ★
攻撃命中率 C ★★★
防御能力 C ★★★
回避能力 C ★★★★
航続距離 C ★★
探索能力 B ★★★★★
本作の主人公にして、ケンタウロスという特殊能力を持つ青年。
普段はヒューマンだが、能力を発動するとウマや一角獣になれる。普通のペガサスとは違い、単独でも戦いに参加することはできるが、妹イネスの助力がなければ空を飛ぶことはできない。
ちなみに、イネスが能力を発動すれば、リュド単体で戦闘することもできるが、徐々にフライングの効率は低下していくので、時間が経つごとに航続距離が下がっていくというデメリットがある。
つまり、イネスはリュドの背中にいるときは、常に飛びやすくするために微調整をしているのである。
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