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37.計略を仕掛けるリュド

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 間もなく僕たちはデュッセ村に戻ると、ペガサスたちに休憩を与えた。
 さすがに空襲を行ったのだから、2から3時間は休ませないと、彼らもまともに空を飛ぶことができないだろう。

 僕はハイエルフのアルディザから、敵第3陣の情報を聞いていた。
「数はおおよそ105人。もうじき……こちらに来ます」

 頷きながら、仲間たちの様子を見た。
 ウェアウルフに数名のけが人が出ているので、こちら側の戦力はウェアウルフ45人、マーメイド35人。そして休憩中の天馬8頭だ。
 最後の霧が出るまでは、もう少し時間がかかるだろうから、ここはしっかりと村に立てこもって敵を疲れさせてから、天馬隊と共同で倒すのがベターだろう。

 人魚隊に指示を出そうと思って立ち上がると、アルディザが言った。
「一角獣様……急に敵部隊が撤収をはじめました!」
『なんだと……?』

 これは予想外の動きだ。僕は少し考えるとそのまま地面に座ることにした。これは敵の罠かもしれない。下手に人魚隊に指示を出すと、川の水面が動いて彼女たちの位置が敵に気付かれるかもしれない。
『念のため、少し様子を見る。君は監視を続けてくれ』
「承知いたしました」


 しばらく敵の様子を監視していたアルディザだったが、少しするとこちらを見た。
「……盗聴機能を付けた草が、敵の会話を傍受しました」
『なんて言っていた?』
「敵はどうやら、1陣と2陣が倒されたことを察して退却しているようです」
『……なるほど』

 隣で話を聞いていた、ウェアウルフのアルフレートもこちらを見た。
「……追撃しますか?」
『その必要はない。むしろ……これはこれでチャンスかもしれないな』

 そう呟くと、周りにいた仲間たちは不思議そうに僕を見てきたが、アルディザだけは違った。彼女は納得した様子で微笑んでいる。
「どういうことなの?」

 イネスが聞いてきたので、僕はゆっくりと答えた。
『他の部隊が大被害を出して、第3陣だけ無傷だったんだ。そこに……第3陣は我々に内通して情報を横流ししたと情報を流したらどうなる?』


 今の言葉を聞いた、仲間たちはハッとした顔で僕を見てきた。
 そう、僕はオンラインゲームにはまっていた時に、正面から戦っても勝てない敵対ギルドを、こういう搦め手で崩壊させたこともある。
 アルフレートは頷くと言った。
「なるほど。現実的な案だと思いますが……どう情報を流しましょう?」

 僕はウェアウルフたちを見ると、その中に女性がいることに気付いた。ウェアウルフの中で女性はお喋りで浅はかという偏見を持たれている。
「……彼女たちにお願いしようかな」



 間もなくウェアウルフの女性たち3人は、有頂天に笑いながら捕虜にしたウェアウルフたちに食料を持って行きながら話をしていた。
「でしょ、やっぱりアルフレート様こそ樹海でナンバーワンの戦士よ!」
「そーそー! デュッセ村に生まれて良かったよね~」

 彼女たちは食事を捕虜に出すが、おしゃべりに夢中という様子で話を続けている。
「脳筋とか周りの村に言われてるけど、全然そんなことないよね」
「全くよ、頭もいいんだし……絶対に私、あの人のお嫁さんになる!」
「ダメよ、彼のお嫁さんは私がなる!」
「アンタたち2人とも、選ばれないから安心しなさい」

 その話を聞いていた、捕虜のウェアウルフたちはつまらなそうにしていたが、やがて耳をピクリと動かした。3人の1人がポロリとあることを口にしたからだ。
「あの人も、今回は楽だったって言ってたよね~」
「うん、事前にわかったらしいもんね」

 そのまま彼女たちは、カギをかけ忘れたまま立ち去ったが、捕虜のウェアウルフたちはお互いを見合っている。
「おい、今……女ども、なんて言っていた?」
「なんか事前にわかった……とか言っていなかったか?」

 捕虜の2人がそう考えていたら、奥にいたウェアウルフも言った。
「そういえば第3陣が……まだ来ていないな。それに……俺たちに取り調べが一切ないことも気になる」


 その言葉を聞いた捕虜2人は訝しい顔になっていく。
「それってまさか……俺たちに聞かなくても、作戦の全容が筒抜けってことか?」
「見ろ……ドアが開いてる。あのバカな女ども……閉め忘れたんだ!」

「よし、戻ってリーダーに報告だ!」


 彼らは僕たちの目論見通り逃げ出すと、そのまま敵の本隊250人のグループに合流した。
 報告を聞いた敵リーダーは、目をぱっちりと開いたまま喉を動かしている。
「第1陣と第2陣が敗走!?」
「はい。そして俺たち……捕まっていたのですが、どうやら第3陣の奴らが前もって人魚側と通じていたようなのです!」

 敵リーダーは、声を荒げた。
「お前たち、適当なこと言ってるんじゃないぞ! もし間違っていたら……」
「間違いないです! 給仕係の頭の悪そうな女どもが言っていたんです。こちらの情報が全部漏れていたから楽だったって!」
「それに、第3陣は戦うこともなく引き返しています! 実際に脱走した後に周辺の道を確認してみましたが、本当に俺たちがやられたのを確認して帰っていったって感じの臭いが残っていました!!」


 敵リーダーは、額に青筋を走らせると、やがて言った。
「……全軍、ボルル村に向かうぞ!」
「は、はい!」

 普通なら、ドアを開けたまま去ったところで、こちらの罠だと気づきそうなものだが、男尊女卑の考えと自分たちが負けて捕虜になったことで、敵のウェアウルフたちは正常な思考ができなかったようだ。

 こうして、敵同士の仲間割れがはじまったのである。


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