6 / 32
流 3
しおりを挟む
「よーし!んじゃ、10分きゅうけーい!」
汗だくのデカイ男たちが、うめき声をあげながら座りこんでいく。
俺は涼をとるため、閉め切っていたドアを開け、風を送り込んだ。
うん。涼しい。
「あ~風!恵の風よ~」「やっぱドア開けといた方がよくない?」
他のヤツらが群がってきて、一気に空気がむわっと湿り気を帯びた気がした。
「ちょっと!こんなに集まったら意味ないだろ!離れろよ」
「あぁ?お前があっち行け!」
「そいえば流!あの子どうなった?」日野先輩が割り込んでくる。
「あの子?」
「だから!マネの話!」
「あぁ」
「なに!?」「なんの話だよ!」「ってマネって?!」「まさか……!」
一斉にしゃべり始めて、まじうるさい。俺が耳をふさぐジェスチャーをすると、「お前らうるさい!」先輩が一喝してくれた。
「ん~考え中みたい」
「まだかよ!早くしてほしいんだけど!」
「まだって、聞いたの昨日じゃん」
そう。昨日のお昼に雪ちゃんをバスケ部のマネに誘ってみたのだ。
即答するかと思いきや、「ちょっとすぐには……考えさせて……」と言われてしまった。
雪ちゃんって本当に俺のこと好きなのかなー?うれしがるかと思ったのに、反対に困った顔をされてしまった。
普通うれしいんしゃないの?俺と一緒にいられるし。
「早くしないと合宿始まっちゃうだろ!」
まぁそうなんだけど。
「ちょっちょっ!待てよ!」
キャプテンが口をはさむ。「まさか!新しいマネージャーを入れるのか?!」
「ってもとりあえず臨時な。合宿の時の。それにまだ……」
日野先輩が答えると、周りから「よっしゃー!!」と「大丈夫かよ!?」のだいたい2つの声が上がった。
「……言っとくけど、男だからな」
一気にテンションが下がった。……バカな人たちだな~。当たり前じゃん。
「なんだ男か……よかった」
キャプテンだけはほっとしている。
「キャプテン!なんで安心してるんですか?!」
「そうですよ!マネ……待望の女子マネが現れたのかと思ったのに!」
キャプテン以外はまだそんなことを言っている。みんな夢見過ぎ。
「なに言ってんだよ!お前らもう忘れたのかよ!去年の4月の乱を!」
日野先輩がブルッと声をひそませて言うと、あんなにうるさかったのがウソのように静まり返った。
「……そうだった……」
「じょっ、女子はダメだ……!」
去年の4月。俺たちが入部してから、マネージャーになりたいという女子が殺到した。
先輩たちに聞けば今まで、マネはいたりいなかったりだったらしい。その時はもう日野先輩がマネのような立場だったから、いらないっちゃいらなかったんだけど、やりたいと言うのを断ることもできず、結局様子見で入部させた。
すると……まぁ予想通りというか……。
ルールもろくに知らないし、仕事そっちのけで「キャーキャー」騒いでばかり。挙げ句の果てに、取っ組み合いのケンカになり、男共の方がドン引きしてしまったのだ。
ちなみにそのケンカの理由は、誰が俺と滝にタオルを渡すかでもめたらしい。
俺たちタオルくらい自分で取れまーす。というか他の人に触ってほしくないでーす。
結局そのことが原因で、女子マネは取らないという暗黙のルールができたのだった。
これが世に言う『4月の乱』である。はは。
「でもさ、男で今さらマネやってくれるヤツなんているのか?そもそも必要か?マネ」
キャプテンが聞くと、
「すいませんね!必要じゃなくて!」
日野先輩がキレる。
「うぉい!?違う違う!お前は別だろ!悪い悪い!」
キャプテン平謝りだ。
なんせうちのチームで1番強いのは日野先輩なんだから。キャプテンだけランメニューが増えるぞ……。
「まぁ俺も今さらムリだろうなと思ってたけど、流がとうだって言うから……」
キャプテンをにらみながら日野先輩が言う。
まぁこの時期に今さらマネをやってくれるヤツなんてほぼいない。
部活入るヤツはもう入ってるし、帰宅部のヤツらはそんなに興味ない部活の、しかもマネージャーなんて裏方の仕事を引き受けたりしない。
ウチの学校はテストが厳しい。
部活で成績残しても、スポーツ推薦でも、点が悪ければ延々と追試だ。
帰宅部のヤツらは、上の方の大学を狙っているから、もともと部活をやっている余裕なんてないんだ。
「流の知り合いか?」
「まぁ……」
雪ちゃんの困った顔が浮かんで、でも……と続ける。「まだ分かんない」
雪ちゃんは帰宅部だ。理由を聞いたら、「運動は苦手で……」と返ってきたから、絶対に入りたくないってほどじゃあないんだろう。
もし勉強のためにあえて入っていないなら、雪ちゃんならはっきりそう言う。
「とりあえず合宿だけでもやってくれると助かるんだけどなー……」
日野先輩は俺が思っているより、期待しているみたいだ。
「先輩、そんな大変なんですか?」
「つーか今なら、1年に手伝わせりゃいいんじゃね?」
「……その1年が問題なんだよ……」
ウチのバスケ部はもともとそこそこの強豪だ。
でも「そこそこ」なのだ。年によってかなりバラつきがあるが、シードは取れても優勝争いまでからめないのが常だったらしい。
それが去年の冬に全国初出場&ベスト16まで行ったから、にわか人気になってしまった。
そのせいで今年の新入部員が大幅に増えた。15人もいる。2、3年も合わせると30人だ。
そりゃ野球部やサッカー部に比べれば全然少ないが、正直バスケ部にとっては多すぎる。コートがごちゃごちゃして邪魔くさい。
去年はよかったなー……。
「なんでっすか?1年あんなにいるんだから……」
「だから余計にさ。ちょっと差がありすぎるだろ?」
日野先輩が言うことに納得したヤツときょとんとしたヤツに分かれた。
「経験値もだけどさー、気持ち的に?やる気的に?」
「そうなのか?」
ピンと来ていないのは、1年とあんまり関わっていないヤツらだろう。1年の世話をしたことのある2年やキャプテンは、うんうんとうなずいている。
実は俺もあんまり実感ない。昨日日野先輩に聞いたけど……1年に興味ないし。
「まぁこの時期なんて、1年は基礎メニューばっかだろ?」
今だって外でランニングのはずだ。
俺たちも入部してすぐなんて走りっぱなしだったし。
「あー、それで?高田とかが文句言ってんの?」
「いや、むしろ高田とか上手いヤツの方が、基礎練も大事って分かってるんだよ。あんま今までやってきてないヤツらの方が、文句たらたらなの」
「えーっ、まじで?ほとんど素人ってのも混じってんじゃん」
バスケ部のにわか人気の弊害で、部活になにしに来たんだかってのも混じっているらしい。
「こいつらのせいで、バスケをファッションとでも思ってるバカが増えたんだよなー」
日野先輩が、俺と滝を指差してそんなことを言うから、「俺たちのせいじゃないでしょ!」と笑う。
「……いや、間違いなくお前らのせいだ」
俺たち2人以外はその言葉に同意しているみたいで心外だ。
「確かになー……お前ら全国でも目立ったもんなー……双子のイケメンバスケットプレイヤー!テレビとか雑誌にも出ちゃって!」
「でもローカル局でしょ。そもそもバスケなんてまだマイナーだし」
俺たちだって出たくて出たわけじゃないのに……。
「今なんてSNSですぐ広まるからなー…俺の母親とかねーちゃんまで、お前らのこと知ってるんだぜ!」
「そうそう!大会の後、全然話したことなかった中学の同級生とかがいきなり、『お久しぶりです♡坂井君って琴山のバスケ部なんだよね?一色君、紹介して♡』とか来て、ちょう怖かったんだけど!」
「そりゃホラーだな……」
むちゃくちゃ言ってくれるなー。てかそれ!「俺らのせいじゃないじゃん」
「いやいや!お前らになんの責任もないかと言えばー……」
「……話ズレてるんだけど」
ずっと黙っていた滝が、ぼそっと言う。
「……なんの話だっけ?」
本当にウチの連中は単純なのばっかり。
「1年の話」滝が軌道修正してくれた。そうそう。1年とマネの話。つまり雪ちゃんの話だね。
「だからさ、そのチャラチャラした4、5人と他の真面目なやつとの温度差が激しくて……1年がもうギクシャクし始めてるんだよ……」
「……そんなのほっとけばいいじゃん。ついていけないならそのうち辞めるでしょ」
俺が突き放すと、
「お前……」滝以外の視線が痛い。だって1年なんてどうでもいいし。
「……まぁ、ぶっちゃけ俺もさっさと辞めてくれと思ってるけど」
「日野~お前まで!」
「って思ってても、あからさまに問題になってるわけじゃないし、やる気がないから辞めろとも言えないからな~」
「そりゃ、そうだろ!」
「合宿までに辞めそうにないんだよ」日野先輩はさも残念そうに言う。
「今までも高田とかは俺の仕事も手伝ってくれてたんだよ。荷物運んだら記録取ったり」
知らなかったという声がちらほら。俺も知らない。というか俺はその高田クンが分からない。
「別に頼んでるわけじゃなくって、本当に自主的に、な。だからあんま目立ってないんだけど……それをさ、あの4バカが!陰で『点数稼ぎかよ』とか『いい子ちゃん』とか言ってんの聞いて!黙ってらんなくて出てったらさ!俺にも『マネージャーが偉そうに』とか!」
「……そんなこと言ったの?」
おぉ、滝がちょっと声をひそめた。
「はぁ?あいつらこそ何様だよ!」
「マジだぜ!うちの影のボスの日野様になんてことを……!」
「そーだ!そーだ!」
まだ一斉にしゃべり始める。耳元でうるさっ。
「そんならなおさら雑用やらせた方がいいんじやね?裏方の苦労とかサポートの大事さとか分からせるためにも……」
3年の真面目な先輩が提案するが、「ムリ!」日野先輩は一刀両断だ。
「ムリムリ。たとえばさ、1年にそれぞれ雑用割り振っても、あいつらはやらない。結局他の1年の負担が増えるだけだって」
「え~そうか?俺たちが見張ってれば、そんなあからさまにサボったりしないだろ?」
「あいつらならやるぜ……『こういうことするためにマネージャーがいるんだろ』とか言って。つーか、そりゃやらせるだけならできるけどさ。正直、面倒くさい!なんで俺がそこまで気を使って時間も使って、あいつら躾(しつ)けなきゃなんないんだよ!俺はお母さんか!」
「「「あぁ~……」」」
「夏まで時間ないっつーのに。せっかく合宿でがっつりできるんだから、お前らの負担も増やしたくないし……1年使うと逆に時間使いそうだし!でも俺だけでやるには人数多すぎだし!」
みんなやっと日野先輩の切実さを実感できたようだ。
「……流、お前のその知り合いに、なんとしても頼め!日野が壊れる前に!!」
「……はーい」
「頼んだぞ」と方々から肩を叩かれたところで休憩が終わった。
……雪ちゃん、ごめんね……たぶんもう逃げられないよ。
汗だくのデカイ男たちが、うめき声をあげながら座りこんでいく。
俺は涼をとるため、閉め切っていたドアを開け、風を送り込んだ。
うん。涼しい。
「あ~風!恵の風よ~」「やっぱドア開けといた方がよくない?」
他のヤツらが群がってきて、一気に空気がむわっと湿り気を帯びた気がした。
「ちょっと!こんなに集まったら意味ないだろ!離れろよ」
「あぁ?お前があっち行け!」
「そいえば流!あの子どうなった?」日野先輩が割り込んでくる。
「あの子?」
「だから!マネの話!」
「あぁ」
「なに!?」「なんの話だよ!」「ってマネって?!」「まさか……!」
一斉にしゃべり始めて、まじうるさい。俺が耳をふさぐジェスチャーをすると、「お前らうるさい!」先輩が一喝してくれた。
「ん~考え中みたい」
「まだかよ!早くしてほしいんだけど!」
「まだって、聞いたの昨日じゃん」
そう。昨日のお昼に雪ちゃんをバスケ部のマネに誘ってみたのだ。
即答するかと思いきや、「ちょっとすぐには……考えさせて……」と言われてしまった。
雪ちゃんって本当に俺のこと好きなのかなー?うれしがるかと思ったのに、反対に困った顔をされてしまった。
普通うれしいんしゃないの?俺と一緒にいられるし。
「早くしないと合宿始まっちゃうだろ!」
まぁそうなんだけど。
「ちょっちょっ!待てよ!」
キャプテンが口をはさむ。「まさか!新しいマネージャーを入れるのか?!」
「ってもとりあえず臨時な。合宿の時の。それにまだ……」
日野先輩が答えると、周りから「よっしゃー!!」と「大丈夫かよ!?」のだいたい2つの声が上がった。
「……言っとくけど、男だからな」
一気にテンションが下がった。……バカな人たちだな~。当たり前じゃん。
「なんだ男か……よかった」
キャプテンだけはほっとしている。
「キャプテン!なんで安心してるんですか?!」
「そうですよ!マネ……待望の女子マネが現れたのかと思ったのに!」
キャプテン以外はまだそんなことを言っている。みんな夢見過ぎ。
「なに言ってんだよ!お前らもう忘れたのかよ!去年の4月の乱を!」
日野先輩がブルッと声をひそませて言うと、あんなにうるさかったのがウソのように静まり返った。
「……そうだった……」
「じょっ、女子はダメだ……!」
去年の4月。俺たちが入部してから、マネージャーになりたいという女子が殺到した。
先輩たちに聞けば今まで、マネはいたりいなかったりだったらしい。その時はもう日野先輩がマネのような立場だったから、いらないっちゃいらなかったんだけど、やりたいと言うのを断ることもできず、結局様子見で入部させた。
すると……まぁ予想通りというか……。
ルールもろくに知らないし、仕事そっちのけで「キャーキャー」騒いでばかり。挙げ句の果てに、取っ組み合いのケンカになり、男共の方がドン引きしてしまったのだ。
ちなみにそのケンカの理由は、誰が俺と滝にタオルを渡すかでもめたらしい。
俺たちタオルくらい自分で取れまーす。というか他の人に触ってほしくないでーす。
結局そのことが原因で、女子マネは取らないという暗黙のルールができたのだった。
これが世に言う『4月の乱』である。はは。
「でもさ、男で今さらマネやってくれるヤツなんているのか?そもそも必要か?マネ」
キャプテンが聞くと、
「すいませんね!必要じゃなくて!」
日野先輩がキレる。
「うぉい!?違う違う!お前は別だろ!悪い悪い!」
キャプテン平謝りだ。
なんせうちのチームで1番強いのは日野先輩なんだから。キャプテンだけランメニューが増えるぞ……。
「まぁ俺も今さらムリだろうなと思ってたけど、流がとうだって言うから……」
キャプテンをにらみながら日野先輩が言う。
まぁこの時期に今さらマネをやってくれるヤツなんてほぼいない。
部活入るヤツはもう入ってるし、帰宅部のヤツらはそんなに興味ない部活の、しかもマネージャーなんて裏方の仕事を引き受けたりしない。
ウチの学校はテストが厳しい。
部活で成績残しても、スポーツ推薦でも、点が悪ければ延々と追試だ。
帰宅部のヤツらは、上の方の大学を狙っているから、もともと部活をやっている余裕なんてないんだ。
「流の知り合いか?」
「まぁ……」
雪ちゃんの困った顔が浮かんで、でも……と続ける。「まだ分かんない」
雪ちゃんは帰宅部だ。理由を聞いたら、「運動は苦手で……」と返ってきたから、絶対に入りたくないってほどじゃあないんだろう。
もし勉強のためにあえて入っていないなら、雪ちゃんならはっきりそう言う。
「とりあえず合宿だけでもやってくれると助かるんだけどなー……」
日野先輩は俺が思っているより、期待しているみたいだ。
「先輩、そんな大変なんですか?」
「つーか今なら、1年に手伝わせりゃいいんじゃね?」
「……その1年が問題なんだよ……」
ウチのバスケ部はもともとそこそこの強豪だ。
でも「そこそこ」なのだ。年によってかなりバラつきがあるが、シードは取れても優勝争いまでからめないのが常だったらしい。
それが去年の冬に全国初出場&ベスト16まで行ったから、にわか人気になってしまった。
そのせいで今年の新入部員が大幅に増えた。15人もいる。2、3年も合わせると30人だ。
そりゃ野球部やサッカー部に比べれば全然少ないが、正直バスケ部にとっては多すぎる。コートがごちゃごちゃして邪魔くさい。
去年はよかったなー……。
「なんでっすか?1年あんなにいるんだから……」
「だから余計にさ。ちょっと差がありすぎるだろ?」
日野先輩が言うことに納得したヤツときょとんとしたヤツに分かれた。
「経験値もだけどさー、気持ち的に?やる気的に?」
「そうなのか?」
ピンと来ていないのは、1年とあんまり関わっていないヤツらだろう。1年の世話をしたことのある2年やキャプテンは、うんうんとうなずいている。
実は俺もあんまり実感ない。昨日日野先輩に聞いたけど……1年に興味ないし。
「まぁこの時期なんて、1年は基礎メニューばっかだろ?」
今だって外でランニングのはずだ。
俺たちも入部してすぐなんて走りっぱなしだったし。
「あー、それで?高田とかが文句言ってんの?」
「いや、むしろ高田とか上手いヤツの方が、基礎練も大事って分かってるんだよ。あんま今までやってきてないヤツらの方が、文句たらたらなの」
「えーっ、まじで?ほとんど素人ってのも混じってんじゃん」
バスケ部のにわか人気の弊害で、部活になにしに来たんだかってのも混じっているらしい。
「こいつらのせいで、バスケをファッションとでも思ってるバカが増えたんだよなー」
日野先輩が、俺と滝を指差してそんなことを言うから、「俺たちのせいじゃないでしょ!」と笑う。
「……いや、間違いなくお前らのせいだ」
俺たち2人以外はその言葉に同意しているみたいで心外だ。
「確かになー……お前ら全国でも目立ったもんなー……双子のイケメンバスケットプレイヤー!テレビとか雑誌にも出ちゃって!」
「でもローカル局でしょ。そもそもバスケなんてまだマイナーだし」
俺たちだって出たくて出たわけじゃないのに……。
「今なんてSNSですぐ広まるからなー…俺の母親とかねーちゃんまで、お前らのこと知ってるんだぜ!」
「そうそう!大会の後、全然話したことなかった中学の同級生とかがいきなり、『お久しぶりです♡坂井君って琴山のバスケ部なんだよね?一色君、紹介して♡』とか来て、ちょう怖かったんだけど!」
「そりゃホラーだな……」
むちゃくちゃ言ってくれるなー。てかそれ!「俺らのせいじゃないじゃん」
「いやいや!お前らになんの責任もないかと言えばー……」
「……話ズレてるんだけど」
ずっと黙っていた滝が、ぼそっと言う。
「……なんの話だっけ?」
本当にウチの連中は単純なのばっかり。
「1年の話」滝が軌道修正してくれた。そうそう。1年とマネの話。つまり雪ちゃんの話だね。
「だからさ、そのチャラチャラした4、5人と他の真面目なやつとの温度差が激しくて……1年がもうギクシャクし始めてるんだよ……」
「……そんなのほっとけばいいじゃん。ついていけないならそのうち辞めるでしょ」
俺が突き放すと、
「お前……」滝以外の視線が痛い。だって1年なんてどうでもいいし。
「……まぁ、ぶっちゃけ俺もさっさと辞めてくれと思ってるけど」
「日野~お前まで!」
「って思ってても、あからさまに問題になってるわけじゃないし、やる気がないから辞めろとも言えないからな~」
「そりゃ、そうだろ!」
「合宿までに辞めそうにないんだよ」日野先輩はさも残念そうに言う。
「今までも高田とかは俺の仕事も手伝ってくれてたんだよ。荷物運んだら記録取ったり」
知らなかったという声がちらほら。俺も知らない。というか俺はその高田クンが分からない。
「別に頼んでるわけじゃなくって、本当に自主的に、な。だからあんま目立ってないんだけど……それをさ、あの4バカが!陰で『点数稼ぎかよ』とか『いい子ちゃん』とか言ってんの聞いて!黙ってらんなくて出てったらさ!俺にも『マネージャーが偉そうに』とか!」
「……そんなこと言ったの?」
おぉ、滝がちょっと声をひそめた。
「はぁ?あいつらこそ何様だよ!」
「マジだぜ!うちの影のボスの日野様になんてことを……!」
「そーだ!そーだ!」
まだ一斉にしゃべり始める。耳元でうるさっ。
「そんならなおさら雑用やらせた方がいいんじやね?裏方の苦労とかサポートの大事さとか分からせるためにも……」
3年の真面目な先輩が提案するが、「ムリ!」日野先輩は一刀両断だ。
「ムリムリ。たとえばさ、1年にそれぞれ雑用割り振っても、あいつらはやらない。結局他の1年の負担が増えるだけだって」
「え~そうか?俺たちが見張ってれば、そんなあからさまにサボったりしないだろ?」
「あいつらならやるぜ……『こういうことするためにマネージャーがいるんだろ』とか言って。つーか、そりゃやらせるだけならできるけどさ。正直、面倒くさい!なんで俺がそこまで気を使って時間も使って、あいつら躾(しつ)けなきゃなんないんだよ!俺はお母さんか!」
「「「あぁ~……」」」
「夏まで時間ないっつーのに。せっかく合宿でがっつりできるんだから、お前らの負担も増やしたくないし……1年使うと逆に時間使いそうだし!でも俺だけでやるには人数多すぎだし!」
みんなやっと日野先輩の切実さを実感できたようだ。
「……流、お前のその知り合いに、なんとしても頼め!日野が壊れる前に!!」
「……はーい」
「頼んだぞ」と方々から肩を叩かれたところで休憩が終わった。
……雪ちゃん、ごめんね……たぶんもう逃げられないよ。
0
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
きみに会いたい、午前二時。
なつか
BL
「――もう一緒の電車に乗れないじゃん」
高校卒業を控えた智也は、これまでと同じように部活の後輩・晃成と毎朝同じ電車で登校する日々を過ごしていた。
しかし、卒業が近づくにつれ、“当たり前”だった晃成との時間に終わりが来ることを意識して眠れなくなってしまう。
この気持ちに気づいたら、今までの関係が壊れてしまうかもしれない――。
逃げるように学校に行かなくなった智也に、ある日の深夜、智也から電話がかかってくる。
眠れない冬の夜。会いたい気持ちがあふれ出す――。
まっすぐな後輩×臆病な先輩の青春ピュアBL。
☆8話完結の短編になります。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!
ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!?
「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる