神のみそ汁~幼馴染は神に至る~

青猫

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本編

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ガチャっという音と共に部屋の扉が開く。
入ってきたのは高校生くらいの少女であった。
少女は部屋の中にいた同じ年齢くらいの少年に声を掛ける。


「ねぇ、今日の夜ご飯は何がいい?」


少女は、少年の母親から頼まれて、少年の夜ご飯まで作っている幼少からの付き合い。
所謂幼馴染であった。
少年はゲームに夢中で上の空ながらに答える。


「んー……神のみぞ知る」


少年のつぶやきに、少女は首をひねった。


「神の……?」


しかし、すぐに合点がいったようで、「なるほど、オッケー!」
と言って部屋から出て行ってしまった。
少年はゲームを進めながら、すぐに自分が言ったことに気づく。


「ん?……いやちょっと待てって!?」


少年はゲームをベッドの上に投げ飛ばし、慌てて少女の後を追いかけた。


「夜ご飯はとんかつ!とんかつが良い……ってもういない」


慌てて追いかけるも時すでに遅し。
少女はすでに買い物に出た後であった。


「あぁ~……。……まぁ、メールすれば気づくだろ」


少年はあちゃーといった感じでため息をつくと、少女の携帯にメールを送り、そのまま部屋に戻った。




――その夜。


少年がそのまま部屋に戻ってゲームをしていたところ、先ほどと同じように扉が開いた。


「夜ご飯出来たよ~」


少年はその声に反応してゲームをやめる。


「おう、分かった……?」


少年はゲームを置き、少女を見たときに違和感を覚えた。


「あれ、何か顔つき変わってない?それに……」


少年は「色っぽい」とまで言おうとしてやめた。
流石に失礼だと思ったのだ。


「え~そんなことないよ~!」


少女はやけに明るくニコニコと笑い飛ばす。


「じゃ、下に行こうか!今日は自信作なんだから!」




少女と少年が下に降りると、そこには白いご飯と器に入った黒い汁が置かれていた。
少年はその光景に違和感を覚え、少女に聞く。


「あれ?今日の夜ご飯、とんかつが良いって頼んだけど……?」


少年がそう言うと、少女はきょとんとした表情をする。


「え~?今日、『神のみそ汁』が良いって言ってたじゃん!」


そこで、少年は昼に言ったことを思い出す。


「あ……あれか、ごめん。少し上の空で……。メールも送っただろ?」


少年がそう少女に聞くと、少女はハッとした表情で携帯を見る。


「ごめん!携帯、充電切れで……」


少女はぺこりと頭を下げた。


「それじゃしょうがないか。じゃあ、夜ごはん食べようか」


少年はそう言って食卓に着いた。
少女は、そんな少年を見て、思い出したように少し目じりを上げた。


「そうだ!大変だったんだから!『神のみそ汁』作るの!」
「神のみそ汁?」


不思議そうに首を傾げた少年の様子も気にせずに少女は話を始めた。


「まず、神様に会いに行ったんだからね!」
「は?何言ってんの」


少年は少女の爆弾発言にぎょっとして少女を見た。
――こいつ、どこかで頭打ったか?
そんな失礼な事を考えている少年をスルーして、少女は話を進める。


「『神のみそ汁』って聞いて、なんなんだろって思って……」
「『神のみぞ知る』な。食べもんじゃねえから」
「『あ、じゃあ神様に会えばいいんだ』って思ったの!」
「どこへ行こうとしているんだ。思考も行き先も」


少女はまるで十数年前を懐かしむかのように話を続ける。
少年はそんな少女の様子に違和感を覚えつつも話を聞く。


「まぁ、そこでなんやかんやあって神様の元にたどり着いたの」
「できればそのなんやかんやの部分を教えてほしかったなぁ」

「だって、そこまでにちょっとインドに行ったり、ちょっとバチカンに行ったりしてちょっとエクソシストと戦ってきただけだもの」
「ちょっとの部分の密度!?小説なら一巻出来上がってるよ?」


「だって、一発ちょちょいで沈むやつだもの。まぁ、そこは置いといて」
「一発ちょちょいは物凄く気になるがが、それでも置いとくのね」


箱を横に置くようなジェスチャーで話を終わらせる少女に、少年は名残惜しそうにしながらも少女の話に耳を傾ける。


「それで、神様に会って、『神のみそ汁』を教わってきたの」
「なるほど、完、幼馴染先生の次回作にご期待ください、という訳か」

「いや、まだ続くよ」
「続くの!?みそ汁出てきたのに!?」

「そこが大変だったんだから。だって、神様にも『神のみそ汁』は分からなかったから」
「そりゃ、正しくは『神のみぞ知る』だからな」

「だから、二人で試行錯誤して何とか完成させたよ」
「……なんか俺、神様にやばい事させちゃってない?みそ汁作らせてない?」


「作るまでには大変な困難があったわ。天使たちだって……」


そこまで言うと、少女は突然吹き出して笑う。


「ど、どうした?」

「いや、ちょっと思い出し笑いをね。天使たちがみそ汁づくりを一緒に手伝ってくれたのだけれど、その時に『その天使の輪っか、ちょっとつけてみてもいい?』って聞いたら、『いや、君がつけるとドラ〇ンボールが必要になるよ』って言われちゃって。もうみんな笑っちゃって!」

「いや、確かにド〇ゴンボールで死人は頭に輪っかつけてるけど!生き返るのにドラゴン〇ール必要だけど!何?天使って〇ラゴンボール見てんの?大人気じゃん」

「は?何言ってるの?意味が分からない」

「じゃあなんで笑ってたの?何がツボにはまったの?はぁ……」


少年は一息つこうと目の前にあった黒い汁を口に入れる。
が、途端にむせた。


「!?げほッ、なにこれ甘っ!?」

「それが『神のみそ汁』よ」

「いや、みそ汁の感想として『甘い』は出てこないんよ!普通『うまい』か『しょっぱい』か『薄い』だから!しかしなんか食ったことあるなこの味……」

「彼のみそ汁を馬鹿にするのはやめて!」


少年がみそ汁の味に突っ込んでいると、突然少女が激昂する。


「あ、え、ごめん。てか、は?彼?誰?」

「やぁ、こんにちは」


少年が少女の言葉に混乱していると、不意に部屋に入ってくる一人の男性。


「ダーリン!」

「ダーリン!?」


少年のオウムのような返しを気にすることなく、男は話し始めた。


「こんにちは、神様です」

「まじか、当人現れた……いや、当人じゃなくて当神か、ってそんなことはどうでもよくて」

「彼女と結婚させていただいております」

「予想の二段ぐらい上をいった」

「30年来のお付き合いの後、入籍したの、ね、ダーリン♡」

「俺との付き合いのダブルスコア」


少年は明かされる衝撃の真実に打ちひしがれている。


「いや、おかしいだろ。どう見てもお前と俺、同い年に見えるし」

「ダーリンの世界では時間がゆっくり流れるの」

「精〇と時の部屋。まさかのドラゴンボールネタ。まさか、神様、ご出身は」

「ブラジルです」

「いやナメッ〇星であれよ。期待して損したよ!」


机をパチンと叩く少年。


「すみません」


神様はぺこりと頭を下げた。


「いや、謝らないでください。どっからどう見てもこっちが悪いので」

「そうだよ!」

「お前は追い打ちしないで……」


少女の辛辣な対応に涙をほろりと流す少年。


「そこのみそ汁はね、私謹製の一品なんだ」

「そうなんですか」


少年は先ほどの甘ったるいみそ汁をじっと見つめる。


「彼女から『神のみそ汁』を作ってくれと言われた時は、どうしようかと思った。
そんな物、できるのかって疑問にも思った」

「本当にすみません」

「まるで迷路を歩いているようだった。しかし、突然に道は開けた!」

「それ、多分行き止まりです。今も彷徨ってます」


少年は、じっとみそ汁を見つめながら答える。


「まず、豆だ。豆は、みそ汁の最重要な部分だからね。小豆を使ってみたよ」

「小豆!?なんで小豆を使ったの?」

「オリジナリティを出したかったからさ」

「オリジナリティの代わりにみそ汁のアイデンティティが消えてる」

「そして、みそ汁のしょっぱさを出すための工夫として、塩の代わりに砂糖を入れてみた」

「もはやスイーツ……ん?」


少年ははっと気づいたようにみそ汁を手に取り、口に入れる。


「これぜんざいだよ、てかぜんざいだったら神の味だよ畜生!」


少年はそのままみそ汁、およびぜんざいの入った器を地面に叩きつけようとし、そっとテーブルに器を置いた。
おいしいぜんざいに対する仕打ちではないと思ったからだ。


「そして、豆腐。小豆と砂糖では豆腐の苦みにアンマッチだからね。白玉を入れたよ」

「もうまごうことなき白玉ぜんざい、みそ汁の面影0だよ」


少年はみそ汁、ではなくぜんざいを食べ始める。

厳選された小豆の豊潤な風味に加え、引き締まった甘みが舌を刺激する。

白玉は甘さをぼやかし、味に飽きさせない。


「てか、なんでしょっぱいみそ汁が甘いぜんざいになるんだよ」

「だって私、甘味の神だから」

「なんで甘味の神に塩味のもの作らせようとした。普通塩味の神様だろ」

「だって最初に会ったのがダーリンだったから。それに、塩味の神様は他人の彼女に唾つけてくる神で」

「塩味の神様なら塩対応で有れ」

「塩味の神様、凄くしつこくて……魂を賭けた勝負で引き下がってくれたわ」

「……それは危なかったな。大丈夫だったか?」

「大丈夫。貴方の魂は守ったわ」

「俺の命でノーリスクの賭けをするな」

「そんなこと言わないで!あなたの命にはもっと価値があるはずよ…………多分」

「もっと自信を持って言ってくれよ、悲しくなるわ」


少年は、傍にあった白ご飯を口に放り込む。


「そうして、なんやかんやで『神のみそ汁』は完成したわけだが……」

「まだみそ汁って言ってんのか。これはまごうことなきぜんざいだろ」

「私の作った『神のみそ汁』を巡って戦が起きた。ラグナロクだ」

「ぜんざい如きで世界の危機を起こすな。作れ」

「世界は多数の神による争いで疲弊し、私の仲間も数多く倒れた」

「ぜんざいでシリアスにならないでくれ」

「そうした中で私と彼女は愛を囁き、愛を育んだわけだが……」

「お前たちはもっと緊張感を持ってくれ、元凶」

「元凶はあなたでしょ?」

「俺だったわ」


少女にそう言われ、ぼやく少年。


「そうして私は人間をやめたわけだけど」

「DI〇にでもなったか?」

「DI〇は人間をやめて吸血鬼になったのよ?ちょっと有名なセリフを知ってるぐらいで知ったかぶりするのはやめてもらえる?女神になったんだけど」

「すみません」

「そう、幼馴染の神として神格を得た私は、力を得たの」

「どんな神様だよ」

「幼馴染のフラグを折る力」

「えげつなき事この上なき力」

「そして、私は彼女との愛で新たな力を目覚めさせたのだ」

「愛の力で世界を救うアツい展開」

「口から『神のみそ汁』を出す力だ」

「何もかもぶち壊しだよ!」


少年は一瞬でもキラキラとした視線を神様に向けたことを恥じた。


「そして私たちは世界を救い、ここまで来たわけだが……」

「どうすりゃいいんだよ、情緒めちゃくちゃだよ!」


少年はそう言って一口『神のみそ汁』、いやぜんざいを食べる。


そして、米を食べた。


「てか、なんで米とぜんざいなんだよ、晩御飯として何もかも間違いじゃないか」

「だって、今日の夜ご飯は『神のみそ汁』が良いって」

「そうでした、この状況元をたどれば全部俺のせいだわ」

「それじゃ、私はダーリンとご飯食べに行くからまた明日」

「お前はこれを食べないんかい」

「だって、みそ汁とご飯だけじゃ寂しいじゃない」

「それが分かってるんだったら配慮が欲しかったわ!」

「じゃ、行くね」

「行ってら」


そうして、少女と神様はリビングから出ていく。
少年は、目の前の米とぜんざいをいただきつつ、天を仰いだ。


「……あぁ、NTRだ……」

「それはBSSと言うらしいぞ」

「うっせ」


少年のぼやきを拾った神様を一蹴する。
いつの間にか神様は消えていた。


「あぁ、ぜんざいが少ししょっぱいや……ん?」


少年は、自身の涙の入ったぜんざいを見つめ、慌てて家を飛び出した。


――そののち。

少年はNTR汁、ではなく涙一滴分の塩味がぜんざいの味を完成させることに気づき、甘味の神と共に、『神殺しのぜんざい』を販売。

神様たちの集う神界や、悪魔の集う魔界、そして当然のごとく人間の住む人間界の三界にわたる大人気商品として、大成功を収めることになる。



そこで、『神殺しの洗剤』を売り出す神と激突するのはまた別の話。


「神が神殺し作るな、生かせ」
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