いつもと、違うことをしよう

三谷玲

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早川静玖は色を失っていた

取引

 早川静玖は色を失っていた。
 あの悪夢のような時間からそう経っていない月曜日の昼。
 目が覚めるとそこには自分を犯した男の顔があった。
 声をあげようとしたが渇いた喉があげるのは息を飲む音だけだった。

 とにかく離れようと身体を起こそうとしたがそれも叶わなかった。男の腕が静玖の身体に巻き付いて動けなかったのである。
 しかも男は真冬にも関わらず上半身裸だった。浅黒く筋張った腕はびくともしない。
 むしろ静玖がもがこうとするとよりキツくなるばかりだった。

 絶望的な状況に静玖は色を失っていた。
 
 もがく静玖に気付いたのか、男が目覚めると大きなあくびをしてから悪びれもなく静玖に告げた。

「おはよう、よく眠れたか?」

 その声はやはり佑に似ていた。あのとき、彼はなんと言ったか、静玖は思い出したくもない時間を思い返して顔を歪めた。

「ユウの……双子って」
「あ? ユウって呼んでるのか? あいつのこと……くそだな。タスクは兄貴だ。俺は遥、三代遥」
「三代?」
「親が離婚したんだ、よくある話だろ? 聞いてねぇの?」

 佑と付き合うようになって数ヶ月。あまりプライベートな話しは聞いたことがなかった。
 佑と二人のときはいつも静玖の話を一方的に聞いてもらうばかりで佑のことなど何も知らなかった。
 知っているのは生まれも育ちも東京であること、高級マンションに住んでいること、父親が社長であること、そしてその会社の跡を継ぐこと。誕生日すら聞いていなかった。

「ほんとに付き合ってんの? あんたら」
「う、うるさいっ。というか、もう離してっ」
「さみぃんだよ、この部屋。俺体温高いからこうしていれば寒くないだろ? シズクだってさっきまでべったりと抱きついてきてたくせに」

 真冬のアパートは確かに寒かった。さらに静玖は何も身につけていなかった。あのときのまま……。
 思い出してまた顔色を失った静玖を遥が布団で包んだ。
 遥が見えなくなったからといって静玖の気持ちが落ち着くわけではない。
 それでも視界を遮られたことと布団の温もりに冷え切った身体が少しずつ緩んできた。
 その頭を遥の手が撫でた。
 温度の違いこそあれ、その撫で方は佑と同じで、静玖は双子だとこんなことも似るのだろうかと不思議なことを考えた。

「なぁ、兄貴にバレたくない?」
「あ、当たり前だろっ! あれ、早く消して」
「どうしよっかなぁ……。せっかくきれいに撮れてたんだぜ? 後で一緒に見るか? 可愛かったぞ、シズクがっ、イッてぇなぁ」

 抗議のために伸ばした足が遥のスネに当たった。

「いいよ、消してやる。ただし、一ヶ月俺の言うことが聞けたら、だな」
「なんで、言うことなんて聞かないといけないんだよ」
「別に、俺はあれを兄貴に見せてもなんの損もしないからな。損するのはシズクだけだ」

 一ヶ月、それだけ我慢すれば消してくれる。遥はそう言った。
 静玖はそれを馬鹿正直に信じるつもりもなかったが、かと言ってそれ以外消してもらえる手段はなさそうだった。

 静玖は仕方なく条件を呑んだ。
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