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早川静玖は幸福に浸っていた
柔軟
早川静玖は幸福に浸っていた。
四月になって佑が就職すると二人で暮らさないかと持ちかけられた。
それに静玖は一も二もなく頷いた。これで彼の一番であることは確実だ。
憧れの都心のマンションでの生活は満たされていた。
生活費は折半となったが家賃は佑が持つことになり、少し余裕が出てきた。
土日は彼のためにバイトを辞めた。
二人の生活は順調そのもので、愛されているという実感を得ていた。
静玖は大好きな佑と憧れの生活という幸福に浸っていた。
大学で会えなくなった代わりに、彼は毎日静玖を送り迎えしてくれた。
「静玖、気をつけて」
「ありがとう、ユウ。いってきます!」
茶色の頭を撫でる手は温かかった。
その手が静玖は好きだった。
車から降りる静玖を見送ると遥はその足でマンションへと戻った。
乱されたベッドを整えてあるべき姿に戻すと、ため息を吐いた。
仕事は佑によって辞めさせられ、髪を黒く染めた。
今はこのマンションで暮らしている。
静玖の送迎と食料の買い出し、それ以外はほとんど外に出ることもなかった。
遥の行動はすべて佑に管理されていた。
母親とともに家を出た後、自由を謳歌していた遥にとって最初は苦痛だったがそれも静玖のためならば仕方がないと今では諦めもついた。
遥の好きなものを壊すことが生きがいの佑にとって一番大きな誤算は静玖だった。
静玖の脳は柔軟だった。
柔軟、過ぎたかもしれない。三人で過ごした最初の朝、静玖は目が覚めると遥を見てこう言った。
『ユウ、髪染めたの? 金髪も似合うね』
静玖の中に遥という人物が消えていた。
遥と佑、二人を一人の”ユウ”という人間として認識するようになっていたのだ。
都合のいい頭だと佑はあざ笑ったが、すぐにこれは使えると思った。
佑にしてみれば遥さえ手に入れば後のことはどうでもよかった。
静玖という人間を媒介にしてでも手に入るならそれもよし。
顔も違う二人を誤認する静玖に戸惑ったのは遥だった。
病気ではないかと医者に診てもらおうと訴えたが佑は諾とは言わなかった。
『それをしてシズクがハルカを拒絶してもいいの? 今のままならシズクから愛されているのに?』
自分が愛した人が佑にとらわれ、壊されることの続いた遥にとってそれはとても甘美な誘いだった。
”ユウ”としてでも自分を愛してくれる静玖を手放せるわけがない。
佑の言葉に遥は躊躇したものの、それを受け入れた。
静玖が混乱しないように髪を黒く染め、優しい言葉遣いに正した。
佑のフリをするだけで静玖はすぐに慣れ、二人が同時に居ることさえもおかしいこととは思わなくなっていた。
静玖のバイトが終わる頃に遥が迎えに行く。
車から降りて静玖を待っているとちらちらと自分を見ては数人の女性から秋波を送られた。
身なりを少し整えて、いい車を持っているだけで人の見る目が変わることに遥は辟易していた。
くだらないことだと無視していればその胸に静玖が飛び込んできた。
喜色満面で見上げる静玖の頭に手をやると静玖の目がうっとりし始める。
車に乗せてハンドルを握った遥の目には映らなかった。
静玖が先程の女性たちに得意げに笑っていたことなど。
なんのことはない、静玖だってあの女達と同じだってことを、遥は気付いてもいなかった。
四月になって佑が就職すると二人で暮らさないかと持ちかけられた。
それに静玖は一も二もなく頷いた。これで彼の一番であることは確実だ。
憧れの都心のマンションでの生活は満たされていた。
生活費は折半となったが家賃は佑が持つことになり、少し余裕が出てきた。
土日は彼のためにバイトを辞めた。
二人の生活は順調そのもので、愛されているという実感を得ていた。
静玖は大好きな佑と憧れの生活という幸福に浸っていた。
大学で会えなくなった代わりに、彼は毎日静玖を送り迎えしてくれた。
「静玖、気をつけて」
「ありがとう、ユウ。いってきます!」
茶色の頭を撫でる手は温かかった。
その手が静玖は好きだった。
車から降りる静玖を見送ると遥はその足でマンションへと戻った。
乱されたベッドを整えてあるべき姿に戻すと、ため息を吐いた。
仕事は佑によって辞めさせられ、髪を黒く染めた。
今はこのマンションで暮らしている。
静玖の送迎と食料の買い出し、それ以外はほとんど外に出ることもなかった。
遥の行動はすべて佑に管理されていた。
母親とともに家を出た後、自由を謳歌していた遥にとって最初は苦痛だったがそれも静玖のためならば仕方がないと今では諦めもついた。
遥の好きなものを壊すことが生きがいの佑にとって一番大きな誤算は静玖だった。
静玖の脳は柔軟だった。
柔軟、過ぎたかもしれない。三人で過ごした最初の朝、静玖は目が覚めると遥を見てこう言った。
『ユウ、髪染めたの? 金髪も似合うね』
静玖の中に遥という人物が消えていた。
遥と佑、二人を一人の”ユウ”という人間として認識するようになっていたのだ。
都合のいい頭だと佑はあざ笑ったが、すぐにこれは使えると思った。
佑にしてみれば遥さえ手に入れば後のことはどうでもよかった。
静玖という人間を媒介にしてでも手に入るならそれもよし。
顔も違う二人を誤認する静玖に戸惑ったのは遥だった。
病気ではないかと医者に診てもらおうと訴えたが佑は諾とは言わなかった。
『それをしてシズクがハルカを拒絶してもいいの? 今のままならシズクから愛されているのに?』
自分が愛した人が佑にとらわれ、壊されることの続いた遥にとってそれはとても甘美な誘いだった。
”ユウ”としてでも自分を愛してくれる静玖を手放せるわけがない。
佑の言葉に遥は躊躇したものの、それを受け入れた。
静玖が混乱しないように髪を黒く染め、優しい言葉遣いに正した。
佑のフリをするだけで静玖はすぐに慣れ、二人が同時に居ることさえもおかしいこととは思わなくなっていた。
静玖のバイトが終わる頃に遥が迎えに行く。
車から降りて静玖を待っているとちらちらと自分を見ては数人の女性から秋波を送られた。
身なりを少し整えて、いい車を持っているだけで人の見る目が変わることに遥は辟易していた。
くだらないことだと無視していればその胸に静玖が飛び込んできた。
喜色満面で見上げる静玖の頭に手をやると静玖の目がうっとりし始める。
車に乗せてハンドルを握った遥の目には映らなかった。
静玖が先程の女性たちに得意げに笑っていたことなど。
なんのことはない、静玖だってあの女達と同じだってことを、遥は気付いてもいなかった。
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