悪役令息アナ゠ルゥに転生したので、婚約者を奴隷にします

三谷玲

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ゲームは開始…しないようです

「まだか? まだなのか? 俺の金のたまごはっ!」
「ペニ゠スゥ、うるさい。お前が産むわけじゃないんだから、静かにしてて」

 あれからひと月。とうとうシリ・アーナが城勤めを始めるという日なのだが、俺は臨月を迎えていた。たまごでも臨月って言うのかよくわからないけど、とにかく産まれそう。
 陣痛ってほどではないけど、胎の中にたまごがいる感覚がして、外に出たがってるのが分かる。人体(?)の不思議。
 公爵家の俺の部屋には、産卵用のソファが用意されている。まるで産婦人科の椅子みたいなアレ。自然と足が開くようになっていて、産まれたたまごが割れないように椅子の尻部分には穴があり、その下にはたくさんの柔らかい布が敷かれたかごが置いてある。
 さすがに、下半身丸出しというわけではなく、産卵用の尻の部分が開いた手術着のような服を着せられている。ただそこはさすが公爵家。レースにフリルたっぷりの、かわいい俺にぴったりのワンピース仕様だ。

「外に放り出すか?」
「そこまではしなくていいよ、ありがとう。マーラ」

 俺の背後にいる過保護な護衛騎士マーラ・デッカは、いまにもペニ゠スゥを摘まみだそうとしているが、それには及ばない。俺が鎖を引っ張ると苦悶の表情を浮かべつつも、蕩けた目でこちらを見ているので、どうやら叱られたかったようだ。産卵準備に入ったら相手をしてやらなかったせいで、寂しかったんだな。
 でも、せっかく俺がこうして似合いの贅を凝らした首輪とリードをプレゼントしてあげたっていうのに、これでも足りないってどんだけ?

「この国は、おもしろいネ! たまごを産むのは奴隷だと思ってたカラ、新鮮ダヨ。まさか王太子が奴隷になるなんて」
「帰ったらちゃんと後宮の子たち守ってあげなよ?」
「帰りたくないナァ……」

 そう言って、俺の右手を摩るのは我が家に滞在中の東の国の留学生、チン・コウだ。他国の産卵を見たいと言うので、入室を許可した。チン・コウの国では妃の地位は低いらしい。拉致られたら最後、後宮という鳥かごのなかでたまごを産み続けることになる。まさに養鶏場の雌鶏のようだ。
 続編では改善されてたから、チン・コウが王になって改革するのかもしれない。そうだといいなぁ。
 そんなことを考えていたら、左肩にある重みが震えた。

「心配しなくてもだいじょうぶだよ、ニック」
「この国の行く末を担う子だ。心配は当然だろう?」

 いつもは冴え冴えとした怜悧な顔を青くして俺の肩に掛けた手を震わせているのは、宰相の息子ニック・ケインだ。わが従兄弟殿がここまで顔色を変えるのは珍しいので、俺は安心させようと笑って見せた。その笑みに応えるように、ニックも微笑む。スチルでも見たことのない、肩の力の抜けた優しい笑顔はレア中のレアって感じ。

「あ……っ」

 それは突然やってきた。四人に見守られて力が抜けたからなのか、はたまたこれ以上胎の中には居られないとたまごが急いたのか。たまごが下りる気配がしたかと思うと、俺のアナルが最大限に開いた。いまならチンコ四本入れられるんじゃないかな、ってくらい、それはもうくぱぁっと。
 コダクサーヌの血なのか、産卵には苦痛を伴うと言われているのに、俺の孔からはつるりとたまごが顔を出し、あっという間にかごに落ちた。

「思ったより、楽だったな」

 俺が安堵の声をあげると、四人はほっとしたのもつかの間、すぐさま籠の中を見て、そして固まった。

「どうした?」
「金……じゃないっ!」
「赤でもないな」
「コレ、青じゃナイ? 青でよくナイ?」
「青ならこんなに輝いているわけがありません。とはいえ、銀でもないですね」

 口々に落胆をにじませた声が聞こえてきて、俺は、やっぱりか……と頭を抱えた。

「俺にも、見せて」

 答えは分かっているけど、確認しないとな。四人のうち比較的冷静だったのは、ニックだったようだ。彼はそっとかごを持ち上げると俺に見えるように傾けた。

「何色と言えばよいのか……。ですが、アナ゠ルゥが産んだたまごに間違いはありません。おめでとう、アナ゠ルゥ」
「ありがと、ニック」

 俺はまだ温かいたまごをそっと持ち上げて、腕に抱えた。

「これは、たまむしいろっていうんだよ。この子は強くなるな」
「なんで、金じゃないんだっ! アナ゠ルゥ! 俺には浮気するなと言っておきながら、まさか自分は浮気していたのか……っ!」
「はぁ? 俺、お前を満足させてやれば浮気はしないのか? とは聞いたけど、浮気したらダメなんて言ってないじゃん」

 と融合する前のアナ゠ルゥなら言ったかもしれないけど、ひとつになった俺が浮気をするなとは一度も言っていない。むしろ、浮気しても邪魔しないとまで言った。少子化が進むサンラーン王国でたくさん種をまけるペニ゠スゥにはむしろ浮気してもらってもいいとさえ思ってる。
 浮気って言うけど、王太子ルートに入るためには、攻略対象三人とセックスする必要があったんだから仕方ない、仕方ない。
 拉致監禁を回避できるランダムアクシデントの悪役令息は俺自身。どうしたものかと思ったが、案外簡単だった。
 従兄弟のニック・ケインはどうやら俺に惚れていたらしく、婚約者になったペニ゠スゥをひどくライバル視していた。俺を拉致監禁するよりも、このままふたりが内緒で関係しているほうが、ペニ゠スゥへの嫌がらせにならないか? と提案すると、次期宰相として国王の手綱を握るのにちょうどいいと、ニックは満面の笑みで応えてくれた。
 親友だったマーラ・デッカとは体力では負けるけど、柔道の寝技を使った新たな体位を教えることを条件に、護衛騎士になってもらった。おかげで従軍する必要もなく、マーラが戦闘で高揚してオナホ扱いされるのも回避できた。おさななじみの気安さからか、新たな「寝技」開発は順調である。ペアヨガみたいで楽しいし少子化問題解消の一助になるかもしれないので、そのうち国中に広めようかと思っている。
 チン・コウの国はいまだにたまごを産める男を奴隷扱いするような国だ。妃だなんだと持ち上げられても嬉しくない。そもそも、チン・コウはそんな国の現状を憂いて留学してきたはずなので、そこを突いた。この国にいる間は俺を好きにしていいけど、チン・コウの国の改革が終らない限り、俺はサンラーンを離れないって。あれ? ってことは続編スタート時に拉致られる可能性あんの? 東国に興味はあるけどかなり遠くて面倒だから、チン・コウにはいっそこのままサンラーンに留まってもらおうかな?

 そういうわけで、俺はペニ゠スゥを拉致る前にはすでに三人との会合セックスを済ませていたんだ。準備万端だって言ったろ?
 あの後、代わる代わる抱かれるたびに、これ、トゥルーエンドじゃね? って思ってたけど案の定。
 俺は『たまむしいろのたまご』を産んでしまった。まだゲーム開始したばかりなのに……。
 母性なんて芽生えないかと思ったけど、こうして複雑な色に輝くたまごを見てると、この子の将来が不安になる。
 勇者になるこの子は、いずれ赤髪の戦士と、青い目をした格闘家、銀の賢者とそれから、金髪の騎士と共に旅に出る。

「安心しろ、ペニ゠スゥ。ちゃんと金のたまごも産んでやるから」

 あと銀と赤と青のたまごも俺が産めば、勇者一行は全員種違いの兄弟ってことになるけど、そのほうが裏切りもないからいいよね?
 ほんと、このゲームの攻略対象が四人でよかった!
 腹ボテ廃人エンドもいやだけど、腹上死も避けたいからね!

 いつまで経っても城に現れないシリ・アーナが男爵から逃げて、黒髪の男と駆け落ちしたって話を聞いたのはそれからしばらく後。その黒髪の男が魔王その人で、シリ・アーナがその尻で改心させたらしいと分かるのは、俺が産んだ勇者が赤青銀金の男たちからケツを狙われ始め、旅立つどころか俺と同じく逆ハーを築くことになるころだった。

おしまい
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