僕と賢者の108日

三谷玲

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38日

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自殺を思わせる描写がありますので、ご注意ください。

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 二週間経ってようやく薄れてきた腕の噛み痕が、また増えた。
 枕にした腕を強く噛む。背後にいるオスカーを意識しないように。
 早く、終われ。
 早く……。
 念じることは同じでも、感覚は全く違う。
 オスカーはミッシャの身体に触れて、快感を呼び起こさせてから挿入するようになった。
 最初はまだキツイ。痛みを思い出して、身体が竦む。
 ゆっくりと入ってきて、魔力を奪われていく。
 息が苦しくなって、頭がぼやけてくる。
 いっそこのまま気を失ってしまえば、終わるのに、増えた魔力量ではそれもかなわない。
 痛みは薄れ、きつく、苦しい感覚が内を支配する。それなのに、オスカーが高ぶらせた陰茎や乳頭がシーツに触れると、快楽を得てしまう。
 苦しい、気持ちいい、苦しい。
 交互に押し寄せる感情にミッシャは疲れていた。



 まだ夜も明けきらぬ時間に起きたミッシャは、はっきりしない頭のまま天井を見つめていた。
 いつまで続くのだろうか?
 終わりが見えれば、耐えられるかは別としてもこれ以上このままここにいたら、頭がおかしくなりそうだった。
 増えた魔力なら、扉の結界くらいは破れるかもしれないと考えたが、結局この塔の結界を破らなければ表に出ることもできない。
 この塔に来た時の氷の結晶のような美しい結界を思い浮かべて、頭を振った。

――あれは、破れない。

 そうなるとほかに取れる手段は……。
 自死、という言葉が頭をかすめた。
 この部屋にあるのは水差しと盥、それからリネンのクロスと寝具。
 盥の水で溺死……するには底が浅すぎる。
 クロスや寝具で首を吊る……?
 天井に梁はなく、扉のハンドルは荷重に耐えられそうな作りではなかった。
 舌を噛み切ったところで、オスカーに回復させられるだろう。ほかの個所も同じだ。
 あとは……。
 魔力の器を壊す。
 壊れた器を治す術はまだない。
 魔力を失えば魔術師は死ぬ。

 ミッシャは右腹に手を当てた。
 この奥にある、魔力の器に小さなころから苦労させられてきたのだ。
 ミッシャは物心つく前に親に捨てられた。魔力の器があるだけで。
 最後の良心か、ギルドの前だったおかげで賢者、シシィに拾われた。
 同じ白銀の髪に、赤みの強い紫の瞳。
 気まぐれで、何が面白いのかいつでも笑っている彼女は、ミッシャよりもシャルロッテに似ているかもしれない。
 いくつもの魔術を教えられて覚えられたのは補助魔術だけだったが、シシィは『覚えておけばなんかの役には立つ』とミッシャが吐こうが喚こうが叩き込んだ。
 気まぐれで拾ったミッシャをやはり気まぐれで放り出した後、どこに行ったかは知らない。
 賢者は桁はずれた魔力を持ち、不老なゆえか、あまり表に出たがらない。
 シシィも偶然立ち寄ったギルドでミッシャを見つけたのだと言っていた。

『これも運命かもしれないな。おかしなもんだ』

 と笑っていた。
 独り立ちしてから探そうとも思ったが、しばらくして今度はミッシャがオスカーを拾った。
 運命かもしれない、と思った。
 シシィに教わった魔術をオスカーに教えた。
 オスカーはミッシャと違い、するすると扱えるようになった。
 やはり、運命だったのかもしれない。
 ミッシャを通して、シシィの魔術をオスカーが覚える。
 新たな賢者の誕生を、ミッシャが手助けしたのだ。
 もう役割は終わったのではないだろうか?
 ミッシャはもう一度魔力の器に思いを馳せた。
 苦労はさせられたけれど、こうして何かの役に立てたのを誇りに思う。
 生きている間に二人の賢者にかかわれるなんてことはめったにない。
 もう、終わりにしてもいいのではないだろうか?

 でも……。
 長い時間、考えていたからだろう。
 氷の窓に朝日がさした。
 白い部屋が琥珀色に輝く。

 せめて最後に、教え子の曇りを晴らせてからでも遅くはない。
 オスカーのくすんだ琥珀色の瞳のわけが知りたかった。
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