あれから10年これから10年

三谷玲

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躑躅

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 初めての初任給に俺は心を弾ませていた。父さんと母さんへのプレゼントを買いに行く予定なのに相棒の広斗が起きてくれない。

「広斗、起きて!今日買い物行くって言ったろ?」

 1LDKのリビングのソファを寝床にしている広斗を揺すると、掛けてた毛布をぎゅっと抱きしめている。

「寒い……」
「だから、ベッドで一緒に寝ればいいって言ったじゃん!広斗寒がりなんだから」

 俺の新居に転がり込んでなし崩しの同居生活を始めた広斗と俺は中学生からの腐れ縁、所謂親友って奴だ。互いに大学は別々だったが、就職は都内の会社に決まったおかげで、俺は念願のデザイナーズマンションを借りることにした。駅からちょっと遠いから新卒の俺でもなんとか支払える程度の家賃。
 リビングには三人掛けの大きな革張りのソファを、広めの寝室には奮発したセミダブルのベッド。収納が多かったおかげで大量にあった服を仕舞ってもまだ余裕がある。
 内定が決まったのが去年の春。それから卒論とバイトに明け暮れたおかげでこうして自分の理想の部屋を手に入れ、3月には新生活をスタートさせていた。
 広斗はそのころようやく仕事が決まり、報告がてら俺の部屋に来るとそのまま居座った。ペット不可なんだけど大丈夫だろうか?ペットじゃないけど……。

 カーテンを開けると街路樹に植えられているツツジの白とピンクが目に入る。明るい日差しが差し込むと、広斗はのっそりと起き上がり、タバコに火を付けた。

「どこに行くの?」
「新宿のデパート、その後いつもの喫茶店に行こう」
「ん、わかった」

 まだ寝ぼけている広斗にお気に入りのマグカップに入れた珈琲を差し出すと、あんがと、と笑った。

 こうして一緒に居ることが当たり前になって10年が経っていた。
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