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天降る天使の希い
終の月 その三
しおりを挟む冬至祭を一週間後に控え、ソルーシュは舜櫂を連れて御膳部を訪れていた。
「お世話になります」
ソルーシュが丁寧に挨拶をすると、御膳部長である景超は大きな身体を揺らして笑った。
「ここは蒼鷹の遊び場みたいなもんだから、気楽にやってくれ」
「景超殿はこういう方なので、ソルーシュ様も気にしないでくださいネェ」
「こういうってのはなんだ?」
一度逢ったことはあったがこうしてソルーシュが御膳部の厨房へ足を踏み入れることは初めてだ。
景超はとてもおおらかな人のようで、これからお願いごとをするソルーシュはむしろ気が楽になった。
「さっそくなのですが、冬至祭で出す餃子についてご相談があるのです」
「あぁ。蒼鷹から聞いてるが、この間教えてもらった揚餃子にしてぇんだって?」
あれから何日か、自分が好きな餃子は何かと考えて出した結論が揚餃子だった。
ソルーシュにとっての母の味、ふるさとの味である。
ただひとつ、問題があった。
「はい。それで、なんですけど皮の厚さをもうすこし薄くできないでしょうか?」
「薄く? それじゃ腹にたまらんじゃねぇか」
「そうなんですが、からりと揚がった皮がさくさくとしていたほうが食べやすいと思うのです」
景超は頭の中で想像したのだろう。腕を組んでううんとうなると目を閉じて頭を横にした。
しばらくするとその頭を小刻みに揺らして、つばを呑み込んだ。
「こりゃぁ美味いな!」
「分かっていただけますか? 具が透けるくらい薄いのが母の餃子なのです」
「中身は何だったんだ?」
「ワタシの獲ってきた野兎が多かったですね」
賢高のように瑞々しい野菜が取れるわけではない。中身のほとんどはきつめの塩で味付けされた肉だった。
ソルーシュがナーズィに頼んで粉を手に入れるたび、あの家へと持っていった。母が皮を作ってる間にサルートともに狩りに出て兎や鳩を捕らえた。
「そうだ! オーランはよく母を手伝っていたのですが、呼んでもよろしいですか? 人手は足りてるとは思うのですが、あの子にもたまには故郷を思い出してほしくて……」
「おお、そいつは助かる。ここにいる奴らはやりゃぁできるのに性格が雑なやつが多くてな。監視の目がありゃ、少しは丁寧に作るだろうよ」
「いつもあんなにきれいな食事なのにですか?」
賢高は食文化も豊かで、ソルーシュはいつもそれに感激していた。
味だけではなく盛り付けまで凝った食事は、慣れないソルーシュを目でも楽しませ、すぐに慣れていった。
「それとこれとは別ってもんさ。まったくどいつもこいつも乱暴なやつらばかりでな。蒼鷹のやつもおかげで雑な男に育っちまって。あんたも苦労してんじゃねぇか?」
「蒼鷹はいつでも優しいですよ?」
「ほぉそうかい! あの鷹が餌を食わなくなっちまったときは、俺のところに怒鳴り込んできた、あの蒼鷹がか。相当あんたに惚れ込んでるんだなぁ」
愛されているとは思っていたが、こうして他人から指摘されると恥ずかしいものだ。
赤くなる顔を抑えつつ、アービが餌を食べなくなったと聞いて驚いた。
アービはいつもソルーシュの手からどんな粗末な肉でも喜んで食べていたからだ。
「アービが食べないころがあったのですか?」
「あんたからの餌が美味いらしくてな。こっちの肉を拒否しやがったんだ。牡丹宮に出してた猪肉差し出したら食うようになったがな」
「今は鶏でも喜んで食べてるのに……。なんででしょう?」
不思議がるソルーシュの背中を景超の分厚い手が叩いた。
「ははっ! そりゃあんたが鷹に愛されてるからってもんよ。蒼鷹にしろ鷹にしろ、鷹ってのはあんたみたいなのが好きなんだな!」
一国の王である蒼鷹が鷹と同列に語られる。
横で聞いている舜櫂も、御膳部の他の調理人もみな声を揃えて笑った。
トルナヴィエでは考えられない光景に、ソルーシュも自然に笑い声をあげていた。
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