56 / 70
.遠征なんて無理っ!絶対無理っ! 6
「遠征なんてさぁ、必要あんの? ようは戦争だろ? 俺、争い事は……」
「……あんたは、自分さえよけりゃいいんだな」
え?
小さいその声に聞き返そうとしたら、ちょうど木立ちの切れ目にたどり着いた。ハルはそのまま先を行ってしまった。
取り残された俺は、ハルを追いかけるか迷ったところで、声をかけられた。
「なんだい、あんたまた来たのかい。アンダーウォーカーっての暇なんだね」
デジャブ?
そこにいたのは、ふわふわの毛皮の塊だった。
「ひっ! なに? 化け物?」
「失礼だね。あたしだよ、リノ」
塊の隙間からたしかにリノの顔が見えた。
「このあいだの、狩りで獲たヤギの毛を干してたところさ。それで、あんたは何しに来たんだい?」
「ユウはどうやってレオを覇者にしたのか、教えて欲しくて」
「とりあえず、これからお茶の時間だから飲んでいきな」
この間昼飯をごちそうしてもらった広間には、女たちが車座になって話に花を咲かせていた。
「お茶なんて久しぶりだね」
「ここのところ忙しかったから、たまにはいいよ」
「そうそう、材料が豊富だからねえ」
「仕事があるってのはいいことさ」
楽しそうな笑い声が響いていた。
用意してくれたのはお茶というよりジュースみたいな液体だった。
「なにで出来てるの?」
「ミカンだよ。あの林の木は時期になると実を付けるのさ。それを煮詰めて保存してある。あたしらもたまにしか飲めないけど、悩んでるときに甘いもんは効くだろ?」
悩んでることがバレている。リノおそるべし。
「で、ユウがなにをしたか、だっけ? さあてねぇ。なんせ二百年前のことだよ。具体的になにをしたのかはあたしだって知らないねぇ」
「さっき、ハルくんが遠征しろって」
戦国時代なら合戦みたいなもんか。群雄割拠の時代に天下布武を目指した信長とか秀吉とか。
「ハルの母親はダワラの出だからね。恨みもあるんだろうよ」
「それであんなこと……」
「ダワラでは相変わらず女は奴隷のような扱いだからね。ハルの母親は命からがら逃げてきたけど、父親は途中で殺されたそうだよ」
う……。それで自分さえよければなんて言われたのか。
でも、戦ったからって勝つとは限らないわけで。
かといって、いまも虐げられている人たちがいるかと思うと……。
うんうんと唸っていると、リノに背中を叩かれた。痛い。
「そんなことはあんたが悩む問題じゃないよ」
「え? でもハルくんは……」
「アンダーウォーカーが戦いになんの役に立つっていうんだい。するかしないかはハオが決めることさ」
いやそりゃ俺じゃ戦力になんかならないのは分かってる。
でも、なんにもしないでいるのは、ダワラで苦しむ人たちを見捨てることになるじゃないか。
話し合いで解決できれば、それが一番いいけど……。常識が違うこの世界で俺の話なんて聞いてもらえるとは思えない。
「ユウだってここから一歩も外に出てないんだ。あんたができることなんて、ハオのやる気を出させることくらいだよ」
「やる気ねぇ……」
「狩りだって発掘だって、あんたのためだろ? おかげであたしらも仕事が増えて大助かりさ」
「別にそれだって俺がしろって言ったわけじゃない。ハオが勝手に……」
「ははっ! ハオは相当あんたに夢中だね」
「はぁ? 違うだろ? 俺がアンダーウォーカーだからってだけでっ!」
「なんだい。あんた、アンダーウォーカーだからハオが構ってくれてるって思って悩んでたのかい? あんたも十分、ハオに夢中なんだねぇ」
「ち、違うっ! 別に俺はっ!」
違うって言ってるのにリノはまったく聞く耳を持ってくれなかった。
「……あんたは、自分さえよけりゃいいんだな」
え?
小さいその声に聞き返そうとしたら、ちょうど木立ちの切れ目にたどり着いた。ハルはそのまま先を行ってしまった。
取り残された俺は、ハルを追いかけるか迷ったところで、声をかけられた。
「なんだい、あんたまた来たのかい。アンダーウォーカーっての暇なんだね」
デジャブ?
そこにいたのは、ふわふわの毛皮の塊だった。
「ひっ! なに? 化け物?」
「失礼だね。あたしだよ、リノ」
塊の隙間からたしかにリノの顔が見えた。
「このあいだの、狩りで獲たヤギの毛を干してたところさ。それで、あんたは何しに来たんだい?」
「ユウはどうやってレオを覇者にしたのか、教えて欲しくて」
「とりあえず、これからお茶の時間だから飲んでいきな」
この間昼飯をごちそうしてもらった広間には、女たちが車座になって話に花を咲かせていた。
「お茶なんて久しぶりだね」
「ここのところ忙しかったから、たまにはいいよ」
「そうそう、材料が豊富だからねえ」
「仕事があるってのはいいことさ」
楽しそうな笑い声が響いていた。
用意してくれたのはお茶というよりジュースみたいな液体だった。
「なにで出来てるの?」
「ミカンだよ。あの林の木は時期になると実を付けるのさ。それを煮詰めて保存してある。あたしらもたまにしか飲めないけど、悩んでるときに甘いもんは効くだろ?」
悩んでることがバレている。リノおそるべし。
「で、ユウがなにをしたか、だっけ? さあてねぇ。なんせ二百年前のことだよ。具体的になにをしたのかはあたしだって知らないねぇ」
「さっき、ハルくんが遠征しろって」
戦国時代なら合戦みたいなもんか。群雄割拠の時代に天下布武を目指した信長とか秀吉とか。
「ハルの母親はダワラの出だからね。恨みもあるんだろうよ」
「それであんなこと……」
「ダワラでは相変わらず女は奴隷のような扱いだからね。ハルの母親は命からがら逃げてきたけど、父親は途中で殺されたそうだよ」
う……。それで自分さえよければなんて言われたのか。
でも、戦ったからって勝つとは限らないわけで。
かといって、いまも虐げられている人たちがいるかと思うと……。
うんうんと唸っていると、リノに背中を叩かれた。痛い。
「そんなことはあんたが悩む問題じゃないよ」
「え? でもハルくんは……」
「アンダーウォーカーが戦いになんの役に立つっていうんだい。するかしないかはハオが決めることさ」
いやそりゃ俺じゃ戦力になんかならないのは分かってる。
でも、なんにもしないでいるのは、ダワラで苦しむ人たちを見捨てることになるじゃないか。
話し合いで解決できれば、それが一番いいけど……。常識が違うこの世界で俺の話なんて聞いてもらえるとは思えない。
「ユウだってここから一歩も外に出てないんだ。あんたができることなんて、ハオのやる気を出させることくらいだよ」
「やる気ねぇ……」
「狩りだって発掘だって、あんたのためだろ? おかげであたしらも仕事が増えて大助かりさ」
「別にそれだって俺がしろって言ったわけじゃない。ハオが勝手に……」
「ははっ! ハオは相当あんたに夢中だね」
「はぁ? 違うだろ? 俺がアンダーウォーカーだからってだけでっ!」
「なんだい。あんた、アンダーウォーカーだからハオが構ってくれてるって思って悩んでたのかい? あんたも十分、ハオに夢中なんだねぇ」
「ち、違うっ! 別に俺はっ!」
違うって言ってるのにリノはまったく聞く耳を持ってくれなかった。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました
水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。
世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。
「見つけた、俺の運命」
敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。
冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。
食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。
その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。
敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。
世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
腐男子♥異世界転生
よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。
目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。
トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。