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とある潜伏者の手記2
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八日目
街に戻ってきたというのに、まだこの日記を続けているのに今気がついた。まあこの際だ、日課にしてしまうのもいいかもしれない。向こうに紙と黒カズラがあればいいのだが・・・。
朝起きた時に鼻血が出てしまったようで、妹の頭付近に血がついていた。妹に付かなくて良かった、これが原因で嫌われたら村に帰った瞬間に引きこもる自信がある。
起きて朝食を食べて早々に妹は挨拶回りに飛び出していった。妹は交友関係が広いため大変だろうと、又友人と離れ離れになる事は寂しい思いをさせるだろうと少し申し訳ないきも・・・まぁ向こうでもまた友人が作れる、しかも人だけのではない、きっと妹にとっても嬉しい結果になるだろう。
引越しの支度が整った昼頃、妹が帰ってきた。予想より大分早く帰って来たことに驚いたが、どうやら妹の横にいる女性をみれば訳ありの事だと察した。
確か・・・パン屋のおかみさんだったかな?周囲への面倒見の良いまとめ役のような人だったはず。
今回の引越しに思うところがあって、わざわざ訪ねてきたらしい。もう決まったことなので、どう言われてもしかたないのだが・・・詳しく説明しても無駄だと思うし信じてもくれないだろうから、適当に受けこらえしていると、おかみさんの後ろから見慣れた顔の男がやってきた。・・・私の「仕事の上司」だった。
人づてに私が戻ってきている事を聞いて足を運んだらしい。余計な手間を取らせた事に恐縮し・・・ここでふと、「仕事」の事について思い出した。
サッと、血の気が引くのが自分でも分かった。何で仕事の事をわすれてたんだ?
慌てる私を妹が心配そうに見ている。
上司は何やら何かに気づいた様子で、仕事場までついてくるように言われた。言われるがままにフラフラとついていきそうになる私だったが、そこで妹が上司に待ったを掛けた。明らかに体調がよくない私を見て、1日休養させてからにして欲しいと涙目ながらに訴えてくれている。
流石に子供の泣き顔に弱ったのか、上司の許可もあり、一旦その場はお開きになり翌日になるまで時間を貰うことができた。
頭が痛い・・・めまいが酷い・・・村に居たときはこんな思いをせずに済んでいたのに・・・。
早く帰りたい
九日目
早朝、まだ陽も昇らず暗い中、妹に起こされた。
「早くあの村に帰ろう?」
そう言われたので、準備してあった荷物を持ち家を出た。
そうか、妹も楽しみにしてくれていたのだな・・・、なら早く帰ろう、あの村からまた新しく一歩を踏み出そう。
仕事も「全て忘れて」あの理想郷へ・・・。
十日目
村に到着した。
驚いた事に街から少し歩いた所でウルフの長と村人数人が待っていた。どうやら背に乗せてくれるらしいとの事で、短期間で村に帰って来れた。
村の中、思考はとてもクリアだ。
街に行ったときのような焦りはなく、とても穏やかな気持ちで満たされる。
最初に村長に挨拶に行くと、第一声から謝罪が始まり驚いた。
曰く、私たちには既に神が宿っているらしく、その神により思考が制限され、この村に戻るように誘導されていたので、街で不自由な思いをしたかもしれないと。
振り返ってみると確かにおかしい。言動も、思考も、そして何よりこの手記も。何故ところどころ第三者による視点が入っているのかとか、街に行った時にでさえ無意識に書いていたのかとか。
村長は神と混ざる副作用的な物ではないかと言っていたが、見方によってはこれは一種の呪いではないのか。
しかし、今、この様に呪いという不敬な考えを持てた。
村長はこうも言っていた。以後貴方達は神の庇護下に置かれる。村に危害を与えなければ、身体的にも精神的にもより健やかに過ごせる・・と。
それはこの村の人たちを見て、実際に住んでみて実感して欲しいと。
神とは一体なんなのだろう。
私たちの帰依するに値する者なのだろうか・・・。
この思考すら、今は神に許されているらしい。
街に戻ってきたというのに、まだこの日記を続けているのに今気がついた。まあこの際だ、日課にしてしまうのもいいかもしれない。向こうに紙と黒カズラがあればいいのだが・・・。
朝起きた時に鼻血が出てしまったようで、妹の頭付近に血がついていた。妹に付かなくて良かった、これが原因で嫌われたら村に帰った瞬間に引きこもる自信がある。
起きて朝食を食べて早々に妹は挨拶回りに飛び出していった。妹は交友関係が広いため大変だろうと、又友人と離れ離れになる事は寂しい思いをさせるだろうと少し申し訳ないきも・・・まぁ向こうでもまた友人が作れる、しかも人だけのではない、きっと妹にとっても嬉しい結果になるだろう。
引越しの支度が整った昼頃、妹が帰ってきた。予想より大分早く帰って来たことに驚いたが、どうやら妹の横にいる女性をみれば訳ありの事だと察した。
確か・・・パン屋のおかみさんだったかな?周囲への面倒見の良いまとめ役のような人だったはず。
今回の引越しに思うところがあって、わざわざ訪ねてきたらしい。もう決まったことなので、どう言われてもしかたないのだが・・・詳しく説明しても無駄だと思うし信じてもくれないだろうから、適当に受けこらえしていると、おかみさんの後ろから見慣れた顔の男がやってきた。・・・私の「仕事の上司」だった。
人づてに私が戻ってきている事を聞いて足を運んだらしい。余計な手間を取らせた事に恐縮し・・・ここでふと、「仕事」の事について思い出した。
サッと、血の気が引くのが自分でも分かった。何で仕事の事をわすれてたんだ?
慌てる私を妹が心配そうに見ている。
上司は何やら何かに気づいた様子で、仕事場までついてくるように言われた。言われるがままにフラフラとついていきそうになる私だったが、そこで妹が上司に待ったを掛けた。明らかに体調がよくない私を見て、1日休養させてからにして欲しいと涙目ながらに訴えてくれている。
流石に子供の泣き顔に弱ったのか、上司の許可もあり、一旦その場はお開きになり翌日になるまで時間を貰うことができた。
頭が痛い・・・めまいが酷い・・・村に居たときはこんな思いをせずに済んでいたのに・・・。
早く帰りたい
九日目
早朝、まだ陽も昇らず暗い中、妹に起こされた。
「早くあの村に帰ろう?」
そう言われたので、準備してあった荷物を持ち家を出た。
そうか、妹も楽しみにしてくれていたのだな・・・、なら早く帰ろう、あの村からまた新しく一歩を踏み出そう。
仕事も「全て忘れて」あの理想郷へ・・・。
十日目
村に到着した。
驚いた事に街から少し歩いた所でウルフの長と村人数人が待っていた。どうやら背に乗せてくれるらしいとの事で、短期間で村に帰って来れた。
村の中、思考はとてもクリアだ。
街に行ったときのような焦りはなく、とても穏やかな気持ちで満たされる。
最初に村長に挨拶に行くと、第一声から謝罪が始まり驚いた。
曰く、私たちには既に神が宿っているらしく、その神により思考が制限され、この村に戻るように誘導されていたので、街で不自由な思いをしたかもしれないと。
振り返ってみると確かにおかしい。言動も、思考も、そして何よりこの手記も。何故ところどころ第三者による視点が入っているのかとか、街に行った時にでさえ無意識に書いていたのかとか。
村長は神と混ざる副作用的な物ではないかと言っていたが、見方によってはこれは一種の呪いではないのか。
しかし、今、この様に呪いという不敬な考えを持てた。
村長はこうも言っていた。以後貴方達は神の庇護下に置かれる。村に危害を与えなければ、身体的にも精神的にもより健やかに過ごせる・・と。
それはこの村の人たちを見て、実際に住んでみて実感して欲しいと。
神とは一体なんなのだろう。
私たちの帰依するに値する者なのだろうか・・・。
この思考すら、今は神に許されているらしい。
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