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モブ姫は苺のチョコレートを優雅に食べる
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王宮の庭園、午後三時。
私は、ふかふかのソファに深く身を沈め、目の前に並んだ色とりどりの極上スイーツを眺めていた。
「リリア、この苺のタルトを食べてごらん。今朝一番の特級品だよ。はい、あーん」
「お兄様、あーん……」
「……うん、いい食べっぷりだね。リリアが美味しそうに食べてくれると、僕まで幸せな気分になるよ」
目の前で、爽やかな笑顔を浮かべているのは、私の兄、第一皇太子エドワード。
金髪碧眼、文武両道、そして妹の私を少しばかり甘やかしすぎる、自慢のお兄様だ。
彼が次期国王として君臨し続けてくれれば、私は一生、王女という名の高給ニートとして優雅に暮らせる。彼こそが私の「平穏な日常」の保障人なのだ。
そう、この世界は前世で友人から散々聞かされていた乙女ゲーム『恋する乙女と光の聖域』の世界だと気づいたのはつい最近、初めは静観しようとしたのだが。
「……リリア、実はね。最近、学園で少し気になる令嬢がいて」
来た。お兄様の口から、不穏なワードが飛び出す。
「アリス・ルナール男爵令嬢というんだ。彼女は、僕を皇太子としてではなく、一人の男として見てくれている気がしてね。その……とても天真爛漫で、可愛い子なんだよ」
(天真爛漫、ねえ。裏ではお兄様のこと『歩く金庫』って呼んでるくせに)
耳の奥で、学園にて偶然耳にした声を思い出した。
「あはは~。ゲーム通りにすればみんな簡単に落ちるわ、全部私の思い通り!ハーレムエンドあと少しだわ」
(可愛い顔でゲスな計画を…。)
彼女もまた、私と同じ転生者。それも乙女ゲームでの「逆ハーレム」を狙って自分の思い通りにしようと思っている、傲慢で底意地の悪い女。
私は、手に持っていたフォークを静かに置いた。
お兄様は優秀だが、人が良すぎる。だからこそ、計算高いヒロインの「毒」は回りやすい。
(あのアリス・ルナールとかいう女が王妃になったら、私はお茶菓子どころか、政略結婚で魔境に飛ばされるか、路頭に迷う羽目になる……!)
それだけは、絶対に阻止しなければならない。私の安眠と、この最高級の苺のチョコレートのために。
「お兄様……」
私は、わざとらしく瞳を潤ませ、震える手でお兄様の袖をギュッと掴んだ。
「私、怖いですわ。最近、学園で恐ろしい噂を耳にしましたの。あのアリス様……お兄様に内緒で、他の殿方にも同じように『特別だ』と囁いていると……」
「えっ? まさか。彼女に限って……」
「お兄様は、あまりに純粋すぎますわ。あのような方に、大切なお兄様のお心が傷つけられたらと思うと……私、悲しくて、もう夜も眠れませんわ(昨日は10時間寝たけど)」
「リリア……。君は、そんなに僕のことを心配してくれていたのかい。……すまない、僕が浅はかだった。君を不安にさせるなんて、兄として情けないよ」
お兄様は私の手を優しく包み込み、申し訳なさそうに眉を下げた。
よし、大成功。今の彼は「恋に浮かれる男」から「妹に心配をかけている自覚を持った兄」へと切り替わった。
「……全く。エドワード、君は相変わらず妹君の言葉には弱いね」
低く、落ち着いた声がした。
東屋の入り口に立っていたのは、私の婚約者、アレクシス公爵令息だ。
目立たない「普通の容姿」を装っているが、お兄様の学友であり、最も信頼される相談役。
「アレクシス! 聞いてくれ、リリアが僕のためにこんなに……。ああ、彼女を安心させるためにも、僕は一度、冷静に周囲を見るべきだね」
「ああ、そうだね。……リリアの言う通りだ、エドワード。君はしばらく彼女とは距離を置いて、本来の公務に戻るべきだ。後の事は僕がやっておこう」
アレクシスはお兄様の肩を叩き、優しく、けれど断固とした態度で彼を公務(隔離)へと促した。
お兄様が「リリア、また後でね」と名残惜しそうに去っていくのを見送り、私はアレクシスに向き直る。
「……。私の『平穏』を邪魔するものは、根こそぎ片付けておかないとね」
アレクシスは、お兄様の前で見せていた「善良な友人」の仮面を脱ぎ捨て、私にだけ見えせる不敵な笑みを浮かべた。
彼は私の手を取り、その指先に、唇を寄せる。
「承知したよ、お姫様。……僕も、領地経営も終わったし退屈してたから手伝うよ」
「あら、ちょうど良かったわ、ふふふ…」
(……この婚約者、やっぱりただの腹黒じゃないわね?よかった、予め協力してもらえて)
波乱の予感に眉をひそめながらも、私は次の作戦を練り始めた。
私は、ふかふかのソファに深く身を沈め、目の前に並んだ色とりどりの極上スイーツを眺めていた。
「リリア、この苺のタルトを食べてごらん。今朝一番の特級品だよ。はい、あーん」
「お兄様、あーん……」
「……うん、いい食べっぷりだね。リリアが美味しそうに食べてくれると、僕まで幸せな気分になるよ」
目の前で、爽やかな笑顔を浮かべているのは、私の兄、第一皇太子エドワード。
金髪碧眼、文武両道、そして妹の私を少しばかり甘やかしすぎる、自慢のお兄様だ。
彼が次期国王として君臨し続けてくれれば、私は一生、王女という名の高給ニートとして優雅に暮らせる。彼こそが私の「平穏な日常」の保障人なのだ。
そう、この世界は前世で友人から散々聞かされていた乙女ゲーム『恋する乙女と光の聖域』の世界だと気づいたのはつい最近、初めは静観しようとしたのだが。
「……リリア、実はね。最近、学園で少し気になる令嬢がいて」
来た。お兄様の口から、不穏なワードが飛び出す。
「アリス・ルナール男爵令嬢というんだ。彼女は、僕を皇太子としてではなく、一人の男として見てくれている気がしてね。その……とても天真爛漫で、可愛い子なんだよ」
(天真爛漫、ねえ。裏ではお兄様のこと『歩く金庫』って呼んでるくせに)
耳の奥で、学園にて偶然耳にした声を思い出した。
「あはは~。ゲーム通りにすればみんな簡単に落ちるわ、全部私の思い通り!ハーレムエンドあと少しだわ」
(可愛い顔でゲスな計画を…。)
彼女もまた、私と同じ転生者。それも乙女ゲームでの「逆ハーレム」を狙って自分の思い通りにしようと思っている、傲慢で底意地の悪い女。
私は、手に持っていたフォークを静かに置いた。
お兄様は優秀だが、人が良すぎる。だからこそ、計算高いヒロインの「毒」は回りやすい。
(あのアリス・ルナールとかいう女が王妃になったら、私はお茶菓子どころか、政略結婚で魔境に飛ばされるか、路頭に迷う羽目になる……!)
それだけは、絶対に阻止しなければならない。私の安眠と、この最高級の苺のチョコレートのために。
「お兄様……」
私は、わざとらしく瞳を潤ませ、震える手でお兄様の袖をギュッと掴んだ。
「私、怖いですわ。最近、学園で恐ろしい噂を耳にしましたの。あのアリス様……お兄様に内緒で、他の殿方にも同じように『特別だ』と囁いていると……」
「えっ? まさか。彼女に限って……」
「お兄様は、あまりに純粋すぎますわ。あのような方に、大切なお兄様のお心が傷つけられたらと思うと……私、悲しくて、もう夜も眠れませんわ(昨日は10時間寝たけど)」
「リリア……。君は、そんなに僕のことを心配してくれていたのかい。……すまない、僕が浅はかだった。君を不安にさせるなんて、兄として情けないよ」
お兄様は私の手を優しく包み込み、申し訳なさそうに眉を下げた。
よし、大成功。今の彼は「恋に浮かれる男」から「妹に心配をかけている自覚を持った兄」へと切り替わった。
「……全く。エドワード、君は相変わらず妹君の言葉には弱いね」
低く、落ち着いた声がした。
東屋の入り口に立っていたのは、私の婚約者、アレクシス公爵令息だ。
目立たない「普通の容姿」を装っているが、お兄様の学友であり、最も信頼される相談役。
「アレクシス! 聞いてくれ、リリアが僕のためにこんなに……。ああ、彼女を安心させるためにも、僕は一度、冷静に周囲を見るべきだね」
「ああ、そうだね。……リリアの言う通りだ、エドワード。君はしばらく彼女とは距離を置いて、本来の公務に戻るべきだ。後の事は僕がやっておこう」
アレクシスはお兄様の肩を叩き、優しく、けれど断固とした態度で彼を公務(隔離)へと促した。
お兄様が「リリア、また後でね」と名残惜しそうに去っていくのを見送り、私はアレクシスに向き直る。
「……。私の『平穏』を邪魔するものは、根こそぎ片付けておかないとね」
アレクシスは、お兄様の前で見せていた「善良な友人」の仮面を脱ぎ捨て、私にだけ見えせる不敵な笑みを浮かべた。
彼は私の手を取り、その指先に、唇を寄せる。
「承知したよ、お姫様。……僕も、領地経営も終わったし退屈してたから手伝うよ」
「あら、ちょうど良かったわ、ふふふ…」
(……この婚約者、やっぱりただの腹黒じゃないわね?よかった、予め協力してもらえて)
波乱の予感に眉をひそめながらも、私は次の作戦を練り始めた。
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