ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

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~三章 復讐の乙女編~

二十三話 未知の勝負

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「……大変なことになったわねぇ」

「……大変なことよ、これは」

 辺りはすっかりと夜に浸かり、ベンチに座った私とバラコフは綺麗な星空を見ながらぽつりと呟いた。

 沈む気持ちとは裏腹にオリゾンの街は夜だというのに、その賑やかさと明かりは消えない。二十四時間フル回転のカジノ営業は止まることを知らない不夜城と化し、多くのギャンブラー達が酒を飲みながら至る所で賭け事をしている。

 本来なら私達はもう明日に備えて宿を取って寝るところだが、そうはいかない。

 だって一文無しの素寒貧すかんぴんにされたからだ。

 もちろんこれは自業自得であり、勝負事に熱くなりすぎた自分の責任だ。

「ヴィエリィ、あたし言ったわよね? 残金はちゃんと確認しとけって」

「ええ、言ったわね。私は確認してるつもりだったわ。……でもあんなに熱くなるとは思わなくって」

 賭け事をする上で大切なのは引き際である。いかに自分の手持ちをコントロールし、その場の流れを見極められるか──これこそが常勝の鉄則である。

 しかしこの乙女はこと勝負という荒波に乗ると、まるで手綱を失った暴れ馬の如く突っ走る癖があり、大勝か大敗、またはどちらかが明白に勝つか負けるかの二択しかできぬ不器用な戦乙女いくさおとめであった。

「あんたねぇ……手持ちが無いのにあんな大勝負してどうすんのよぉ」

「……そうね。そうよね。反省してるわ……」

「反省じゃ訊かないわよぉ! サンちゃんどうするのよぉ!?」


 ──仲間の一人がいなくなっていた。いなくなった理由はわかる。

 それは私が無謀な大勝負をしたばかりに、払うお金が無くなってしまい、サンゴーはその負け分の額を払うまでカジノ側に担保として囚われてしまったのだ。

 仲間を助ける──それは当たり前の決定事項であるのだが、問題はその方法だ。

 助ける方法はたった一つ。負け分を払えばいいだけ。だが、それが一番の問題。確実に払うにはこれからコツコツと働かなければならない。

 しかしそれは良識のある負け額の場合だ。今回私が負けた額はなんと"20万G"の大金である。働いて稼ぐには多すぎる額、まともに働いては数ヶ月はかかるであろう。

 それと別の問題もある。金が払えないからといってサンゴーは殺される訳では無いからその部分は安心なのだが、彼が機械で出来たロボットであるのがバレると非常にまずい。

 もしバレてしまうと、借金のかたとしてそのまま彼が売られてしまう危険性があるのだ。

 簡単と率直に言えば時間が無い。サンゴーの身も私達の目的も、ちんたらやってる時では無いのである。

「もぉぉぉ! どうすんのよぉぉ!」

「…………何か方法が、無いのかっ……!」

 発狂するオカマとひたすら頭を抱える私は、人目から見てだいぶ参っているように見えたのだろう、周囲にいた人達はヤバい奴を見る目で距離を取るようにそそくさと離れていく。

 助けは皆無だ。急に親切な金持ちの老人が現れてお金を貸してくれるとか、落ちてた小銭でギャンブルして大穴当てて逆転勝利とか、突然大嵐が来て街がめちゃくちゃになって負債がうやむやになるとか……そんなことは起こらない、起こらないのだ……!

 現実は非情……! 取り返しはきかぬ修羅の道……!


「──君、何か困ってるのかね?」


 ──それは、いきなりであった。困り果てていた私達に小太りの中年が声をかけてきた。


「えっ!? お金貸してくれるんですか!?」


 もしや救世主かも知れない中年の登場、そのあまりのタイミングの良さに私は先取りをするような発言を先制攻撃のように言う。

「えっ、いや、お金は貸さないけど」

 それに対して中年、当たり前のことを言う。

「…………」

「…………」

「……ですよね!!」

 両者の間にシュールな間が挟むと、私は返事して再びガックリと頭を落とした。

「おじさまごめんなさいねぇ。この子とんちんかんなこと言ってぇ……」

 バラコフは私の首根っこを掴んで、オホホと笑いながらその場を後にしようとする。

「あっ、待ってくれ! 君達、さては金に困ってるんだろう? いいギャンブルの紹介があるだが……どうかね?」

 その発言でどこか胡散臭くなった中年は不適にそう言った。

「ギャンブル……? でも私達もうお金なんて持ってないし……」

「大丈夫! そのギャンブルはね、金じゃないんだよ。ただ女の子にしか出来ないギャンブルでね、私はこの街でお金に困ってる女の子に声を掛けて斡旋あっせんしてる者なんだ。どうだい? 興味あるかね?」

 この中年、怪しさ満点である。……しかし、現状でこの手の話しは正直無視は出来ない。

「(ちょっとヴィエリィ、このおっさん怪しすぎよぉ。なんかヤバい臭いがぷんぷんするわぁ!)」

 バラコフは小声で私に言う。

「……そのギャンブルは20万G稼ぐことも可能かしら?」

「ちょっとヴィエリィ!」

 バラコフの言う事はもっともだが、私はストレートな質問をおっさんに投げる。

「ぬふふ。それは君次第……だが、君なら多分大丈夫だと思うよ。そのギャンブルは容姿が大事になるからね。やってみるかい?」

「やるわ」

 私は即答した。

「バッカ! なんたってあんた──」

「大丈夫よ。とりあえず行ってみて駄目そうなら止めればいいだけ。仮に向こうが暴力で襲ってくるようなら私だって負けないし逆に都合がいいわ。それに悔しいけど今は手段を選んでる場合じゃないしね……」

 後ろを向いて二人は軽くやり取りをする。バラコフは不安な面持ちではあるが、この状況を打破するには致し方無いのかと顔をしかめた。

「相談は終わったかね?」

「──ええ、お願いするわ。その賭場に連れてって」

「おお! それじゃ、行こうか」

 中年の浮き足立った足取りを見ながら私達は後ろをついて行く。

 そのまましばらく歩かされると、街の奥にある人気の無い大きなサーカスのテントのような場所まで来た。

「さあ、着いたよ。この中でやるのさ」

「結構大きな所ね。ちょっとわくわくするかも」

「子供じゃないんだから……。あんたもうちょっと危機感覚えなさいよねぇ……」

 小太りの男はテント横の通路口から私達を案内する。薄暗い通路を通って大きな扉の前まで着くと、

「ここで待機してもらう。この扉が開いたら中へ進んでくれ。ギャンブルはすぐに始まる」

 中年はニヤッと笑いながら言った。

「ちょっとぉ! ギャンブルについての説明とかしなさいよぉ!」

「ぬふふ。慌てなさるな、ちゃんと中に入ったら説明するよ。じゃあ、私は話をつけてくるからここでお別れだ。後は君達の運と実力次第! まあ、頑張ってくれ。お客さんは君達のこと期待・・してるよ」

 そう言うと男は通路を引き返して去ってしまった。

「ヴィエリィ、やっぱり怪しすぎるわぁ! こんなの絶対危険よぉ!」

「うーん……確かに間違いなく罠に近い何かであるのは違いないわね」

「でしょお! なら──」

「でも、私達にも退路が無いのも事実だわ。それが罠とわかってても、人には行かねばならぬ時がある筈よ。これ以上失う物なんて無いんだから、前に進むっきゃ無いでしょ」

 バラコフは人生何度目の深いため息を吐く。彼がため息吐くのは大体私が何かやらかす時だ。申し訳なさもあるがこれが私の性分なのだから『ごめん』としか言えない。

「あんたと居るとほんとトラブルしかないわぁ!」

 また今にも発狂しそうな彼をなだめていると、重そうな扉がギギギと音を鳴らして開き始めた。

「おっ、始まるみたいね」

「もうやだ……どうしてこうなったのぉ」

 薄暗い通路に扉から漏れる一筋の光が照らす。それは徐々に太い光の帯となって私達の視界を覆った。

 それと同時に聴こえて来たのは、大勢の男達の野太い歓声であった。

 目の前に広がるは十角形のリング。それを囲む様に階段状の客席が設けられ、大勢の観客が今か今かとまるで武術の試合でも始まるかのような熱気を見せていた。

「な、なんなのぉ!? これぇ!?」

「この空気……嫌いじゃないわ──!」





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