【本編完結・R18】旦那様、子作りいたしましょう~悪評高きバツイチ侯爵は仔猫系令嬢に翻弄される~

とらやよい

文字の大きさ
5 / 44

闘志

しおりを挟む

目が覚めると隣にジョアキンの姿はなかった。
結婚式での疲れが予想以上に大きかったのか爆睡していた。
差し込む陽を見ると既に昼に近くにはなっているようだった。

「う…初日から寝坊なんて…やっちゃったわ…」

焦って起き上がると、見計らったかのように侍女が入ってくる。

「あ、あの…侯爵…旦那様は?」

「侯爵様は朝早くから王宮に向われました。何でも…急ぎの仕事があるからと…」

「そ、そう…」

見合いの時を思い出し相変わらず忙しいのだろうと納得する。

遅い食事を済ませると、執事に邸内を案内され使用人達との挨拶を終えれば他にすることもなくボーっと庭を眺めた。
侯爵夫人として学ぶべきものが沢山待ち構えていると思っていたので拍子抜けしてしまう。

何でも大奥様、ジョアキンの母から新婚時代はゆっくりと二人だけ時間を過ごせるようにとの配慮らしかった。
要するに子作りに大切な時間の邪魔はしないと言いたいのだろう。
自分が侯爵家に嫁いできた本来の役割なのだから異議を唱えることもない。

しかし、昨晩は旦那様も自分もただ普通に睡眠をとっただけだ。
子供が出来ることはしていない筈だ。
閨事について、いくら無知な自分でも同じベッドで睡眠をとったくらいで懐妊しないことくらいはわかる。

ということは今日の夜は何かあるのだろうか。

そんな不安と期待が入り混じるエメリの想いをよそに、結婚式以降二人が顔を合わせることはなかった。

ジョアキンはエメリが寝静まった深夜に帰宅しエメリが起きる前の早朝に邸宅を離れ王宮へ向かう生活が始まったのだ。

エメリはいつものように一人で目覚めベッドの隣を見つめた。
確かに帰って来て自分の横で寝ていることは間違いないらしい。
ジョアキンが寝ていたであろう場所のシーツには皺が寄り触れると仄かに温かい。
忙しい忙しいと言いながらも帰宅し一緒のベッドで寝るのだから変なところにだけ律儀だ。

仕事が忙しいから先に休むようにと毎日やって来る使者からの伝言にも、いい加減苛立ちを覚えた。

そんな生活が一ヶ月続けば忙しい夫の健康を心配していたエメリも、流石に変だと気付き始める。
いくら忙しいとはいえ、こんなに家にいないになんてあり得るのだろうか。

「…最初から気に入ってもらっているとは思っていなかったけれど…最終的に結婚を申し込んできたのは侯爵様の方からよね…いくらお婆様に無理矢理させられた結婚とはいえ…子供じゃないんだから…このままでいい筈がないのよ…」

エメリはいつもの定位置で庭を眺めながらブツブツと呟く。

今思いつく原因を全て挙げてみる。
本当に死ぬほど忙しい。
純粋にエメリが気に入らない。
好きな女がいる。
実は男が好き。

どんな理由があろうとも結婚した以上、エメリは自分の役割を全うしなければならない。
子供が出来なければ他に妾を持つということも考えられるし…悪くすれば離縁し三人目の妻を迎えることだって考えられる。

子が出来ないことを理由に離縁されれば再婚も難しくなるだろう。
既に何人もの子がいる人の後妻となるとか…考える程、自分に待ち受けている未来に暗い雲が立ち込める。

先ずは、子を授かるための行為…閨事を遂行しなければ埒が明かない。
このまま子を出来ぬことを理由に離縁されるなんて嫌だ。

グッと拳を握ったエメリの瞳には闘志がみなぎった。

エメリは侍女のローラを呼んだ。

結婚と同時にエメリ付きに抜擢されたローラは優秀な侍女だ。

結婚してから自分の身の回りの世話を焼き親身に接してくれるローラは口も堅く、信頼できる人物だとこの一ヶ月で充分わかっていた。
この賢い侍女なら、もう自分と旦那様の間に肉体的繋がりがないことは薄々気付いているだろう。

エメリは覚悟を決めてローラに全てを話した。
そして赤くなりながらローラにアドバイスを求めたのだ。

ローラの母はジョアキンの乳母で幼い頃からこの侯爵邸で生活しており、ローラとジョアキンとは幼い頃からよく知った中でもあるのだ。
夫も侯爵家の使用人として働いているローラはエメリより七歳年上で既に結婚し子供が一人いた。

「元々、私を気に入って結婚に至った訳ではないのは理解しているの…でも、このままでは子を授かることも出来ないし…」

俯きながら唇を噛む。

「そもそも旦那様から見れば七歳も年下の私なんて子供っぽくて女性として見れないとか?…だとしたら…自分なりに努力できないかと思って…大人の色気?女性として色っぽい仕草や演出?というものがあれば教えて欲しいの」

「まぁ!エメリ様は充分にお可愛らしくていらっしゃいます!まだ、お若いので色気というのは…でも、その若さこそ武器になります!男はエメリ様のように若く純真で初心な女を好きな者が多いのですから!」

「でも、旦那様はそうではないのでしょう…そもそも、見合いの時から私を嫌っていると思うくらいよ」

「いいえ…そんなことはございません!侯爵様は元来女性には素っ気ないお方なのです。逆にエメリ様とは毎晩同じベッドでお休みになっているのですから嫌っているなどあり得ませんわ」

きっぱりと言い切るローラ。

「女性に素っ気ないって……前妻の方を執着が強すぎるくらい愛していたのでしょう?…女嫌いというのとは違うのかなって…だから嫌われているとか…興味を持たれてないのか…まあ、興味を持たれていないくらいなら頑張りようもあるのかもしれないけれど」

「前の奥様とは幼き頃からのご友人でございましたし…女嫌いという訳でございません。ご親族やごご友人達の中には勿論女性もいらっしゃいますし、愛想よくはなくとも…普通に接していらっしゃいました。ただ…あの見栄えのする容姿ですから…大変女性に人気があり…女性達の熱い視線を遮るために一層愛想がなくなってしまわれて…」

「……そう、では…私にも挽回の余地があるということかしら…」

「勿論でございます!」

「……では…協力してもらえる?…ローラ、あなたの力が必要だわ!」

エメリは縋るようにローラの手を強く握り締めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

虚弱姫はコワモテ将軍の筋肉に触りたい

隙間ちほ
恋愛
◼︎無骨な英雄×病弱な筋肉フェチ姫 ◼︎辺境伯の末娘エルナは、領軍の英雄マテウスとの結婚が決まった。政略結婚――のはずが、実は姫は将軍の熱烈なファン。姫がノリノリで嫁ぐ一方、当のマテウスは「か弱い姫君に嫌われている」と思い込み、距離を取ってしまう……。 ◼︎筋肉と鼻血とすれ違いラブコメ。 ◼︎超高速展開、サクッと読めます。

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚した。これは金が欲しい父の思惑と、高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない。 そもそもヴィンセントには恋人がいて、その恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ。 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら屋に住むように言われて…… 表紙はかなさんのファンアートです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか? 侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。 「何故呼ばれたか・・・わかるな?」 「何故・・・理由は存じませんが」 「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」 ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。 『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』 愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。

処理中です...