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第二巻『[人間]の業は 人の傲慢で 贖われる。』(RoGD Ch.3)
Verse 3-9
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かしこまった医者が案内したベッドに、ジークフリートは横たわっていた。傷は全くないものの、頭をかなり強く打って脳震盪を起こしていたという。
「そうか、退院はどのくらいになる?」
「はい、もう数日足らずで起きるかと思いますが。」
銀髪の男は、ジークフリートと同じく親衛隊の制服を着ていた。目は朱色で、顎に手を当てて暫く考えていた。
「カレを任務でイギリス北部に送る事になった。少し計画が遅れている。この状態で飛行機に乗せると危ないか?」
「気圧の変化で頭痛が酷くなるかと……大きな傷害は見当たりませんので、その他は大丈夫です。」
カルテを捲りながら答えた医者に、男は頷く。
「じゃあ明朝発つ。準備をよろしく頼んだ。」
「了解致しました、国土閣下。」
走り書きをする医者の横をすり抜けて病室を後にすると、目の前をストレッチャーが通っていった。
「こっちは終わったよ。」
「手間かけさせてすまねぇ。」
腕を組んでベッドの行く先を見守るリーズに、男は眉を下げた。
「別に、気にしてないよ。ドイツに自由に出入り出来るのボクくらいでしょ?」
「まあそりゃそうだけど……。そういや、零には会ったのか?」
若干汗ばんだうなじをハンカチで拭きながら、銀髪の男は青年の名前を口にした。
「いや、それがまだなんだよね……。イギリスで会えるから今すぐじゃなくてもいいかなって。シュヴァルツは来るの?」
シュヴァルツ・アードラーは頭を振った。
「やめとく。穴開けたら色々と総統が五月蝿いからな。」
「真面目だなぁ、流石ドイツ国土。」
褒められているのかけな貶されているのか分からないリーズの言葉に、シュヴァルツは苦笑いした。
「まあ、ライオネルには欧州主要国会議は今回も欠席だって言っといてくれ。」
「言っとくよ。呆れると思うけど。」
薄く微笑んだリーズは、ベッドの行った先を辿るようにその場を後にした。
月がすっかり輝く時間。以前泊まっていたのとはまた別のホテルのチェックアウトを済ませ、屋敷に泊めて貰う為に、零は帰宅するルプレヒトと落ち合った。最早人気も伺えない帰路を、二人は歩いていく。
「……明日の荷造りは?」
「荷造りとかなくね?」
折角会話をしようとしたルプレヒトの言葉を、零は一蹴した。不味い、と口を閉ざしたが、それ以上ルプレヒトがなにか言う事はない。
「……手、繋いでいい?」
慌てて会話を続けようと、零は答えを待つ前にルプレヒトの指を引いた。
「……。」
零の細い手を開かせ、ルプレヒトは指を絡めた。
「これでいいか。」
「う、うん。」
何年、いや何十億年、何兆年、お互い触れずにいたのだろうか。気の遠くなるような時間であった。そして、その数字は決して比喩ではなく事実なのだから、尚更である。
「ルプ、レヒト。——」
風圧が零の言葉を押しのける。ルプレヒトはすぐにその体躯で零を風から庇った。
「退がれ。」
零にしか聞こえない程の囁きの後、秒も経たずに激しく金属のぶつかる音が耳朶を打った。
「おっと。そう簡単に刃を交わらせてはくれないか。」
軽やかに地面に降り立つ足音と、嘲笑の混じった声が聞こえると、零はルプレヒトの体から一歩離れて先を見据えた。
「アーサー……。」
「ご名答……!」
名前を呼ばれると、アーサー王は口端を歪めて再び地を蹴る。
「どうしてそれの隣にいる?ルプレヒト。お前は[堕天使]だろうが。」
再び黒いナイフで剣撃を弾き返すと、ルプレヒトは顔をしかめる。
「だれか知らないが、お前には関係ない。」
夜風に黒い髪を靡かせて、アーサー王は片眉を上げた。
「ふむ。私がそこの青年の体を乗っ取っていた、と言ったら、同じ答えが返せるか?」
零も身を縮こませるような殺意が辺りに充満した。止める間もなく地がへこむほど蹴り上げて、ルプレヒトはアーサー王に向かっていった。
「待て。」
首を一閃しようとしたナイフは、荒削りの氷の塊に弾かれた。弧を描いて地面に突き刺さったナイフは、瞬時にルプレヒトの影に吸い込まれる。
「ラスプーチン……。」
「どこにいるかと思えば亡霊のように零を追って。かつてのブリテンの王も今やストーカーよな。」
饒舌で呆れ混じりなグリゴーリーの言葉に、アーサー王はロングソードを地面に突き立てる。
「なんの用向きだ。」
「迎えに来てやったのに何だ?その口のきき方は。王とて農民の作る作物で生きているのだぞ。頭は下げろ。」
不遜な物言いに腹が立ったのか、アーサー王はロングソードを引き抜いて荒々しく鞘に仕舞った。
「お前は私の民草ではないはずだが?……まあ迎えの礼くらいはいいだろう。」
背を向けたアーサー王に仏頂面になり、グリゴーリーは零とルプレヒトの方へ振り返る。
「さて……。こうして相見えるのはいつぶりか。」
「御託はいい、さっさと消えろ。」
その時初めて、零はいつの間にか手にしていた刀を鞘から抜いた。月光に反射して淡く輝く刀身を見て、グリゴーリーは嬉しそうに微笑む。
「折角の再会だ。少しだけ言葉を交わしても良かろう?」
「話題はねぇつってんだよ。もっかい言うぞ。消えろ。」
取り合おうとしない零に、グリゴーリーは肩を竦めた。
「そこまで頑なであるなら仕方あるまい。帰るぞ、アーサー。」
ため息とともに背を向けるアーサー王の方へ向かい、二人は暗闇の中に紛れていった。
「零……。一つ聞いていいか。」
刃を収めて、零は尋ねてきたルプレヒトに体を向けた。
「お前は、失楽園戦争の時には既にいなかったはずだ。ラスプーチンの事を何故知っている?」
「……この世界ができる、もっと前の話なんだ。今度話すよ。」
寂しそうに微笑まれ、ルプレヒトはそれ以上グリゴーリーとの仲を追求する事は出来なかった。
* * *
「そうか、退院はどのくらいになる?」
「はい、もう数日足らずで起きるかと思いますが。」
銀髪の男は、ジークフリートと同じく親衛隊の制服を着ていた。目は朱色で、顎に手を当てて暫く考えていた。
「カレを任務でイギリス北部に送る事になった。少し計画が遅れている。この状態で飛行機に乗せると危ないか?」
「気圧の変化で頭痛が酷くなるかと……大きな傷害は見当たりませんので、その他は大丈夫です。」
カルテを捲りながら答えた医者に、男は頷く。
「じゃあ明朝発つ。準備をよろしく頼んだ。」
「了解致しました、国土閣下。」
走り書きをする医者の横をすり抜けて病室を後にすると、目の前をストレッチャーが通っていった。
「こっちは終わったよ。」
「手間かけさせてすまねぇ。」
腕を組んでベッドの行く先を見守るリーズに、男は眉を下げた。
「別に、気にしてないよ。ドイツに自由に出入り出来るのボクくらいでしょ?」
「まあそりゃそうだけど……。そういや、零には会ったのか?」
若干汗ばんだうなじをハンカチで拭きながら、銀髪の男は青年の名前を口にした。
「いや、それがまだなんだよね……。イギリスで会えるから今すぐじゃなくてもいいかなって。シュヴァルツは来るの?」
シュヴァルツ・アードラーは頭を振った。
「やめとく。穴開けたら色々と総統が五月蝿いからな。」
「真面目だなぁ、流石ドイツ国土。」
褒められているのかけな貶されているのか分からないリーズの言葉に、シュヴァルツは苦笑いした。
「まあ、ライオネルには欧州主要国会議は今回も欠席だって言っといてくれ。」
「言っとくよ。呆れると思うけど。」
薄く微笑んだリーズは、ベッドの行った先を辿るようにその場を後にした。
月がすっかり輝く時間。以前泊まっていたのとはまた別のホテルのチェックアウトを済ませ、屋敷に泊めて貰う為に、零は帰宅するルプレヒトと落ち合った。最早人気も伺えない帰路を、二人は歩いていく。
「……明日の荷造りは?」
「荷造りとかなくね?」
折角会話をしようとしたルプレヒトの言葉を、零は一蹴した。不味い、と口を閉ざしたが、それ以上ルプレヒトがなにか言う事はない。
「……手、繋いでいい?」
慌てて会話を続けようと、零は答えを待つ前にルプレヒトの指を引いた。
「……。」
零の細い手を開かせ、ルプレヒトは指を絡めた。
「これでいいか。」
「う、うん。」
何年、いや何十億年、何兆年、お互い触れずにいたのだろうか。気の遠くなるような時間であった。そして、その数字は決して比喩ではなく事実なのだから、尚更である。
「ルプ、レヒト。——」
風圧が零の言葉を押しのける。ルプレヒトはすぐにその体躯で零を風から庇った。
「退がれ。」
零にしか聞こえない程の囁きの後、秒も経たずに激しく金属のぶつかる音が耳朶を打った。
「おっと。そう簡単に刃を交わらせてはくれないか。」
軽やかに地面に降り立つ足音と、嘲笑の混じった声が聞こえると、零はルプレヒトの体から一歩離れて先を見据えた。
「アーサー……。」
「ご名答……!」
名前を呼ばれると、アーサー王は口端を歪めて再び地を蹴る。
「どうしてそれの隣にいる?ルプレヒト。お前は[堕天使]だろうが。」
再び黒いナイフで剣撃を弾き返すと、ルプレヒトは顔をしかめる。
「だれか知らないが、お前には関係ない。」
夜風に黒い髪を靡かせて、アーサー王は片眉を上げた。
「ふむ。私がそこの青年の体を乗っ取っていた、と言ったら、同じ答えが返せるか?」
零も身を縮こませるような殺意が辺りに充満した。止める間もなく地がへこむほど蹴り上げて、ルプレヒトはアーサー王に向かっていった。
「待て。」
首を一閃しようとしたナイフは、荒削りの氷の塊に弾かれた。弧を描いて地面に突き刺さったナイフは、瞬時にルプレヒトの影に吸い込まれる。
「ラスプーチン……。」
「どこにいるかと思えば亡霊のように零を追って。かつてのブリテンの王も今やストーカーよな。」
饒舌で呆れ混じりなグリゴーリーの言葉に、アーサー王はロングソードを地面に突き立てる。
「なんの用向きだ。」
「迎えに来てやったのに何だ?その口のきき方は。王とて農民の作る作物で生きているのだぞ。頭は下げろ。」
不遜な物言いに腹が立ったのか、アーサー王はロングソードを引き抜いて荒々しく鞘に仕舞った。
「お前は私の民草ではないはずだが?……まあ迎えの礼くらいはいいだろう。」
背を向けたアーサー王に仏頂面になり、グリゴーリーは零とルプレヒトの方へ振り返る。
「さて……。こうして相見えるのはいつぶりか。」
「御託はいい、さっさと消えろ。」
その時初めて、零はいつの間にか手にしていた刀を鞘から抜いた。月光に反射して淡く輝く刀身を見て、グリゴーリーは嬉しそうに微笑む。
「折角の再会だ。少しだけ言葉を交わしても良かろう?」
「話題はねぇつってんだよ。もっかい言うぞ。消えろ。」
取り合おうとしない零に、グリゴーリーは肩を竦めた。
「そこまで頑なであるなら仕方あるまい。帰るぞ、アーサー。」
ため息とともに背を向けるアーサー王の方へ向かい、二人は暗闇の中に紛れていった。
「零……。一つ聞いていいか。」
刃を収めて、零は尋ねてきたルプレヒトに体を向けた。
「お前は、失楽園戦争の時には既にいなかったはずだ。ラスプーチンの事を何故知っている?」
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