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第二巻『[人間]の業は 人の傲慢で 贖われる。』(RoGD Ch.3)
Verse 4-18
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実に慌ただしい秋の始まりであった。車にいくつかのボストンバックを積んでいたリチャード一世とフィリップ二世の下に、すっかりくたびれたリーズの車が停車した。
「準備はどうですか?順調です?」
「もうちょいで積み終わるぜ。段取り説明に来たんだろ?入れよ。」
玄関でリチャード一世や荷造りを手伝うゴーレム達とすれ違いながら、フィリップ二世はリーズをリビングに座らせた。元々はリーズの私的な一軒家だった為、家具は全てそのままだが、リチャード一世やフィリップ二世の趣味で置かれていたテーブルセンターなどは全て取り払われ、すっかり殺風景な内装になっていた。
「そろそろ出立出来そうですか。」
「そうだな……。まあ十分もせずに車は出せるだろ。」
アイスコーヒーを出されて、朝から政府施設に出入りしたり書類にサインをしたりと休む間もなかったリーズは漸く一息ついた。
「それは良かったです。よっぽどの事だと思いますが、手違いがなければ夜十時に用意した飛行機に乗り込んでください。イギリスに着けばライオネルが待っています。陛下。顔は覚えてらっしゃいますか……?」
「まあROSEAで見かけたから大丈夫だろ。」
ライトブラウンのきっちり七三に分けた髪とモノクルを思い出しながら、フィリップ二世は二度ほど頷いた。
「なら安心です。」
荷物は全て積み終えたのか、リチャード一世はいつの間にかベランダからリビングルームに入っていた。コーヒーメーカーに入っていたコーヒーを勝手に新しいマグカップに注ぎ込んで、疲れを癒す。
「終わったのか?」
「粗方。そろそろ玄関に来てほしい。」
リーズのマグカップが空になるまで待つつもりだったフィリップ二世は、目の前の国土が軽々とマグカップを掲げてごちそうさまの合図をすると仕方なく立ち上がった。
「次はいつ会えますかねぇ。」
「まあ数年で会えるんじゃねぇの?俺達にとっちゃ瞬き程度だろ。」
そうですね、とリーズは苦笑した。どうやら、フィリップ二世に[シシャ]の時間感覚が戻ってきているようだった。リチャード一世が庭へ消えると、リーズも漸く立ち上がってスーツのボタンを留めた。
「さて、ぐだぐだ話してないでそろそろ行きましょうか。こっちで使うより向こうで時間が余ったほうが得ですよ。」
「はっ、南でうまい飯食って来てやるよ。じゃあな。」
ズボンのポケットに手を突っ込んで、フィリップ二世もまた、リーズから借り受けていた邸を後にした。
リーズとその部下のゴーレム達に見送られて、二人は屋敷を後にした。次にここを訪れる頃には、聖女の噂が誠しやかに流れているかもしれない。朝に調理しておいた大量のフレンチフライを休みなくつまんでぽつりぽつりと思い出話を語っているうちに、やがて木々に囲まれた真っ平らな場所が見えてくる。飛行場だ。
「どうする。出るまで時間はある。」
手首を返して腕時計を見ると、確かに後数時間は余っていた。リーズの息が濃くかかっている軍人が、荷物を指定の航空機に運んでいくのを眺めながら、フィリップ二世は首を曲げた。
「飯を食おうとは思ったがフレンチフライでさして減って……っと、なんだあ、ありゃ?」
背中を思い切りぶつけられて、リチャード一世とフィリップ二世は思わず同じ方向を見た。プラチナブロンドの女性が一人、よろよろと拙い足取りで人混みに紛れていく。いまいち気の抜けた頭でそれを見送っていると、次に同じ方向へ走っていく軍人が数名通りすがっていった。その姿も見送っていたフィリップ二世の肩を、リチャード一世は叩いた。
「あの女性、白百合の髪飾りをつけていなかったか。」
「……つけてたわ。」
プラチナブロンドの中に一瞬だけ、黄昏の陽の色に煌めいた小さな白百合の髪留めを思い出し、二人は顔を見合わせた。
(レジスタンスだな。)
(レジスタンスだわ。)
瞬間、二人は全く別の方向に走り出していた。リチャード一世は女性が走っていった方向に、フィリップ二世は軍人に一人で使える待合室を尋ねてそこに駆け込んだ。
(あの女性、見た事があると思えばヨハンの妻だった女性だ。マルチェだったか。)
(え?あぁいたなそんなの。でも帝國じゃ結婚してなかったろ。)
人混みを掻き分けて、リチャード一世は部屋の周囲を確認するフィリップ二世の言葉に頷く。ギシギシと音を鳴らす椅子に座ったフィリップ二世は、テーブルにショルダーバックを放り出す。びっしりと名前の書かれた名簿を素早く辿ると、リチャード一世の脳内に再び呼びかける。
(これか?エーヴ・マルシェ、特徴はプラチナブロンドを一つ結びだ。)
(それだ、ヨハンの妻の名前はマルチェだったが、フランスの読みならマルシェか……。があれは苗字だったのか。)
ちょっと待ってろ、とフィリップ二世は薄い円盤を取り出した。スイッチを押すと、空中投影ディスプレイでSOUND ONLYという表示が浮かび上がった。
(うっせーなぁにがサウンドオンリーじゃ。ROSEAデータベースに接続っと……。)
ディスプレイをいじり倒して、フィリップ二世は個人認証を終えるとデータベースで苗字を入力する。
(あー、前回一九四五年のデータベースを見ると、改名したらしい。元々レジスタンスだった。閃光弾と銃撃により失明、脚も不自由になった。コードネーム"MARCHE"で、負傷後はナチスから完全監視下に置かれていたっつー事は……お前が言ってる奴は、コードネームをそのまま実名にしたか?)
(戦馬鹿にも理解できるように説明しろ。)
リチャード一世は、軍服の背を追うのをやめた。すぐに別の脇道に回り込んで、頭に流れ込んでくる道順を駆け抜ける。
(あ?つまり最初エーヴ・マルシェはMARCHEでレジスタンス活動してたが、ナチスから身元がバレてコードネームをそのまま実名にする事を条件に釈放されたんだよ。そんでマルシェ……プラス、ヨハンの苗字が実名になったわけだ。ヨハンと結婚したのが果たしてナチスの謀略なのが偶然なのかは知らねぇけど……。待てよ、エーヴ・マルシェとヨハンが結婚したのは四三年、つまり来年だ。っつー事は——)
(という事は、これで捕縛されてナチス側に引き渡されたという事か。ちなみにその改名をして何かナチスに得が?)
フィリップ二世は肩を竦めた。元々諜報員である彼も、この意義はいまいちよく分からなかった。
(さあな。まあこの頃じゃナチスは敗戦が若干見えてきた頃だ、レジスタンスを一人でも減らしたかったんだろ。コードネーム実名にされちゃ積極的に地下活動できねえし。これを拒否したなら殺すだけだしな。)
空き家の屋根からエーヴ・マルシェが建物に飛び込むのを見て、リチャード一世も同じ建物に移る。窓ガラスはすっかり割れており、侵入するのに音は一切立たなかった。
(つーか助けてどうするつもりだ?ここのレジスタンス網はイマイチ把握してねぇしリーズもいねぇぞ。)
秒程度の時間をおいて、軍靴が木製の扉を蹴破る荒々しい音が空き家に響いた。その音に掻き消されるようにして、リチャードは覗いていた部屋の端にある布が揺れたのを見た。
(ライオネルに渡すしかあるまい。一人分くらい席はある。)
脱出ルートを把握すると、リチャード一世は軍靴の音がまだ少し遠くにある事を確認して近くの物陰に身を隠した。部屋の入り口から死角になるが、エーヴからはしっかりと見える場所だ。突然男が入ってきたのを見て、エーヴは身を固くした。
「早くこちらに。」
エーヴは無言のままである。見つからないように身を隠してやり過ごすか、それとも見つかる危険を掻い潜って空き家から脱出するか。どちらも命を落とす危険は高い。
(信用されてねぇぞ多分。)
答えを待っている間に、けたたましい靴音はどんどんと近付いている。今にも床を踏み抜きそうな勢いであった。エーヴが脚のベルトからリボルバーを取り出すのを見て、リチャード一世は流石に焦りを感じた。今すぐにでも部屋に侵入してきた軍人を撃ち抜かんばかりの瞳である。隣の部屋の調査を終えて、まさに軍人達が二人のいる部屋に踏み込もうとした途端、謎の発砲音と木造のなにかが荒々しく崩れていく音が少し離れた場所から聞こえてきた。軍人達がそちらに走っていくのを見過ごして、リチャード一世は素早く物陰からエーヴが身を隠す布の中へ滑り込む。
「Hurry!」
[シシャ]の言語は通常、相手の母国語に自動翻訳される。相手の母語フランス語であれば、ドイツ語で話しかけてもフランス語で聞こえるようになる。リチャード一世はその自動翻訳を解いて、エーヴに英語で話しかけたのだ。
(お前、英語話せたんか。)
(ROZENでは必修だったはずだが?)
否応を言わせる間もなく、リチャード一世はエーファの細いウエストに腕を回して窓から外の屋根へ飛び移った。途中、恐らく巨大な崩壊音を作り出したであろう人影を見つけたが、リチャード一世はすぐにそこから目を逸らした。
「あ、あの!」
担がれたまま、エーヴは建物から離れるリチャード一世に話しかけた。
「ご、ごめんなさい。最初はトラップかと……。」
「あの状況では仕方がない。不服だろうがイギリスへ送り届けるつもりだ。が、その前に……」
人気の少ない場所でエーヴを下ろすと、リチャード一世は彼女の身なりを見て少し頭を悩ませた。靴も服も、動きやすいものだが土や砂ですっかり汚れており、所々を引っ掛けたのかよく見ればほつれている。
「はしたない格好ですよね……。」
「コートを見繕う。」
「準備はどうですか?順調です?」
「もうちょいで積み終わるぜ。段取り説明に来たんだろ?入れよ。」
玄関でリチャード一世や荷造りを手伝うゴーレム達とすれ違いながら、フィリップ二世はリーズをリビングに座らせた。元々はリーズの私的な一軒家だった為、家具は全てそのままだが、リチャード一世やフィリップ二世の趣味で置かれていたテーブルセンターなどは全て取り払われ、すっかり殺風景な内装になっていた。
「そろそろ出立出来そうですか。」
「そうだな……。まあ十分もせずに車は出せるだろ。」
アイスコーヒーを出されて、朝から政府施設に出入りしたり書類にサインをしたりと休む間もなかったリーズは漸く一息ついた。
「それは良かったです。よっぽどの事だと思いますが、手違いがなければ夜十時に用意した飛行機に乗り込んでください。イギリスに着けばライオネルが待っています。陛下。顔は覚えてらっしゃいますか……?」
「まあROSEAで見かけたから大丈夫だろ。」
ライトブラウンのきっちり七三に分けた髪とモノクルを思い出しながら、フィリップ二世は二度ほど頷いた。
「なら安心です。」
荷物は全て積み終えたのか、リチャード一世はいつの間にかベランダからリビングルームに入っていた。コーヒーメーカーに入っていたコーヒーを勝手に新しいマグカップに注ぎ込んで、疲れを癒す。
「終わったのか?」
「粗方。そろそろ玄関に来てほしい。」
リーズのマグカップが空になるまで待つつもりだったフィリップ二世は、目の前の国土が軽々とマグカップを掲げてごちそうさまの合図をすると仕方なく立ち上がった。
「次はいつ会えますかねぇ。」
「まあ数年で会えるんじゃねぇの?俺達にとっちゃ瞬き程度だろ。」
そうですね、とリーズは苦笑した。どうやら、フィリップ二世に[シシャ]の時間感覚が戻ってきているようだった。リチャード一世が庭へ消えると、リーズも漸く立ち上がってスーツのボタンを留めた。
「さて、ぐだぐだ話してないでそろそろ行きましょうか。こっちで使うより向こうで時間が余ったほうが得ですよ。」
「はっ、南でうまい飯食って来てやるよ。じゃあな。」
ズボンのポケットに手を突っ込んで、フィリップ二世もまた、リーズから借り受けていた邸を後にした。
リーズとその部下のゴーレム達に見送られて、二人は屋敷を後にした。次にここを訪れる頃には、聖女の噂が誠しやかに流れているかもしれない。朝に調理しておいた大量のフレンチフライを休みなくつまんでぽつりぽつりと思い出話を語っているうちに、やがて木々に囲まれた真っ平らな場所が見えてくる。飛行場だ。
「どうする。出るまで時間はある。」
手首を返して腕時計を見ると、確かに後数時間は余っていた。リーズの息が濃くかかっている軍人が、荷物を指定の航空機に運んでいくのを眺めながら、フィリップ二世は首を曲げた。
「飯を食おうとは思ったがフレンチフライでさして減って……っと、なんだあ、ありゃ?」
背中を思い切りぶつけられて、リチャード一世とフィリップ二世は思わず同じ方向を見た。プラチナブロンドの女性が一人、よろよろと拙い足取りで人混みに紛れていく。いまいち気の抜けた頭でそれを見送っていると、次に同じ方向へ走っていく軍人が数名通りすがっていった。その姿も見送っていたフィリップ二世の肩を、リチャード一世は叩いた。
「あの女性、白百合の髪飾りをつけていなかったか。」
「……つけてたわ。」
プラチナブロンドの中に一瞬だけ、黄昏の陽の色に煌めいた小さな白百合の髪留めを思い出し、二人は顔を見合わせた。
(レジスタンスだな。)
(レジスタンスだわ。)
瞬間、二人は全く別の方向に走り出していた。リチャード一世は女性が走っていった方向に、フィリップ二世は軍人に一人で使える待合室を尋ねてそこに駆け込んだ。
(あの女性、見た事があると思えばヨハンの妻だった女性だ。マルチェだったか。)
(え?あぁいたなそんなの。でも帝國じゃ結婚してなかったろ。)
人混みを掻き分けて、リチャード一世は部屋の周囲を確認するフィリップ二世の言葉に頷く。ギシギシと音を鳴らす椅子に座ったフィリップ二世は、テーブルにショルダーバックを放り出す。びっしりと名前の書かれた名簿を素早く辿ると、リチャード一世の脳内に再び呼びかける。
(これか?エーヴ・マルシェ、特徴はプラチナブロンドを一つ結びだ。)
(それだ、ヨハンの妻の名前はマルチェだったが、フランスの読みならマルシェか……。があれは苗字だったのか。)
ちょっと待ってろ、とフィリップ二世は薄い円盤を取り出した。スイッチを押すと、空中投影ディスプレイでSOUND ONLYという表示が浮かび上がった。
(うっせーなぁにがサウンドオンリーじゃ。ROSEAデータベースに接続っと……。)
ディスプレイをいじり倒して、フィリップ二世は個人認証を終えるとデータベースで苗字を入力する。
(あー、前回一九四五年のデータベースを見ると、改名したらしい。元々レジスタンスだった。閃光弾と銃撃により失明、脚も不自由になった。コードネーム"MARCHE"で、負傷後はナチスから完全監視下に置かれていたっつー事は……お前が言ってる奴は、コードネームをそのまま実名にしたか?)
(戦馬鹿にも理解できるように説明しろ。)
リチャード一世は、軍服の背を追うのをやめた。すぐに別の脇道に回り込んで、頭に流れ込んでくる道順を駆け抜ける。
(あ?つまり最初エーヴ・マルシェはMARCHEでレジスタンス活動してたが、ナチスから身元がバレてコードネームをそのまま実名にする事を条件に釈放されたんだよ。そんでマルシェ……プラス、ヨハンの苗字が実名になったわけだ。ヨハンと結婚したのが果たしてナチスの謀略なのが偶然なのかは知らねぇけど……。待てよ、エーヴ・マルシェとヨハンが結婚したのは四三年、つまり来年だ。っつー事は——)
(という事は、これで捕縛されてナチス側に引き渡されたという事か。ちなみにその改名をして何かナチスに得が?)
フィリップ二世は肩を竦めた。元々諜報員である彼も、この意義はいまいちよく分からなかった。
(さあな。まあこの頃じゃナチスは敗戦が若干見えてきた頃だ、レジスタンスを一人でも減らしたかったんだろ。コードネーム実名にされちゃ積極的に地下活動できねえし。これを拒否したなら殺すだけだしな。)
空き家の屋根からエーヴ・マルシェが建物に飛び込むのを見て、リチャード一世も同じ建物に移る。窓ガラスはすっかり割れており、侵入するのに音は一切立たなかった。
(つーか助けてどうするつもりだ?ここのレジスタンス網はイマイチ把握してねぇしリーズもいねぇぞ。)
秒程度の時間をおいて、軍靴が木製の扉を蹴破る荒々しい音が空き家に響いた。その音に掻き消されるようにして、リチャードは覗いていた部屋の端にある布が揺れたのを見た。
(ライオネルに渡すしかあるまい。一人分くらい席はある。)
脱出ルートを把握すると、リチャード一世は軍靴の音がまだ少し遠くにある事を確認して近くの物陰に身を隠した。部屋の入り口から死角になるが、エーヴからはしっかりと見える場所だ。突然男が入ってきたのを見て、エーヴは身を固くした。
「早くこちらに。」
エーヴは無言のままである。見つからないように身を隠してやり過ごすか、それとも見つかる危険を掻い潜って空き家から脱出するか。どちらも命を落とす危険は高い。
(信用されてねぇぞ多分。)
答えを待っている間に、けたたましい靴音はどんどんと近付いている。今にも床を踏み抜きそうな勢いであった。エーヴが脚のベルトからリボルバーを取り出すのを見て、リチャード一世は流石に焦りを感じた。今すぐにでも部屋に侵入してきた軍人を撃ち抜かんばかりの瞳である。隣の部屋の調査を終えて、まさに軍人達が二人のいる部屋に踏み込もうとした途端、謎の発砲音と木造のなにかが荒々しく崩れていく音が少し離れた場所から聞こえてきた。軍人達がそちらに走っていくのを見過ごして、リチャード一世は素早く物陰からエーヴが身を隠す布の中へ滑り込む。
「Hurry!」
[シシャ]の言語は通常、相手の母国語に自動翻訳される。相手の母語フランス語であれば、ドイツ語で話しかけてもフランス語で聞こえるようになる。リチャード一世はその自動翻訳を解いて、エーヴに英語で話しかけたのだ。
(お前、英語話せたんか。)
(ROZENでは必修だったはずだが?)
否応を言わせる間もなく、リチャード一世はエーファの細いウエストに腕を回して窓から外の屋根へ飛び移った。途中、恐らく巨大な崩壊音を作り出したであろう人影を見つけたが、リチャード一世はすぐにそこから目を逸らした。
「あ、あの!」
担がれたまま、エーヴは建物から離れるリチャード一世に話しかけた。
「ご、ごめんなさい。最初はトラップかと……。」
「あの状況では仕方がない。不服だろうがイギリスへ送り届けるつもりだ。が、その前に……」
人気の少ない場所でエーヴを下ろすと、リチャード一世は彼女の身なりを見て少し頭を悩ませた。靴も服も、動きやすいものだが土や砂ですっかり汚れており、所々を引っ掛けたのかよく見ればほつれている。
「はしたない格好ですよね……。」
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