神秘学メンズラブシリーズ”nihil”

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第一巻『この幻想が 薔薇色の誇りに なると信じて。』(RoGD Ch.2)

Verse 3-11

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真冬のしんとした夜、アーサーは木にもたれかかっていた。その上ではルイスが夜空を見上げている。

「来たよ兄さん。」

 弟の声とともに、二つの人影がやってきた。ジェームズと大喬である。木から背中を離してジェームズを一瞥すると、アーサーは大喬に手を差し出した。

「初めまして祭司さん。諜報部隊隊長のアーサーだ。」

「よろしくアーサーさん? 私は大喬よ。」

 握手を交わしていると、その間にもう一人の待ち人が降りてくる。シャンパンゴールドの髪と鋭い瞳で大喬を一瞥する。アーサーは彼に向き直った。

「よぉニッキー。毎回すまねぇな。」

「別に。こっちはそっちと違って仕事ないから、構わない。」

 動き回る任務だと聞いたせいか、ニコライは珍しく狙撃銃を背負ってはいない。全員が集まったところで、アーサーは背後の藪を一つ越えて小さな草むらに彼らを先導する。草むらに走る不可解な割れ目に指を入れると、それを力一杯持ち上げた。

「本拠地への地下通路はこれだ。NELKEの報告によると普段は使われてないらしいから、ここを通る間はそこまで気を配らなくていい。」

 言い終わると、アーサーはたるんだタートルネックを鼻の上まで持ち上げる。大喬以外の諜報部隊隊員もそれに習った。大喬は、ニコライを見上げて言う。

「貴方、顔を見た事あると思ったらロシア支部元帥じゃない。」

 地下通路を覗き見ると、ニコライは大喬に視線をやった。

「ロシア支部は支部ごと諜報部隊だから。」

 大喬は口元を覆う布に納得すると、ジェームズの背後に立つ。一番最初に飛び込んだのはアーサーである。一度辺りを確認すると、懐中電灯を落とすようにジェスチャーした。ニコライが懐中電灯を放り入れると、アーサーはそれを掴んで中を照らす。特に問題はないようで、ニコライが次に降りて行った。

「すげぇ埃っぽいな。」

 アーサーのくぐもった声を聞き取ってニコライは頷く。背後に残りの三人も降りてくる。人数を確認すると、アーサーは前方に体を向けた。

「よし、行くぞ。」

 その場にいた全員は頷いた。



 通路は明かりがなければなにも見えないほどの暗闇である。長々と沈黙を守って歩いていると、分かれ道を見つけた。そのまま直線に行く道と、右左に分かれる道である。

「どうすんだこれ。」

「分かれるぞ。」

 ジェームズの言葉にアーサーは冷静に判断を下した。

「俺かニッキーは一人でも行ける。……ジェームズは大喬と右に行け。ニッキー、どうする?」

 左の道を眺めた後、ニコライはルイスとアイコンタクトを取る。

「リー……ルイスと一緒に左へ。」

 頷くと、アーサーは四人に背を向けた。



「合流地点は本拠地の正面庭園、もしくは玄関ホールだ。それじゃ、せいぜい死なねぇようにな。」

 ジェームズと大喬は暫く通路を進むと巨大な地下水路に出た。轟音が響くその場所で、ジェームズは後ろを歩く大喬にちらりと視線を送る。

「暫く連絡がなかったわけだけど、どこでなにしてたのかと思ってたら地下に引き篭ってたのね。本当に吸血鬼みたいじゃない。」

 黒い髪を軽く整えて大喬はそう口火を切った。先導するジェームズは少し歩みを緩めて大喬の隣に移る。

「んな事言われてもな……。まぁ否定はしねぇよ。」

 現れた角を曲がって、二人は本拠地に潜入した。辺りを見て現在地を把握すると、大喬がジェームズを先導する。大喬の今回の目的は諜報部隊への協力が主ではない。大喬は分家に取り残されている妹を連れ出す為にこの計画に参加していた。

「こっちよ。」

 角という角を曲がって、やがて辿り着いたのは再奥の部屋である。大喬が扉をノックすると、恐る恐る一人の女子が顔を出した。よく似た艶やかな髪を揺らして、彼女は大喬の顔を見るとぱっと明るい表情を浮かべる。

「姉さん!」

「待たせたわね小喬。あまり大きな声を出さないで。さ、ここから出るわよ。」

 小喬は跳ねるように頷くと、大喬の手を取って部屋から出た。後ろに立っていたジェームズを見て、無邪気な笑みから優しげな笑みへと表情を変える。

「お久し振りですクラヴェーリさん。」

「おうよ、久し振りだな小喬。こんな奥に移されちゃ大変だったろうが、まぁ二人の事を考えれば仕方ねぇか?」

 ジェームズの受け答えに小喬はころころと笑みを変化させる。長居はしてられない、と大喬はジェームズに目配せすると、すたすたと来た道を歩き始める。ジェームズは小喬の背後についた。
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