国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

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第一部 二章

第十六章 皇帝の一族

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「これ、よく考えたら日本語じゃないよね」
「おお! ほんとだ! 何で読めるんだ?」
「そもそも何語で喋ってるの?」
「さあ……会話できるからいいんじゃね?」

 確かに話せるなら何でもいいか、と思いそうになった所でアヤメは、ある事に気づいた。

「ミーミル、ちょっとなんでもいいから喋ってみて」
「あいうえおー」

 ミーミルはあいうえお、と喋る。
 やはりそうだ。

「口の形があいうえおじゃないのに、あいうえおって聞こえる」
「は?」
「発音と口の形が一致してない」
「そんな腹話術みたいな――」
「あ! い! う! え! お!」

 アヤメはミーミルに分かりやすいように、大きな口であいうえおと言った。

「うわぁ。何コレ。一致してねぇ! きめぇ!」

 ミーミルはアヤメの口を見て顔をひきつらせた。

「言葉は異世界に合わせられてるけど、勝手に翻訳されて日本語になってる……のかな」

 問題は何によって翻訳が行われているのか、という事だが。
 翻訳機能のある道具が体に取り付けられているとは思えなかった。
 指輪だったりサークレットだったり、そういう魔法の籠められてそうな魔道具は何一つ身につけていない。
 服も皇帝と会う前に、支給された服に着替えたので服に何らかの翻訳魔法がかかっている――という訳でもないだろう。

「脳がいじられてるとかありえるんじゃね……」
「怖いって」

 ミーミルの言葉に、今度はアヤメが顔をひきつらせる。


「…………」
「…………」




「うむ、ま、考えても仕方ないな。後にしよう」
「そうだね」

 アホ二人が考えても意味がない。
 というのは二回やって学んだ事だ。

「それで、話を戻すけど」

 ミーミルはテーブルに広げられたメモを指差す。

「現在のアイリス帝国がどうなってるか? ってのを説明しよう」
「お願いします」

 そう言ってアヤメはやっとソファーに腰を落ち着けた。

「アイリス帝国は十の国を一つに統廃合して作られた国だ。だが今もその国の文化は生きていて、結局は五つの小さな国……合衆国? みたいなモンになってる」

 ミーミルは広げられたメモのうち、五枚を指差す。

「えーっと……五大貴族が各州を支配していて、北がパルパル家、南がジェイド家、東がミトネーブル家、西がソル家だな。で中央がノーグロード家でこれが帝国皇帝を代々やってるらしい」
「あれ? 初代皇帝の一族はどうなった?」

 確か剣皇や閃皇の苗字は『アルトナ』だったはずだ。
 この五大貴族にアルトナの苗字は無いし、代々皇帝をやっているのはノーグロードである。

「初代皇帝は死ぬまで二人とも子供を作らなかったらしい。結婚すらしなかったんだと」
「いきなりお家断絶したんだ」
「ぽいねぇ。んで、仲が良かった貴族のノーグロード家に全権を委ねて、剣皇はこの世を去った――っていうのが英雄伝承の最終章らしい」
「なんか好き勝手やって『さよならー』って感じだね……」

 確か初代皇帝の二人は庶民の出だった、という話を聞いたので、そういう継承問題が面倒臭くなったのかもしれない。
 今の出だしだけで五人もの貴族で固められている帝国の現状を聞くと、何となく気持ちは理解できる気がした。

「それから細かい貴族の情報はめんど――時間が無かったから得られなかったけど、どういう事をしてるかは聞いた」
「何かいいかけ」
「帝国の版図は広大で、ノーグロード家だけでは支配管理しきれない。だから各地方は統合する前からの貴族の統治に任せているんだそうだ。言わば本店に対する支店長みたいなモン」
「分かりやすい」
「支店長って言ってもかなり権限があって、本店の経営方針――帝国の政治にちゃんと口出ししたりも出来るらしい」
「よくそれで反乱起きないなぁ」
「本店がめっちゃ強い」

 そう言ってミーミルはメモを指差す。
 メモにはノーグロード家と他の貴族達とは、兵士数だけでも倍近い差がある、と書かれていた。
 ちなみにノーグロード家一つと、他の四貴族を合計した場合の戦力差である。

「派閥争いとかもあるらしいけどよく分からんかった」
「よく分からんで済ましていいんでしょうか」
「いいんじゃね? 問題はこっからだし」

 そう言ってミーミルは家系図の書かれたメモを、指差す。
 家系図には7人の名前が書かれていた。

「この一番上のが先代皇帝のバルバトス・ノーグロード。妃のノア・ノーグロードは結婚して子供産んですぐに病気で他界してる」

 ミーミルは家系図に書かれてる名前に、ペンで×をつけた。

「で、皇帝バルバトスはそりゃもうとんでもない暴君で、税金上げるわ他国侵略しようとするわで大変だったのね。でも戦争で前線に視察に行ったら戦死した」
「何か暗殺されてそうだなぁ」
「コカワさんにそう言ったら『可能性は無くも無い』と言ってた」
「言ったのね……」

 ミーミルはまた家系図に×をつける。

「皇帝バルバトスは子供が一人だと不安という事で、何人かの側室と子供を作ってた。正妻との子供が第一皇太子シュウ・ノーグロード。側室との子供が四人いて、第一皇女ラライア・ノーグロード。第二皇太子パルティノ・ノーグロード。第三皇太子フィーグムント・ノーグロード。第二皇女リリム・ノーグロード」
「また随分と作ったなぁ」

「しかし全員が死んだ」

「は!?」

 アヤメは思わず声を上げてしまう。

「コカワさんのお話では貴族を巻き込んでの権力争いで暗殺の嵐が吹き荒れ、見事に全滅したそうです」
「む、無茶苦茶だ」

 ミーミルは家系図に×を5個つける。
 家系図に表記されている名前全てに×がついた。

「誰もいなくなったよ?」

「そう。こりゃマズい。やり過ぎた。どうしよう、って貴族も大慌てになった。ノーグロード家が断絶すれば中央に穴が開き、残りの四貴族が中央の覇権を取るための殴り合いになる。だがそんな事すればお互いが大きく傷つく。またかつての十国戦国時代に逆戻りだ。それは避けねばならない。でも誰も中央を納める資格のある人間がいない」

 そこまで言って、ミーミルは家系図に新たな名前を書き込んだ。

「しかし! ここで暴君バルバトスは、その辺の農家の女性と適当に子供を作っていた。その子供が一年前に発見され、新皇帝に即位したのだ」

 メモには『ミゥン・ノーグロード』と書いてあった。

「何故、名もなき農家の女性の産んだ少女が、バルバトスとの正式な子であると認められたのか? DNA鑑定もない、この世界で何故なのか? その理由が!」
「その理由が?」

 アヤメは思わず体を乗り出す。

「その理由を聞こうとしたら、お前らがもがーもがーうるさいから部屋に突撃したらご覧の有様だよ!」

 ミーミルはバシィ! とペンを机に叩きつける。

「ご、ごめん」
「まあ、ざっとこんな感じだな」
「むうー。よく分からない」
「帝国が会社だとすると上層部が全部仕事辞めて、社長に平社員が任命された感じ? しかも我が社は敵対会社に売り上げをごっそり取られてる最中」
「そんなの会社潰れちゃうんじゃないの」
「だから俺らが呼ばれたんじゃね。言わば外部の有能な社員を引き抜くヘッドハンティング……じゃなくて、どっちかというと定年退職した人を呼び戻した、だな」
「そして呼び戻した人は人違いでしたと……」

 どうやら二人が思っていたより遥かにアイリス帝国は危険な状況のようだ。

 恐らく一年前まで農家の娘だったミゥンは政治の事を何も知らない。
 オルデミアやカカロ、リリィの様子や、ミゥンの言動を見ていれば明らかだ。
 さらにトップがぽんこつの状態で、戦争中である。
 北は山脈の壁、南は未開の地で、東西を敵につつかれ、身動きが取れず。
 頼みの助っ人は何の役にも立たない。
 城壁をぶっ壊しただけだ。

「どうしたらいい?」
「ハハハ」

 ミーミルは乾いた笑いを零すだけであった。
 もう帝国を見捨てて、亡命でもした方がいいような気もする気分だ。
 自業自得成分も余りに多すぎる。

 それに二人は帝国の人間ではない。
 強制的に召喚され、強制的に責務を負わされているだけだ。
 皇帝のフリをとりあえず受けたのも、自分たちの能力が、この世界で通用するかどうか分からなかったからである。
 一撃で城門を吹き飛ばせるだけの能力があるならば、別に帝国の庇護に入らなくても、どこでも二人で何とか生きていけるのではないだろうか?

「よく考えたら、この国に留まる理由がない気がする」
「それな。もう逃げ」
「失礼します。お食事の用意が出来ました」

 逃げようとした気配を察知したかのように、タイミング良くコカワの声が部屋に響いた。

「は、はいー。すぐ行きます」
「了解!」

 コカワから食事の用意が出来れば、声をかけると言われていた。
 食事は部屋で食べるのではなく、食堂で食べる予定らしい。

「うーん、まあ、とりあえずご飯食べるか」
「そだね。食べてから考えよう」

 この世界の食事には興味がある。
 難しい事は食べてから考えればいいのだ、と二人は思った。


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先代皇帝バルバトス・ノーグロード=死亡
先代妃ノア・ノーグロード=死亡
第一皇太子シュウ・ノーグロード=死亡
第一皇女ラライア・ノーグロード=死亡
第二皇太子パルティノ・ノーグロード=死亡
第三皇太子フィーグムンド・ノーグロード=死亡
第二皇女リリム・ノーグロード=死亡
現皇帝ミゥン・ノーグロード=農家の子

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