光の奇跡

藤咲 ふみ

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光の奇跡

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 俺は死神だ。
 真っ黒なローブに銀色のカマ、かり取った魂の数なんてもう覚えていない。
 そんな俺は普通の人間には見えないはずだった。そう、はずだったんだ。
「ねぇ、あなたなんでそんな暗い顔してるの?」
 小さな女のガキが突然話しかけてきた。
 俺は慌てて、魂回収者名簿を見た。けれどそこにそのガキの名前はなかった。
 じゃあなんで
「お前に俺が、見えんだよ?」
 ガキは不思議そうな顔をして、摘んだばかりなんだろう花を一つ取ると、俺の目の前に差し出した。
「なんか分かんないけど⋯暗い顔してる人にはお花、あげるね!」
 そのガキはそう言うと、どこかへ走って行った。
「なんだあのガキ?花なんていらねぇよ⋯」
 俺はその花を、手の中であっという間に枯らした。

 午後、俺の姿は病院にあった。
 もうすぐ魂を回収する対象が入院する病室に、俺はやって来た。
 死神は魂を回収する前に幾つかやることがある。
 一つ目は死の事前告知。
 二つ目は対象者の最後の願いを叶えること。
 三つ目は対象者の輪廻転生の手伝いをすること。
 正直言って、どれも面倒くさい。でも死神の世界でそれらは全て大切なことと決められている。きちんとこなさなければ。

「邪魔するぜ⋯!」
 一人きりで窓の外を眺めていた対象者に、そっと声をかけた。
 すると対象者は柔らかい長い髪をフワリとなびかせて、振り返ると、俺に笑いかけた。
「あら、あなたはもしかして⋯死神さん?」
 正直面食らった。こんなにもあっさり俺を、死神を認める人間がいるなんて今まで体験したことがなかったから。
「怖くないのか?」
 俺の質問に対象者は
「怖いわよ⋯でも、ちょっと安心しちゃった!死ぬ時一人じゃないんだって思ったから⋯死神さんは死ぬ時一緒にいてくれるんでしょ?」
 優しく笑う対象者に、何故か変な感情が沸いた。
 テーブルを見ると、花が飾ってあった。それは
「さっきのガキの、持ってた花だ!」
 愛おしそうにその花を愛でる対象者を見て俺はハッキリ理解した。その対象者が、さっきのガキの母親なんだと。
 だからって、なんなんだ?何か変わることがあるのか?
「お花、綺麗でしょ?死神さんにも一つあげる!」
 対象者はガキと同じだった。同じ顔で笑って、俺に花を渡してきた。
 それに何かを思い出す気がした。お花どうぞって⋯昔にも誰かに、こんな風に
「俺はいつから⋯死神なんだ?」

 それから対象者の最後の願いが、あのガキの幸せに生きてゆくことだということを知った。そしてそれを叶えることが俺の勤めだとも知った。
 ガキは相変わらず俺を見ると、摘んだ花を一輪渡してきた。
「やめろ!俺はお前から母さんを奪うやつだぞ!」
 それでもガキは無邪気に俺に花を渡してきた。
 その度に俺はないはずのいつかの記憶を思い出した。笑顔で花をくれる女の子。笑顔で受け取る自分。
「どうして俺は、死神になった?」

 そんなある日、対象者の死亡予定日、病院が火事になった。
 俺は慌てて病院に飛び込んだ。魂を回収しないと!その前に、ガキを助けないと!
 その時、燃え盛る炎の中、思い出した。
 俺は生まれ変わる前、貧しい子供だった。でも好きな女の子がいた。そんなある日村が、火事になった。それで好きな子を助けて、その代わりに俺は死んで⋯その子を助けるためなら
「なんだってします!悪魔にだって、死神にだってなります!」
 花を配る子だった。笑顔で花を、配る素敵な子だった。あぁ、涙が止まらない。
 前世を思い出した死神は、死神ではいられなくなる。早く魂を回収しないと⋯最後の魂を回収しないと!せめて俺が消える前に⋯あの美しい人の魂をこの炎の中から⋯!
 段々足が、消えてきた。それでもカマを杖に必死に炎の中を歩いた。
 そして対象者をやっと見つけた。ガキも一緒だった。
「死神さん!私はいいからこの子を、お願い!」
 俺はその言葉に頷いて、美しい対象者の魂にそっと最後の死神のカマをかけた。
「ありがとう、死神さん!」
 魂だけになった対象者は、優しく微笑んでいた。
 俺はそれを見送ると、残りの力で、ガキを抱き上げると
「お前は幸せになれ!いいな、母さんの最後の願いだ!」
 ガキは泣きながら大きく頷く。
「よし、いい子だ!走れ!まだ間に合う!大人が待ってるからこの大きな廊下を全力で走るんだ!」
 ガキは大きな瞳で俺を見つめて
「あなたは?あなたは行かないの?一緒に行こうよ?」
 と手を引いた。
 でも、俺はもう足がなかった。
 だから
「ごめんな、俺は、ここまでだ⋯必ず、幸せになれよ!」
 笑ったのなんて、生きていた頃ぶりだったから上手くできたか分からなかったけど、きっと大丈夫だろう。
 ガキは泣きながら、俺の手を離して走っていった。
 そうだ、それでいいんだ。
 段々体の感覚がなくなってゆく。もう俺は消えるのかと思った。
 それなら最後に、美しい奇跡を、見せてやりたいと思った。こんなちんけな死神でも見せられる美しい奇跡⋯。
 
 やがて火が消えた病院。そこから、ふわりふわりと、美しい幻のような、蛍のような光が溢れ出す。
 火事の野次馬をしていた人々はそれに見入る。
「わー、綺麗!それに⋯なんか懐かしい光!」
 それは俺が今までに集めた魂の欠片たち。
「自由に還って、いったらいいさ、愛おしい人の元へ⋯」
 その言葉を最後に、俺はキラリと消えた。
「わー、綺麗綺麗!」
 消える刹那、俺はガキの声を聞いた。
「ねぇ、今お母さんがいた気がする!」
 あぁ、その光にも、地面に咲く花にも、お前の母さんはいる。お前の母さんは花になるって言ってたからな。
 だからこれからも花を愛して生きてくれ。
 その日の晩の花畑は、光の奇跡に歌うように一等美しく咲いていた。
 俺はそれを愛おしいあの子と一緒に、空から眺めていた。
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