1 / 1
光の奇跡
しおりを挟む
俺は死神だ。
真っ黒なローブに銀色のカマ、かり取った魂の数なんてもう覚えていない。
そんな俺は普通の人間には見えないはずだった。そう、はずだったんだ。
「ねぇ、あなたなんでそんな暗い顔してるの?」
小さな女のガキが突然話しかけてきた。
俺は慌てて、魂回収者名簿を見た。けれどそこにそのガキの名前はなかった。
じゃあなんで
「お前に俺が、見えんだよ?」
ガキは不思議そうな顔をして、摘んだばかりなんだろう花を一つ取ると、俺の目の前に差し出した。
「なんか分かんないけど⋯暗い顔してる人にはお花、あげるね!」
そのガキはそう言うと、どこかへ走って行った。
「なんだあのガキ?花なんていらねぇよ⋯」
俺はその花を、手の中であっという間に枯らした。
午後、俺の姿は病院にあった。
もうすぐ魂を回収する対象が入院する病室に、俺はやって来た。
死神は魂を回収する前に幾つかやることがある。
一つ目は死の事前告知。
二つ目は対象者の最後の願いを叶えること。
三つ目は対象者の輪廻転生の手伝いをすること。
正直言って、どれも面倒くさい。でも死神の世界でそれらは全て大切なことと決められている。きちんとこなさなければ。
「邪魔するぜ⋯!」
一人きりで窓の外を眺めていた対象者に、そっと声をかけた。
すると対象者は柔らかい長い髪をフワリとなびかせて、振り返ると、俺に笑いかけた。
「あら、あなたはもしかして⋯死神さん?」
正直面食らった。こんなにもあっさり俺を、死神を認める人間がいるなんて今まで体験したことがなかったから。
「怖くないのか?」
俺の質問に対象者は
「怖いわよ⋯でも、ちょっと安心しちゃった!死ぬ時一人じゃないんだって思ったから⋯死神さんは死ぬ時一緒にいてくれるんでしょ?」
優しく笑う対象者に、何故か変な感情が沸いた。
テーブルを見ると、花が飾ってあった。それは
「さっきのガキの、持ってた花だ!」
愛おしそうにその花を愛でる対象者を見て俺はハッキリ理解した。その対象者が、さっきのガキの母親なんだと。
だからって、なんなんだ?何か変わることがあるのか?
「お花、綺麗でしょ?死神さんにも一つあげる!」
対象者はガキと同じだった。同じ顔で笑って、俺に花を渡してきた。
それに何かを思い出す気がした。お花どうぞって⋯昔にも誰かに、こんな風に
「俺はいつから⋯死神なんだ?」
それから対象者の最後の願いが、あのガキの幸せに生きてゆくことだということを知った。そしてそれを叶えることが俺の勤めだとも知った。
ガキは相変わらず俺を見ると、摘んだ花を一輪渡してきた。
「やめろ!俺はお前から母さんを奪うやつだぞ!」
それでもガキは無邪気に俺に花を渡してきた。
その度に俺はないはずのいつかの記憶を思い出した。笑顔で花をくれる女の子。笑顔で受け取る自分。
「どうして俺は、死神になった?」
そんなある日、対象者の死亡予定日、病院が火事になった。
俺は慌てて病院に飛び込んだ。魂を回収しないと!その前に、ガキを助けないと!
その時、燃え盛る炎の中、思い出した。
俺は生まれ変わる前、貧しい子供だった。でも好きな女の子がいた。そんなある日村が、火事になった。それで好きな子を助けて、その代わりに俺は死んで⋯その子を助けるためなら
「なんだってします!悪魔にだって、死神にだってなります!」
花を配る子だった。笑顔で花を、配る素敵な子だった。あぁ、涙が止まらない。
前世を思い出した死神は、死神ではいられなくなる。早く魂を回収しないと⋯最後の魂を回収しないと!せめて俺が消える前に⋯あの美しい人の魂をこの炎の中から⋯!
段々足が、消えてきた。それでもカマを杖に必死に炎の中を歩いた。
そして対象者をやっと見つけた。ガキも一緒だった。
「死神さん!私はいいからこの子を、お願い!」
俺はその言葉に頷いて、美しい対象者の魂にそっと最後の死神のカマをかけた。
「ありがとう、死神さん!」
魂だけになった対象者は、優しく微笑んでいた。
俺はそれを見送ると、残りの力で、ガキを抱き上げると
「お前は幸せになれ!いいな、母さんの最後の願いだ!」
ガキは泣きながら大きく頷く。
「よし、いい子だ!走れ!まだ間に合う!大人が待ってるからこの大きな廊下を全力で走るんだ!」
ガキは大きな瞳で俺を見つめて
「あなたは?あなたは行かないの?一緒に行こうよ?」
と手を引いた。
でも、俺はもう足がなかった。
だから
「ごめんな、俺は、ここまでだ⋯必ず、幸せになれよ!」
笑ったのなんて、生きていた頃ぶりだったから上手くできたか分からなかったけど、きっと大丈夫だろう。
ガキは泣きながら、俺の手を離して走っていった。
そうだ、それでいいんだ。
段々体の感覚がなくなってゆく。もう俺は消えるのかと思った。
それなら最後に、美しい奇跡を、見せてやりたいと思った。こんなちんけな死神でも見せられる美しい奇跡⋯。
やがて火が消えた病院。そこから、ふわりふわりと、美しい幻のような、蛍のような光が溢れ出す。
火事の野次馬をしていた人々はそれに見入る。
「わー、綺麗!それに⋯なんか懐かしい光!」
それは俺が今までに集めた魂の欠片たち。
「自由に還って、いったらいいさ、愛おしい人の元へ⋯」
その言葉を最後に、俺はキラリと消えた。
「わー、綺麗綺麗!」
消える刹那、俺はガキの声を聞いた。
「ねぇ、今お母さんがいた気がする!」
あぁ、その光にも、地面に咲く花にも、お前の母さんはいる。お前の母さんは花になるって言ってたからな。
だからこれからも花を愛して生きてくれ。
その日の晩の花畑は、光の奇跡に歌うように一等美しく咲いていた。
俺はそれを愛おしいあの子と一緒に、空から眺めていた。
真っ黒なローブに銀色のカマ、かり取った魂の数なんてもう覚えていない。
そんな俺は普通の人間には見えないはずだった。そう、はずだったんだ。
「ねぇ、あなたなんでそんな暗い顔してるの?」
小さな女のガキが突然話しかけてきた。
俺は慌てて、魂回収者名簿を見た。けれどそこにそのガキの名前はなかった。
じゃあなんで
「お前に俺が、見えんだよ?」
ガキは不思議そうな顔をして、摘んだばかりなんだろう花を一つ取ると、俺の目の前に差し出した。
「なんか分かんないけど⋯暗い顔してる人にはお花、あげるね!」
そのガキはそう言うと、どこかへ走って行った。
「なんだあのガキ?花なんていらねぇよ⋯」
俺はその花を、手の中であっという間に枯らした。
午後、俺の姿は病院にあった。
もうすぐ魂を回収する対象が入院する病室に、俺はやって来た。
死神は魂を回収する前に幾つかやることがある。
一つ目は死の事前告知。
二つ目は対象者の最後の願いを叶えること。
三つ目は対象者の輪廻転生の手伝いをすること。
正直言って、どれも面倒くさい。でも死神の世界でそれらは全て大切なことと決められている。きちんとこなさなければ。
「邪魔するぜ⋯!」
一人きりで窓の外を眺めていた対象者に、そっと声をかけた。
すると対象者は柔らかい長い髪をフワリとなびかせて、振り返ると、俺に笑いかけた。
「あら、あなたはもしかして⋯死神さん?」
正直面食らった。こんなにもあっさり俺を、死神を認める人間がいるなんて今まで体験したことがなかったから。
「怖くないのか?」
俺の質問に対象者は
「怖いわよ⋯でも、ちょっと安心しちゃった!死ぬ時一人じゃないんだって思ったから⋯死神さんは死ぬ時一緒にいてくれるんでしょ?」
優しく笑う対象者に、何故か変な感情が沸いた。
テーブルを見ると、花が飾ってあった。それは
「さっきのガキの、持ってた花だ!」
愛おしそうにその花を愛でる対象者を見て俺はハッキリ理解した。その対象者が、さっきのガキの母親なんだと。
だからって、なんなんだ?何か変わることがあるのか?
「お花、綺麗でしょ?死神さんにも一つあげる!」
対象者はガキと同じだった。同じ顔で笑って、俺に花を渡してきた。
それに何かを思い出す気がした。お花どうぞって⋯昔にも誰かに、こんな風に
「俺はいつから⋯死神なんだ?」
それから対象者の最後の願いが、あのガキの幸せに生きてゆくことだということを知った。そしてそれを叶えることが俺の勤めだとも知った。
ガキは相変わらず俺を見ると、摘んだ花を一輪渡してきた。
「やめろ!俺はお前から母さんを奪うやつだぞ!」
それでもガキは無邪気に俺に花を渡してきた。
その度に俺はないはずのいつかの記憶を思い出した。笑顔で花をくれる女の子。笑顔で受け取る自分。
「どうして俺は、死神になった?」
そんなある日、対象者の死亡予定日、病院が火事になった。
俺は慌てて病院に飛び込んだ。魂を回収しないと!その前に、ガキを助けないと!
その時、燃え盛る炎の中、思い出した。
俺は生まれ変わる前、貧しい子供だった。でも好きな女の子がいた。そんなある日村が、火事になった。それで好きな子を助けて、その代わりに俺は死んで⋯その子を助けるためなら
「なんだってします!悪魔にだって、死神にだってなります!」
花を配る子だった。笑顔で花を、配る素敵な子だった。あぁ、涙が止まらない。
前世を思い出した死神は、死神ではいられなくなる。早く魂を回収しないと⋯最後の魂を回収しないと!せめて俺が消える前に⋯あの美しい人の魂をこの炎の中から⋯!
段々足が、消えてきた。それでもカマを杖に必死に炎の中を歩いた。
そして対象者をやっと見つけた。ガキも一緒だった。
「死神さん!私はいいからこの子を、お願い!」
俺はその言葉に頷いて、美しい対象者の魂にそっと最後の死神のカマをかけた。
「ありがとう、死神さん!」
魂だけになった対象者は、優しく微笑んでいた。
俺はそれを見送ると、残りの力で、ガキを抱き上げると
「お前は幸せになれ!いいな、母さんの最後の願いだ!」
ガキは泣きながら大きく頷く。
「よし、いい子だ!走れ!まだ間に合う!大人が待ってるからこの大きな廊下を全力で走るんだ!」
ガキは大きな瞳で俺を見つめて
「あなたは?あなたは行かないの?一緒に行こうよ?」
と手を引いた。
でも、俺はもう足がなかった。
だから
「ごめんな、俺は、ここまでだ⋯必ず、幸せになれよ!」
笑ったのなんて、生きていた頃ぶりだったから上手くできたか分からなかったけど、きっと大丈夫だろう。
ガキは泣きながら、俺の手を離して走っていった。
そうだ、それでいいんだ。
段々体の感覚がなくなってゆく。もう俺は消えるのかと思った。
それなら最後に、美しい奇跡を、見せてやりたいと思った。こんなちんけな死神でも見せられる美しい奇跡⋯。
やがて火が消えた病院。そこから、ふわりふわりと、美しい幻のような、蛍のような光が溢れ出す。
火事の野次馬をしていた人々はそれに見入る。
「わー、綺麗!それに⋯なんか懐かしい光!」
それは俺が今までに集めた魂の欠片たち。
「自由に還って、いったらいいさ、愛おしい人の元へ⋯」
その言葉を最後に、俺はキラリと消えた。
「わー、綺麗綺麗!」
消える刹那、俺はガキの声を聞いた。
「ねぇ、今お母さんがいた気がする!」
あぁ、その光にも、地面に咲く花にも、お前の母さんはいる。お前の母さんは花になるって言ってたからな。
だからこれからも花を愛して生きてくれ。
その日の晩の花畑は、光の奇跡に歌うように一等美しく咲いていた。
俺はそれを愛おしいあの子と一緒に、空から眺めていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』
由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。
婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。
ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。
「君を嫌ったことなど、一度もない」
それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。
勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる