オオカミさんは子犬を愛でたい

金色葵

文字の大きさ
3 / 22

しおりを挟む

(なんか......あったかい.........)
体が何かに包まれている。温かくてなんだかいい匂いがする、陽だまりのようなその香り。触れる温もりが心地よくて、光琉はもっととそれに顔を埋めた。
「ん......、......め、どした......?」
声が聞こえたと思ったら、その温もりが強く光琉を引き寄せた。逞しい腕が光琉の背中に回される。大きな掌が背中を撫でて、光琉は心地よくてほうと息を吐いた。
あまりに心地よくて自分から体を寄せると、嬉しそうな吐息を零して、その手がギュッと光琉を抱きしめた。
(あれ....おれ抱きしめられてる......?)
そうかこの心地のいい温もりは人間のものだったのだ。すっぽりと光琉を包み込むその体に、安心感が沸き上がって、光琉はまたまどろみの中に戻っていこうとして、ハッとした。
(抱きしめられてる?って誰に⁉)
光琉は飛び起きる、そして息を飲んだ。
光琉の横には、ゆうに180cmは超えているだろうことが一目で分かる、がたいのいい男が横たわっていた。
まるで添い寝をするように、起き上がった光琉の体に彼の腕が回されていた。
「え......えっ?ええっっ⁉」
状況が分からず光琉は慌てる。
確か自分は動物の医療知識を学ぶため、研修の担当がいるという『実習用牧場』にきていたはず。
それがどうなってこんな大きな男性と添い寝をすることになったのだろうか。
半ばパニックになりながら光琉は状況を整理する。
「えっと......牛男に抱きついて......それで芝生に寝転がって気持ちよくて......ああ俺寝ちゃったのか!」
光琉はポンと手を叩く。
(って!そこからどうやったらこんな状況になるんだよ‼)
光琉はマジマジと横にいる男性を見つめた。センターで分けられ、後ろに流れるようにセットされた長めの前髪が、横になっていることで顔にかかっている。そして目を閉じているのではっきりとした表情は分からないが、それでも彼の顔が整っていることが分かった。
髪と同じ綺麗な漆黒の長い睫が瞼の下に影を作り、彫の深い鼻梁は鼻先までとても形がいい。顔のラインもシャープで精悍な印象を放ち、肘までまくり上げた白衣から見える腕は日に焼けていて、そしてとても逞しかった。
堂々としたその男らしい姿は、どこか野生の動物のような雰囲気を醸し出している。
トクンと光琉の胸が跳ねた。そんな自分に光琉は戸惑う。
彼が何故光琉のことを抱きしめて、その上横で添い寝することになったのか。
考えても分かるわけがなくて光琉が動けずにいると。
「ん.........まめ......?」
ピクンと瞼を揺らし、目の前の彼がそっと瞳を開けた。
(う、わ............)
顔を上げた彼と、真正面から目が合う。
意志の強い瞳が真っ直ぐに光琉を見つめた。目を開けた彼は、眠っている時が非ではないくらい精悍で綺麗に整った顔立ちをしていた。
「ふわぁ~~いけね、お前があまりに気持ちよさそうに寝てるから釣られて俺も一緒に寝っちゃったわ」
大きなあくびをすると、彼が光琉を見てカラカラと笑う。
「はぁ......一緒に......」
まあ釣られるのは分かる。それがどうなったら寝てる光琉を抱きしめ、添い寝状態になるのだろうか。
「よく眠れたか?」
彼が光琉の頭を撫でた。大きい手が優しく触れる。
ん?と微笑みかけられ、ドキッと鼓動が高鳴った。光琉は慌ててその手を振り払う。
「あっあなた誰ですか?なんで俺の横で寝て.....俺のことだ、抱きっ抱きしめてましたよね!」
思い出して光琉は思わず赤くなる。
「ふふ、急にキャンキャン吠えてどうした?」
慌てる光琉に反して、彼は動じることもなく、その上また光琉の頭を撫でてくる。
「ちょっ.........」
何なのかよく分からないまま、でも撫でる手の感触が心地よくて光琉は大人しくなってしまった。
すると彼がとても嬉しそうに微笑んだ。
「かわいいな」
「なっ!」
愛し気に瞳を細める目の前の男に、光琉は我慢できずに真っ赤になる。
「お前...美味しそうだな......」
だけど、次に呟かれた彼の言葉に、光琉は凍り付いた。
そう言って彼が瞳を細める。
視線が光琉の全身を下から上に這う。狙いを定めるように、彼の瞳の奥がキラリと光った。
まるで獲物を品定めするような肉食獣の瞳。それに体が無意識でフルッと震える。
「俺は狼上近衛おおがみこのえだ。今回の研修の担当をすることになってる」
「え......」
「お前は......名前何だったっけ?」
「犬塚光琉です......」
答えた光琉に、近衛はニッと快活な笑顔を浮かべた。
「ひかる、か。名前もかわいいな」
「..................」
嬉しそうに瞳を細め、光琉の頭を撫で続ける近衛。まるでとてもおいしい御馳走が手に入ったというように、今にも舌舐めずりしそうな彼に光琉は後ずさる。
(この人が今回の研修の担当者~~!ていうか...かわいいって何?それに美味しそうって......?お、俺!食べられちゃうの⁉)
距離を詰めてくる近衛に、光琉はただただ怯えることしかできなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

子犬はオオカミさんに包まれていたい♡

金色葵
BL
無事に恋人同時になった、犬塚光琉(いぬつかひかる)と狼上近衛(おおがみこのえ)はラブラブな同棲生活を送っていた。 しかし、近衛が一週間医学部の研修にいくことになりしばし離れ離れになる二人だったが...... (俺をこんな風にした近衛先輩が悪いんだから!) 毎日のように愛でられ可愛がられ溺愛されている光琉は近衛のいない状態が寂しくてしかたなくて!? オオカミさんは子犬を愛でたいの続編、ラブラブ恋人編になります。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

竜人息子の溺愛!

神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。 勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。 だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。 そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。 超美形竜人息子×自称おじさん

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

処理中です...