オオカミさんは子犬を愛でたい

金色葵

文字の大きさ
12 / 22

しおりを挟む

パチパチと火が燃える音が聞こえる。
光琉は近衛に体を寄せぼんやりと牛舎の天井を眺めていた。外はすっかり暗くなっていた。雨脚は緩むことなく、激しい雨が降り続いている。時折ガタガタと建物が風に煽られ、大きく音が鳴り響く。台風の勢力はなかなか強いようだった。
だけど光琉は全然怖くなかった。近衛が一緒だというだけで大丈夫だという安心感があった。雨の影響で気温も下がっていたが、近衛が焚火を焚いてくれたので室内は温かかった。そして何より。
「光琉寒くないか?」
「うん......」
近衛が腕の中に光琉を抱きしめてくれていたからとても温かかった。
牧草の上にバスタオルを引けば立派なベッドが出来上がる。実家の牧場でよく昼寝をしていた光琉は、いつも牧草をベッド替わりにしていた。近衛がそのまま牛舎の床に寝転ぼうとするので、光琉が慌ててそれを教えると「さすが牧場育ちだな!」と頭を撫でて褒めてくれた。
その上に二人は体を寄せ合い、一つの毛布にくるまっていた。
当たり前のように近衛に引き寄せられ、抱きしめられた光琉は、近衛の腕に頭を乗せている。近衛の片手がずっと光琉の頭を撫でるので、すっかりとろんと瞳が惚けて今にも眠ってしまいそうだ。
抱きしめられる腕と胸元のたくましさに、光琉は近衛の鍛えられた体を思いだした。
「先輩体鍛えてるんですね? 筋肉ついてる」
「んー? まあな。医者の仕事ってなんだかんだハードだから体力つけとかないとな」
(それで鍛えてるんだ......)
近衛は本当にストイックだなと思う。こんなに自分に厳しいのに、周りや動物にはとても優しいし、光琉に対しては優しいを通り越して激甘だ。自分に厳しいと周りにも厳しいのが当たり前だと思っていたけど、近衛はそんなところがまったくない。志の高さと、穏やかな優しさを持っている、近衛はとても素敵な人だなと光琉は感動する。
「医者と獣医を目指すなんて、めちゃくちゃ大変なこと......目指そうと思ったきっかけとかあるんですか?」
ふと気になって聞いてみる。両方なんて普通じゃ思いつかない、何か特別な理由があるのだろうか。
「人助けができる仕事がしたいって昔から考えててさ」
人助け、なんて近衛にぴったりの言葉なんだろう。優しくて温かい近衛のイメージ通りの夢に光琉は顔を綻ばせる。その間も優しく髪を撫でられ、光琉は心地よくてほうと息を吐いた。
「特にどの職業に就きたいっていうのはなかったんだけど......」
近衛の声が穏やかで、瞼が重たくなってくる。さっきまではあんなにドキドキしていたのに、今は近衛に触られるのが、抱きしめられるのが心地よくて堪らない。同じように耳の近くで声が聞こえるのに、穏やかな声がまるで子守歌のように聞こえて体から力が抜ける。すりと近衛の胸に顔を埋めると、ふっと近衛が微笑むのが分かる。毛布を光琉の体にかけ直すと、ポンポンと近衛が光琉の背中を撫でた。
「医者と獣医になるって決めたのにはきっかけがある。............が......なって............」
撫でる掌が温かくて優しくて胸がキュンとなる。
「だから............のために両方になるって決めた。今度こそ大切な............を守るために」
眠気に襲われて、近衛の言葉が途切れ途切れに聞こえる。話す近衛の声は、真摯でとても優しかった。
もっと抱きしめて欲しくて、半分眠った意識のまま光琉は近衛に抱きつく。すりすりとすり寄ると、すぐに優しい腕が光琉を引き寄せ、腕の中に包み込むように抱きしめてくれた。
(近衛先輩の腕の中......気持ちいい......)
ドキドキするのに安心する。ずっとこの腕の中にいたい。そんな強い気持ちに満たされた。
近衛とこの先もずっと一緒にいたい。
(ああ......俺、近衛先輩のこと好きだ............)
近衛が顔を光琉の髪に埋めるのを感じる。それが嬉しくて愛しくて堪らなかった。
自分の気持ちを自覚して、光琉は近衛の腕の中眠りに落ちて行った。

スースーと寝息を立て始めた光琉に近衛は口元を綻ばせる。
「かわいい。ひかる」
寝顔を覗き込んで、白く触り心地のよさそうな光琉の頬を指先で撫でる。触れる近衛の指に、気持ちよさそうに光琉は息を吐いた。
「光琉は俺に撫でられるの好きだな」
可愛い反応に近衛が愛し気に目を細める。
「ほんと......あいつにそっくりだ」
光琉の寝顔を見つめ、誰かを思い出すように近衛はそう呟いた。
愛し気に細められる近衛の目には、光琉ではない誰かが浮かんでいた。

眠っている光琉には、近衛の言葉は届いていなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

子犬はオオカミさんに包まれていたい♡

金色葵
BL
無事に恋人同時になった、犬塚光琉(いぬつかひかる)と狼上近衛(おおがみこのえ)はラブラブな同棲生活を送っていた。 しかし、近衛が一週間医学部の研修にいくことになりしばし離れ離れになる二人だったが...... (俺をこんな風にした近衛先輩が悪いんだから!) 毎日のように愛でられ可愛がられ溺愛されている光琉は近衛のいない状態が寂しくてしかたなくて!? オオカミさんは子犬を愛でたいの続編、ラブラブ恋人編になります。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

竜人息子の溺愛!

神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。 勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。 だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。 そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。 超美形竜人息子×自称おじさん

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

処理中です...