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⑫
しおりを挟むパチパチと火が燃える音が聞こえる。
光琉は近衛に体を寄せぼんやりと牛舎の天井を眺めていた。外はすっかり暗くなっていた。雨脚は緩むことなく、激しい雨が降り続いている。時折ガタガタと建物が風に煽られ、大きく音が鳴り響く。台風の勢力はなかなか強いようだった。
だけど光琉は全然怖くなかった。近衛が一緒だというだけで大丈夫だという安心感があった。雨の影響で気温も下がっていたが、近衛が焚火を焚いてくれたので室内は温かかった。そして何より。
「光琉寒くないか?」
「うん......」
近衛が腕の中に光琉を抱きしめてくれていたからとても温かかった。
牧草の上にバスタオルを引けば立派なベッドが出来上がる。実家の牧場でよく昼寝をしていた光琉は、いつも牧草をベッド替わりにしていた。近衛がそのまま牛舎の床に寝転ぼうとするので、光琉が慌ててそれを教えると「さすが牧場育ちだな!」と頭を撫でて褒めてくれた。
その上に二人は体を寄せ合い、一つの毛布にくるまっていた。
当たり前のように近衛に引き寄せられ、抱きしめられた光琉は、近衛の腕に頭を乗せている。近衛の片手がずっと光琉の頭を撫でるので、すっかりとろんと瞳が惚けて今にも眠ってしまいそうだ。
抱きしめられる腕と胸元のたくましさに、光琉は近衛の鍛えられた体を思いだした。
「先輩体鍛えてるんですね? 筋肉ついてる」
「んー? まあな。医者の仕事ってなんだかんだハードだから体力つけとかないとな」
(それで鍛えてるんだ......)
近衛は本当にストイックだなと思う。こんなに自分に厳しいのに、周りや動物にはとても優しいし、光琉に対しては優しいを通り越して激甘だ。自分に厳しいと周りにも厳しいのが当たり前だと思っていたけど、近衛はそんなところがまったくない。志の高さと、穏やかな優しさを持っている、近衛はとても素敵な人だなと光琉は感動する。
「医者と獣医を目指すなんて、めちゃくちゃ大変なこと......目指そうと思ったきっかけとかあるんですか?」
ふと気になって聞いてみる。両方なんて普通じゃ思いつかない、何か特別な理由があるのだろうか。
「人助けができる仕事がしたいって昔から考えててさ」
人助け、なんて近衛にぴったりの言葉なんだろう。優しくて温かい近衛のイメージ通りの夢に光琉は顔を綻ばせる。その間も優しく髪を撫でられ、光琉は心地よくてほうと息を吐いた。
「特にどの職業に就きたいっていうのはなかったんだけど......」
近衛の声が穏やかで、瞼が重たくなってくる。さっきまではあんなにドキドキしていたのに、今は近衛に触られるのが、抱きしめられるのが心地よくて堪らない。同じように耳の近くで声が聞こえるのに、穏やかな声がまるで子守歌のように聞こえて体から力が抜ける。すりと近衛の胸に顔を埋めると、ふっと近衛が微笑むのが分かる。毛布を光琉の体にかけ直すと、ポンポンと近衛が光琉の背中を撫でた。
「医者と獣医になるって決めたのにはきっかけがある。............が......なって............」
撫でる掌が温かくて優しくて胸がキュンとなる。
「だから............のために両方になるって決めた。今度こそ大切な............を守るために」
眠気に襲われて、近衛の言葉が途切れ途切れに聞こえる。話す近衛の声は、真摯でとても優しかった。
もっと抱きしめて欲しくて、半分眠った意識のまま光琉は近衛に抱きつく。すりすりとすり寄ると、すぐに優しい腕が光琉を引き寄せ、腕の中に包み込むように抱きしめてくれた。
(近衛先輩の腕の中......気持ちいい......)
ドキドキするのに安心する。ずっとこの腕の中にいたい。そんな強い気持ちに満たされた。
近衛とこの先もずっと一緒にいたい。
(ああ......俺、近衛先輩のこと好きだ............)
近衛が顔を光琉の髪に埋めるのを感じる。それが嬉しくて愛しくて堪らなかった。
自分の気持ちを自覚して、光琉は近衛の腕の中眠りに落ちて行った。
スースーと寝息を立て始めた光琉に近衛は口元を綻ばせる。
「かわいい。ひかる」
寝顔を覗き込んで、白く触り心地のよさそうな光琉の頬を指先で撫でる。触れる近衛の指に、気持ちよさそうに光琉は息を吐いた。
「光琉は俺に撫でられるの好きだな」
可愛い反応に近衛が愛し気に目を細める。
「ほんと......あいつにそっくりだ」
光琉の寝顔を見つめ、誰かを思い出すように近衛はそう呟いた。
愛し気に細められる近衛の目には、光琉ではない誰かが浮かんでいた。
眠っている光琉には、近衛の言葉は届いていなかった。
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