私を満たしてくれるのは、キミだけだって信じてる

螢日ユタ

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正反対の二人

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スケジュールを見終え、基本私の仕事終わりに合わせてカフェの従業員出入り口で待ち合わせることに決まったあと、私たちは普通にカラオケを楽しんだ。


思えば、拓人は歌うのが好きでは無いからカラオケに一緒に来たことが無い。


私もそこまで好きという訳ではないから行くとしても友達同士で行こうという話になれば行く程度で特に気にしたことも無かったけど、少し年の離れた吏久斗くんとのカラオケはかなり楽しくて、たまにはカラオケも良いなぁと思ったり。


とにかく彼は全力で私を楽しませようとしてくれるのだ。


テンションの上がった私たちは少しお酒を飲んだ。


そして、時間を忘れる程楽しんだ結果、閉店時間の5時までカラオケに滞在していた。


「あー、久々に歌ったなぁー!」

「那奈さん、カラオケにはあんまり来ないの?」

「うん。そんなに歌うの好きって訳でもないし、彼氏はカラオケ苦手だし、行くとしても友達とたまーにって感じかな。吏久斗くんはよく行くの?」

「うん、周りも結構カラオケ好きだし、遅くまで騒げるってのが良いんだよな、やっぱり」

「若さ故の発言だね」

「えー? つーか那奈さんだってまだまだいけるっしょ?」

「無理無理、流石にもう眠いよ。吏久斗くんはまだ元気そうだよね」

「俺、結構よくオールするからね、慣れてる」

「私はオール、そうそうしないかな、今日は本当久しぶりだよ、こんな時間まで出歩いたの」

「楽しめた?」

「うん、凄く」

「なら良かった!」


そもそも、ストーカー被害に遭うようになってから深夜や早朝に帰宅というのが怖くて出来ていなかった。


沙友里との飲みは定期的にあるけど、飲んだあとはいつも沙友里の家に泊めてもらっていたし、こうしてこんな時間まで出歩けたのは吏久斗くんが傍に居てくれるからなんだと気付く。


そこでふと、拓人に何の連絡もしていなかったことに気付いた私は慌ててスマホを取り出して連絡の有無を確認するけど、


……まあ、沙友里との飲みって言ってあったし、連絡して来ないのは拓人なりの配慮だよね。


特に何の連絡も来ていなかったことが少し寂しくあるものの、親友との飲みがあることは前もって伝えてあったから彼なりの配慮で連絡をして来なかったのだろうと一人納得してスマホをしまった。
 

「那奈さん?」

「へ?」

「どうかした?」

「ううん、何でもない」


吏久斗くんに問い掛けられて咄嗟に「何でもない」と答えた私。


こんなことを彼に話したところで仕方ないと思ったからそう答えたものの、吏久斗くんは私が何に対して落ち込んだのか気付いたようで「そういえば、彼氏さんから連絡無かったの? 大丈夫だった?」なんて言葉を投げ掛けてきた。


「あー、うん。まあ沙友里と飲むってことは伝えてあったから気を遣ったんだよ、きっと」

「そっか、那奈さんの彼氏さんって大人なんだね


「え? あ、うん……私よりも二つ年上だからね。確かに大人だし、しっかりはしてるかな」

「そうなんだ。なんかいいよね、余裕が持てる大人の男って感じで」

「そ、そうかな?」

「だって、俺だったら彼女が飲みに行くって分かってても、連絡無かったら心配になって逆に連絡しちゃうもん。ってか実際、そういうのウザいって言われて駄目になった恋愛もあったんだ、俺」

「そ、そうなの?」

「うん。だから、那奈さんの彼氏さんみたいに彼女を信頼出来る、大人な男の人って憧れるよ」


吏久斗くんはそんな風に言うけど、正直全然良いなんて思わない。


むしろ、吏久斗くんみたいに心配して連絡をくれるような彼氏が良いなんて思ってしまった私は気付けば、


「――私は、吏久斗くんみたいに心配して連絡をくれる彼氏の方が良いと思うけどなぁ」


無意識にそう呟いていた。
 

「嬉しいなぁ、そんな風に言ってもらえるの。俺、結構心配性なとことか嫉妬深いところがあって、それが原因で長続きしないんだよ……」

「そうなんだ? まあ、捉え方は人それぞれだから、心配して欲しい気持ちはあるけど信用して欲しい気持ちもあるから連絡ばかりされたり求められるのは嫌って子もいるわよね」

「うん……だからさ、那奈さんみたいな考えの人が彼女だったら、きっと長続きするのかもしれないなぁ~って思った!」

「……!」


吏久斗くんの何気無いその言葉に私の胸は高鳴った。


……って! “私みたいな考えの人”って言ったのよ? 別に“私が”とは言ってないんだから……何照れてるのよ、私は……。


「那奈さん?」

「え?」

「大丈夫? 俺、変なこと言っちゃった?」

「ううん、そんなことないよ。それよりも、吏久斗くんのことを分かってくれる女の子はきっと現れると思うから、焦らなくてもいいんじゃないかな?」

「そうかな? いや、那奈さんが言うならきっとそうだよな。ありがとう那奈さん!」


無邪気な笑顔を浮かべた吏久斗くんに「ありがとう」と言われた私の心はどこか複雑だった。


それから私たちは電車に乗って自宅最寄り駅で降り、吏久斗くんにアパートの部屋の前まで送ってもらった。


「あの、本当にありがとう。楽しかった」

「俺もすげぇ楽しかった! それじゃあ明後日から俺が迎えに行くから、勝手に帰っちゃ駄目だよ?」

「うん、でも、本当にいいの?」

「良いに決まってるじゃん。彼氏さんの代わりに俺が那奈さんを守るから、安心してよ。ね?」

「うん……ありがとう」

「それじゃあ、またね!」

「あ、吏久斗くん――」

「ん?」

「あの、気を付けて帰ってね」

「うん。それじゃあね!」


笑顔で手をひらひら振った吏久斗くんはアパートの階段を駆け下りて行くと、もう一度こちらを振り返って大きく手を振ってくれた。


そんな無邪気な彼に頬が緩んだ私も笑顔を浮かべながら手を振り返して、吏久斗くんの後ろ姿が見えなくなるまで眺めていた。


そして、それから部屋に入ってシャワーを浴び終えた私がスマホを手に取るとメッセージが二件届いていて、一つは吏久斗くんから、そしてもう一つは拓人からだった。


まず開いたのは吏久斗くんからのメッセージ。


そこには【那奈さんと一緒に居たのが楽し過ぎて部屋に一人がめちゃくちゃ寂しくなるや。今日も夕方から居酒屋のバイトだからとりあえずシャワー浴びたら寝るけど、もし何かあったらいつでも連絡してくれていいからね!】という何だかまるで付き合いたての恋人にでも送るような内容が記されていた。


そんなメッセージに私は、【私も、吏久斗くんと一緒に居たのが楽しかったから部屋に一人って寂しくなっちゃう。ありがとう。何かあったらそうさせてもらうね。今日もバイト、頑張ってね】そう返信してから次に拓人からのメッセージを開く。


【昨日は飲み会だったんだろ? まだ永倉さんの家に居るのか? まあ、ストーカーの件もあるから昼間でも帰るときは気を付けろよ】


一応心配はしてくれているのだと思うけど、飲みのときにくれるメッセージは大体いつもこんな感じの内容で、心がこもっている気がしない。


「……吏久斗くんのメッセージのほうがよっぽど彼氏っぽい内容よね……」


吏久斗くんという拓人とは正反対の男の子が私の前に現れたことで、私の中にあった拓人への気持ちがますます分からなくなっていく。


「……私、拓人のこと、本当に好きなのかな? 拓人だって、私のこと、本当に大切に思ってるのかな……」


すっかり自分の気持ちが分からなくなってしまった私は拓人に【うん、気を付けるね】と一言だけ返信をしてからベッドに横になると、いつの間にか眠りに就いていた。
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