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 そんな師匠しか作り方を知らないものの調整なんて出来るはずもない。それにやっぱり不完全とは言え便利なのだ。今回だって従来のやり方ならば一週間以上あの村に留まって死体を生前に近い状態に修復して、魂を固定する為の儀式をして、腐らないように防腐処理を施さないといけなかった。が、師匠が作った『反転聖痕』のお陰で呪文ひとつ唱えるだけで一瞬でそれらの手間が全部省けてしまったのだ。だから『反転聖痕』が正常に機能しなくなるリスクを負ってまで下手に弄って調整はしたくない気持ちがあるのも事実で……


(まあ、こんな醜い姿でアンデッドにされてしまった彼には関係ないことだろうけどね……)


 僕は自嘲的に笑って、せめてものの罪滅ぼしのつもりで応急処置セットの中から包帯を取り出して肉が剥き出し顔の部分を包帯で隠すように巻き始めた。そうして包帯を巻いている間も彼は借りてきた猫の様におとなしくされるがままで、あっという間に包帯を巻き終えた僕は最後に包帯の端をぎゅっと固く結び、一息息を吐いたーー……その時。


「ここです!ここにいらっしゃいます!」


 僕達以外誰もいない筈の森の中に突如響き渡った若い女の声。その声にびっくりして慌てて声のした方向……つまり後ろを振り返ると、そこには純白の外套に身を包んだ女とその女に付き従う様に白銀の鎧を纏った兵士達が立っていた。


(誰、だ……?)


 突然現れた謎の集団に僕は呆気に取られるが、そんなのお構いなしに純白の外套を着た女はずいっと僕を押し除けて、彼の前に躍り出たかと思うと彼を見て、感極まった様に叫んだ。


「ああっ……!わたくしは信じておりました!故郷を魔王軍に奪われた貴方様が魔王軍との戦いから逃げるわけないと!ええ、信じていましたわ!ほら、わたくしの言った通りでしょう!?この御方は逃げたのではなくこの様に酷い怪我をされて身を隠されていただけだと!!」


 興奮気味に叫ぶ女の話を聞いても僕は彼等が何者なのか全く見当も付かなかった。だが、女の話の内容を聞く限り、どうやらこの謎の集団と彼は面識があるらしい。ああ、よくあることだ。身元不明の死体を引き取り、アンデットにしたあとでその死体の家族とか因縁のある人間が現れるなんて。本当によくあることだ。だから僕は「さあ、細かい話は置いておいてわたくし達と一緒に来て下さい!」と言いながら彼の腕を掴もうとする女の前に素早く割って入り、ゴホンと咳払いをしてこう言った。


「はあ、困りますねえ……彼はもう僕の所有物モノなんですから勝手に連れて行って貰っては困りますよ。」



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