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第二話 忌み地
2②
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住宅地を抜けると、車窓から見える風景は緑が多くなっていった。
やがてビニールハウスの並ぶ畑が見えてきて、それも通り過ぎると、ミニバンは山に向かって進んでいった。
草茫々の砂利道に入り、しばし走ったところでようやく車は止まった。
傾きかけた掘っ立て小屋の前に黒のワンボックスカーが停まっていて、近くに女の子が二人立っている。
彼女らが□□女子大のアルバイトなのだろう。なんだか対照的な二人だった。
一人は髪を明るい栗色に染め、服も派手――というか華やかだった。レトロな小花柄のワンピースにデニムジャケット、足元は真っ赤なローヒールパンプス。鬱蒼とした周囲の風景からものすごく浮いている。
もう一人は対照的に陰気な雰囲気を醸しだしていた。顎下でばっさりと切り揃えた真っ黒なおかっぱに、重たげな前髪が眼鏡の上半分を隠している。服装はグレーのパーカーにベージュのコットンパンツ、スニーカーという実用重視の恰好だった。隣に立つ派手な女子と並ぶと野暮ったさが際立った。――Tシャツにジーンズ姿の自分に言われたくはないだろうだが。
ちなみに中野もTシャツにクロップドパンツという僕と似たり寄ったりのいでだちだった。まあ奴の恰好などどうでもいいのだが。
ミニバンを降りた僕たちに、派手なほうの子が愛想よく声を掛けてきた。
「国生瑠菜でーす」
にこっと笑いながらゆるく巻いた髪を揺らし、「はじめましてぇ」と舌ったらずな口調で言った。
――眩しい。今までの人生の中であまりに縁遠いタイプの女子で、僕はそっと目をそらす。
一方で中野は、「瑠菜ちゃんかぁ」とだらしなく顔を弛緩させた。
中野と僕も自己紹介をし、最後に眼鏡の女子が「日下部茜です」と伏し目がちにぼつりと名乗った。
「この子、愛想悪くてごめんねぇ」
瑠奈が小首を傾げて両手を合わせてみせた。
仕草のいちいちが可愛らしい。自分が相手にどう見えるかよくわかっているのだ。実際、中野は鼻の下を伸ばしっぱなしである。
一方で――茜は下を向いたままだった。
「自己紹介は済んだかな」
イスルギは僕たち四人を興味深そうに眺めながら言った。
「では仕事内容の説明をしようか。今から君たちにやってもらうのは、肝試しだ」
中野はぽかんとする。
女子二人は特に動じた様子もなく、イスルギの話を聞いていた。事前に内容を聞かされていたようだった。
「この道を行った先にもう使われていない古い別荘がある。肝試しと言うくらいだから予測がつくと思うが、そこは心霊スポットだ。その別荘に入り、二階まで行って戻ってくる。以上が君たちの仕事だ」
「……それだけですか?」
中野が呆気にとられたように尋ねた。
「ああそうだ。ただ条件があって――これをつけてもらう」
出たよ――イスルギが内ポケットから取り出した測定装置に、僕はたちまち警戒する。
「まあ、アップルウォッチみたいなものだ。君たちの位置情報を正確に記録する。だからごまかしは効かないよ。しっかりやってくれたまえ」
記録するのは位置情報だけじゃないだろう――僕はイスルギを見据えた。
イスルギはチラと僕を見返すと、薄く笑った。
「――では行きたまえ」
住宅地を抜けると、車窓から見える風景は緑が多くなっていった。
やがてビニールハウスの並ぶ畑が見えてきて、それも通り過ぎると、ミニバンは山に向かって進んでいった。
草茫々の砂利道に入り、しばし走ったところでようやく車は止まった。
傾きかけた掘っ立て小屋の前に黒のワンボックスカーが停まっていて、近くに女の子が二人立っている。
彼女らが□□女子大のアルバイトなのだろう。なんだか対照的な二人だった。
一人は髪を明るい栗色に染め、服も派手――というか華やかだった。レトロな小花柄のワンピースにデニムジャケット、足元は真っ赤なローヒールパンプス。鬱蒼とした周囲の風景からものすごく浮いている。
もう一人は対照的に陰気な雰囲気を醸しだしていた。顎下でばっさりと切り揃えた真っ黒なおかっぱに、重たげな前髪が眼鏡の上半分を隠している。服装はグレーのパーカーにベージュのコットンパンツ、スニーカーという実用重視の恰好だった。隣に立つ派手な女子と並ぶと野暮ったさが際立った。――Tシャツにジーンズ姿の自分に言われたくはないだろうだが。
ちなみに中野もTシャツにクロップドパンツという僕と似たり寄ったりのいでだちだった。まあ奴の恰好などどうでもいいのだが。
ミニバンを降りた僕たちに、派手なほうの子が愛想よく声を掛けてきた。
「国生瑠菜でーす」
にこっと笑いながらゆるく巻いた髪を揺らし、「はじめましてぇ」と舌ったらずな口調で言った。
――眩しい。今までの人生の中であまりに縁遠いタイプの女子で、僕はそっと目をそらす。
一方で中野は、「瑠菜ちゃんかぁ」とだらしなく顔を弛緩させた。
中野と僕も自己紹介をし、最後に眼鏡の女子が「日下部茜です」と伏し目がちにぼつりと名乗った。
「この子、愛想悪くてごめんねぇ」
瑠奈が小首を傾げて両手を合わせてみせた。
仕草のいちいちが可愛らしい。自分が相手にどう見えるかよくわかっているのだ。実際、中野は鼻の下を伸ばしっぱなしである。
一方で――茜は下を向いたままだった。
「自己紹介は済んだかな」
イスルギは僕たち四人を興味深そうに眺めながら言った。
「では仕事内容の説明をしようか。今から君たちにやってもらうのは、肝試しだ」
中野はぽかんとする。
女子二人は特に動じた様子もなく、イスルギの話を聞いていた。事前に内容を聞かされていたようだった。
「この道を行った先にもう使われていない古い別荘がある。肝試しと言うくらいだから予測がつくと思うが、そこは心霊スポットだ。その別荘に入り、二階まで行って戻ってくる。以上が君たちの仕事だ」
「……それだけですか?」
中野が呆気にとられたように尋ねた。
「ああそうだ。ただ条件があって――これをつけてもらう」
出たよ――イスルギが内ポケットから取り出した測定装置に、僕はたちまち警戒する。
「まあ、アップルウォッチみたいなものだ。君たちの位置情報を正確に記録する。だからごまかしは効かないよ。しっかりやってくれたまえ」
記録するのは位置情報だけじゃないだろう――僕はイスルギを見据えた。
イスルギはチラと僕を見返すと、薄く笑った。
「――では行きたまえ」
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