左利き祝ウィルス

瓊紗

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左利き祝ウィルス

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――――――それは、とある者にとっては日常の範疇。されど、相手にとってはチクりと刺さる不快な日常。

そしてこれから日本中を巻き込む恐怖のウイルスが蔓延する、些細な始まりでもあった

「へぇ、お前らカップルで左利きなんだ~。すごいな」

そうニカっと笑ったのは、平凡俺、左川(ひだりかわ)大和(やまと)と隣にいるハイスペイケメン左神(さがみ)ひだりがゲイカップルだと知っているチャラ系友人・右野(みぎの)三木人(みぎと)であった。

――――――でたっ!右利きのからの理不尽な左利きに対するセクハラ!レフツハンダーズハラスメントーー略して【レフハラ】である!

右利きはあぁやって、左利きの人間を見つけるたびごく普通にそうほざく。
まるで定型文のように。左利きの気持ちも考えず。
褒め言葉なんだからいいだろうとつゆほども悪いと思っていないのだ。
全然褒め言葉じゃねぇわっ!

でも左利きの人間としては、今までにそう告げられイラっときた人も多いだろう。
そう言って話しかけ営業にきたやつの話なんて聞く気も起きない。絶対その営業受けない。だって、ハラスメントじゃん。左利きへのハラスメント!レフハラである!

例えその後に「頭がいい」「芸術肌」と付け加えたからと言って許されることなどない。レフハラはレフハラ。

後から褒めれば先に貶(けな)していいとかそんな都合のいい話(はなし)ぁあるわけねぇだろ。
不快な思いをしたことに、代わりはないのだから!

そして生まれてこのかた人生で何億万回も聞いてきたレフハラに、さすがにイラッときた俺は言い放った。

「は?だったらお前、右利きのカップルにも同じこと言って回るのかよ」

「……は?」
まるで何を言ってるのか分からないと言う顔をしていると言う右野。それがハラスメントに当たるなんて、今まで考えてもいなかった顔だ。その言葉に、レフハラに!今までどれだけの左利きが苦しんできたと思ってるんだ!

しかも、【左利きにだけ】言うのだ。
左利きが普段、右利きを見かけるたびに『あ、右利きなんだ、すごいな!』って言ってるか!?言ってねぇだろ!自分たちがどんだけ異常なことしてるか気付いてないのかよっ!!

ほんっと、ひっどいレフハラだ!

俺はひだりの腕を引っ張って、ぷんすかしながら右野の前から立ち退いたが、やっぱりイラッと来たので、SNSで呟いた。

ー立ち上がれ、左利きよ。愚かな右利きによるレフハラに負けるな!これは、左利きによる、右利きに対する仁義なき戦いなのである!右利きによる理不尽なレフハラと戦う時である!立ち上がれ、奮い立たせろ、右利きどもに目にもの見せてやらぁあぁぁっ!!ー

思えばこのSNSの呟きが始まりだったのだろう。
その呟きは、めちゃバズった。

同じようにレフハラに苦しんできた左利きは、多いと言うことだ。
そのバズりに左利きたちの、レフツハンダーズの厚き闘志を、俺は見たっ!!

――――――そして翌朝。世界は、昨日までの右利き天下無双レフハラ言いたい放題右利き有利の日常から、がらりと変わっていた。

「へぇ~、君右利きなんだ!すごいね~!」
「君たちどっちも右利きなんだ、すごいね~!」
「わっ!右利きだ!すごいね~!」
道行く右利きが、右利きに向かってそうほざいていたのだ。

そして右利きを見かけるたびにそう声を掛け、相手の右利きもそう返す。

それは瞬(またた)く間にSNSでこう称された。

【左利き呪(のろ)ウィルス】

しかしこれは愚かにもレフハラをごく普通に続け、その報(むく)いを受けた右利きたちの嘆き。

この一大レフツハンダーズの反乱を、今までレフハラで苦しんできた世の左利きたちはこう呼んだ。

【左利き祝(いわ)ウィルス】……と。

もう左利き祭り。左利きによる復讐祭り。左利き祝(いわ)ウィルスに感染した愚かな右利きどもに心の中でクスッと笑う爽快感。

世のニュースではこの左利き祝(いわ)ウィルスがこぞって取り上げられた。

左利き祝(いわ)ウィルスに感染した右利きども。どのように呪いが発動するのかを右利きのタレントたちを使って実験したり、解呪方法について右利きの専門家たちがこぞって自らの論を展開した。一方で左利きの専門家たちは……『泣いて懺悔しろ』と論じた。

日々左利き祝(いわ)ウィルスに苛まれている右利きの専門家たちは左利きの専門家たちに泣いて詫びたが元に戻ることはなかった。

プライドへし折ってやったのに何故だと左利きの専門家に詰め寄る右利きの専門家。左利きの専門家曰く、レフハラをした左利き全員に泣いて詫びたら?と論じたが……誰に言ったか思い出せない右利きの専門家。

……彼らはどの左利きに言ったかどうかすら、認識していなかったのである。彼らのレフハラは彼らにとってその程度のものだったのである。

本当に右利きによるレフハラはひどいものである。むしろそれがレフハラだと言う認識すらなく、どの左利きに言ったかも分からないほど常習化していたのだから。

お前ら全員ギルティいいぃぃぃ――――――っ!!

テレビの前の左利きたちは、ざまぁみろと思ったことだろう。

思えばこの左利き人生、それだけ理不尽なことばかりだった。
左利きだと言うだけで不利益を被るのである。

字を書いているだけで『左利きだ』『左利きすごいね~!』と突然意味不明なことを言われてきた。
じゃぁお前ら、右利き相手にも言って回るのかよ。

そして椅子が隣同士になった右利きから言われる理不尽な文句。
左利きとは、右利きからの理不尽な物言いに対抗するため、腕を微動だにもせず文字を書く技術を身に付けているものである。

右利きが文字を書くために腕を振り乱し、ガツンガツン左利きの腕にぶつけてくるくせに、こちらが左利きだから悪い、ぶつけてくるとのたまう。

普通に左手で箸を持っているだけで、肘が当たるからと右利きに嫌がられる。
いや、ぶつかるならお前も肘当ててるってこったろ!?何で左利きだけのせいにすんねんんんっ!!
しかもそれで席を変えさせられるのは、だいたい左利きである。

さらに、左利きで漢字を書いていれば、書き順ぐちゃぐちゃで気になるとのたまう右利き教師。ざけんな!漢字の書き順なんて右利き用なんだから、左利きにできるわけねぇだろ!それこそレフハラである!そんなこと言うなら左利き用書き順作ってそれも暗記してこいやぁぁっ!

そして習字の授業。習字の書き順、筆は右利き用だからと言って、左利きは無理矢理右手で書けと要求する教師。そして右利きの同級生に下手くそだと笑われる。
あったり前じゃろうがいぃぃっ!!利き手と逆で書いとるんやぞ!?そないに言うならお前らも逆の手で書いてみろやボケエェェェェッ!!!
どうせへったくだろうがなっ!?

そんな左利きたちの、左利きたちによる、左利きのための叫びは、怨みは、呪いは、左利き祝(いわ)ウィルスとして遂に日本中のレフハラを働いてきた右利きどもに感染、浸透した。

これぞ感染爆発だ。政府はマスク、手洗いうがいを推奨したが、左利き祝(いわ)ウィルスにそんなものは意味がない。だってこれは呪い。その口の好いたレフハラが招いた因果応報。右利きどもにとっては悲劇。左利きたちにとっては喜劇。

その感染は、自らの言動によって必然として帰ってくるものなのである。いくら一般のウイルスに対する対策をとっても意味はない。

これにかかるのは左利きに対して不快に感じることを言ったり、やったりするレフハラを働いた右利きども。そのような右利きは須くこの呪いーーいや左利き祝(いわ)ウィルスにかかった。

もちろん左利きに対してそのような言動を取らなかった右利きは発症しない。
でもそんな右利き、果たしているだろうか?みな、気付かないうちに言っていないだろうか?忘れているだけで、初めて相手が自分と鉛筆を持っている手が違うことを指摘していないだろうか?「あ、やまとちゃん、ひだりききだ」……のように。

子どもの頃しれっと言った気付きすら対象になる。

もう誰がかかるか、かからないのか分からない。日本中がパンデミックに陥った。右利きたちは恐怖で埋め尽くされた。

左利きたちだけが笑っていた。

奇跡的に発動しなかった奇跡の俳優もいたが、左利き祝(いわ)ウィルスを発症した右利きたちから理不尽な非難に晒された。

あぁ、人間って汚いね。

さらにその奇跡の俳優は今までの理不尽な誹謗中傷を訴えたが、左利きは常にそのような理不尽な誹謗中傷に晒されているのである。

だから何だと言う感じである。被害者ぶってんじゃねーよ。

そんな左利きたちの怨み辛みは、思いもよらないところで発動した。

ある時その奇跡の俳優は、ある日のテレビのインタビューで『左利きのひとにわざわざ『あ、君左利きなんだ!すごいね!』なんて言ったことないよ』と言い、大量の左利き視聴者が見たことにより、奇跡の俳優も翌日、左利き祝(いわ)ウィルスを発症したのである。

すべての右利きに、正義の鉄槌をおぉぉ――――――っ!

左利きたちによる理不尽な復讐。しかし今まで左利きたちをそのような理不尽な立場に追いやり、理不尽なレフハラをみ見ても、注意もしなかった。レフハラに晒されても、恐くてその被害を訴えられなかった弱き左利きたちの怨み辛みはとどまることを知らず、日本中の右利きたちを呪いに苛(さいな)まんという勢いである。

なお、左利き同士で『左利きだねぇ』と言い合うのはオッケーである。だって左利き同士だもの。ナカーマ。我らナカーマ。レフツハンダーズフレーンズッ!!

え?理不尽だって?理不尽なのは右利きのやつらだろう?あと、この世は時に無慈悲で理不尽なものである。呪いとは時に理不尽なものである。

因みに人を呪わば穴二つと言うが、左利き的にはこれは呪いと言うかお祝いなので穴は増えない。

呪いとのたまうのは哀れにも左利き祝(いわ)ウィルスに感染した右利きどもである。

あぁ、左利き。レフツハンダーズ。立ち上がれ、祝え、踊れ、レフツハンダーズフェスティボーっ!この世は混沌を極める。レフツハンダーズの祝いフェスティボー!

祝え、祝え、我らレフツハンダーズ!ナカーマ!左利きいぃぃ――――――っ!

この左利きたちの暴挙?暴走?暴動?それを責める右利き。しかし右利きに我らレフツハンダーズを責める権利がどこにあろうか?

これはひとえに、右利きがハンダーズマジョリティーだからといって、ハンダーズマイノリティーである左利きに好き勝手言い、やってきた右利きが悪いのである。

それに他にも理不尽なことや、不快なレフハラは、世界に溢れてくる。

まず、左利きに対しぎ○ちょと言ってくる右利き。こいつらマジ不快。それ、全国的に差別用語だって理解してねーの?は?方言?方言圏でも言われて不快なことには変わりねえんだよ、ドカスがぁっ!

それはとある左利きがこう言い返したことで発動した左利き祝(いわ)ウィルスの症状である。

「あ゛?何それ。お前の首ちょんぱしてやろうか?」

そして発動した左利き祝(いわ)ウィルス第2ステージ。

左利きに対し、全国的差別用語を、例え方言圏であろうが放った右利きに対し……

国民的左利き妖怪【ひだりん】が、そのレフハラワードをのたまった右利き目掛けて、首ちょんぱしてやろうと巨大|鋏(はさみ)をジャキジャキしながら追いかけてくるのだ。

この国民的左利き妖怪【ひだりん】は日本国内で大フィーバー。カバンやケータイのチャームにするひともいれば、ぬいとして持ち歩くひともいる。

顔はイケメンかわいい。胴体の左から3本の左腕手、右から巨大左手を生やして追いかけてくる。
右から生えた手も、左手!足もどちらも左足!それがこのひだりん。あと後ろから生えたしっぽもかわよい。レフツハンダーズ愛に溢れるアイドル妖怪である。

時にはこのひだりんぬい、チャームを見ただけで錯乱し、発狂する右利きまで出てきた。

このひだりんグッズを手掛ける企業の社長も左利き。左利き社員に優しく、反省している左利き祝(いわ)ウィルスに罹患した右利き社員たちのためにも、ひだりんを大々的にピーアール。

世の中にはひだりんグッズが溢れ、街の大型モニターにもひだりん。ひだりんをモチーフにしたアニメも放映された。

もちろん俺もひだりとみたよ。エンドロールで声優人、スタッフの名前の後ろに(右)(左)が記されていた。

――――――そして最後に、

ー左利きのみなさま、お願いだから右利きをど~~~~ぉかっ、どお~~~~っか、……許してください。ー

と表示された。

それだけで許すわけはないのだけど。でもアニメは面白かった~。左利きの感想、ただそんだけ。世の中とは、時に無慈悲なものだ。

日々レフハラに苛まれ、悲しみ苦しむ左利きたちに目もくれず、レフハラを繰り返す右利きどもを象徴するかのごとく。

そしてアニメデビューも果たしたこの一大パンデミック。アニメだけではなく、ドラマ、実写映画化、ヒダリウッド映画化も発表されたことで、遂にこの日本国内で蔓延する左利き祝(いわ)ウィルスを海外のレフツハンダー記者が取材し、海外でも流行り始めている。

レフツハンダーズによるオフィシャルマスコット【ひだりん】も海外で人気が出てきた。

因みにレフツハンダー記者を日本でせせら笑い、左利き祝(いわ)ウィルスを小馬鹿にした右利きディレクターは……見事に左利き祝(いわ)ウィルスにかかった。

脅えて慌てて国に戻っても治らなかった。それも世界的なニュースになった。

あと、左利き祝(いわ)ウィルスの症状に耐えかねて海外の左利きを差別する用語を放ったところ、どこからか沸いて出た【ひだりん】にジャキジャキされながら追いかけられた。レフツハンダー記者のポケットには……かわいいかわいい【ひだりん】のぬいが顔を覗かせていたそうな。

この世界進出すら果たした左利き祝(いわ)ウィルスは多くの右利きたちを震撼させ、恐怖に陥れた。

一方でこの左利き祝(いわ)ウィルスだが、その呪いを解く方法がまるで分からない。

右利きから左利きに移行しても、右利きの時に重ねた罪が消えるはずかない。呪いが消えるはずがない。そんな都合のいいことはない。

そしてこれは左利きにとってはお祝いであり、呪いではない。呪いと呼び始めたのは右利きたちだ。

今まで左利きへのレフハラに見てみぬ振りをしたことに対する罪悪感でも目覚めたのだろうか?

けどどんなに右利きたちが後悔してももう遅い。左利き祝(いわ)ウィルスは呪いではないのだから、そもそも解呪なんてできるはずがないのだ。

しかし、思わぬところで解決の糸口が見えた。
それは、とある左利きの祈りである。

かつてその左利きは、両親によって無理矢理左利きから右利きにさせられそうになった。しかし強制的に利き手を変えさせられる心の悲鳴と習字、毎日の箸もち鍛練に耐えきれなかった。

習字で右手に握らされる筆の違和感。

心にぽっかりと穴が空いたような感覚。

大好きな食べ物を食べることすら満足にできない悲しみ。

次第に心を病み、笑わなくなり、満足に食事すらままならず痩せ細る左利き。

結局右手をうまく扱えなかった左利きは挫折してしまったのだ。

そしてそんな左利きは鋏(はさみ)以外は左利きのままだった。

そんな風にかつていたいけな子どもである左利きに苦痛なことを強いた両親はーー見事に左利き祝(いわ)ウィルスにかかってしまい、毎日夫婦で「右利きなんだ。すごいね」発言を交わす毎日。

「でも両親は、一向に右手が使えないぼくのために、左利き用|鋏(ばざ)を買ってくれたんだ」
もうはこぼれで切れなくなった子ども用の鋏。子どもが怪我をしないようにデザインされた丸みを帯びた四角い持ち手、力を入れずにらくらく切れるよう指を入れる穴が四つになっている、……思い出の鋏。

その後日常生活に支障がないように、右利き鋏をマスターしたけれど……。

「それでも、この思い出の左利き用鋏を買ってくれた時、嬉しかったんだ。ひだりん、両親を助ける方法はないのかな…… 」
ひだりんぬいに祈るように問うた彼の願いが通じたのか、その夜彼の夢の中にひだりんが現れ告げた。

――――――その方法は、

国民的左利き妖怪【ひだりん】を左手で完璧に描き、零沸(れふつ)反打亜呪(はんだあず)神社に奉納すること……だった。

彼は早速その夢の内容を両親に話した。両親は半信半疑だったものの、しかし両親も疲弊していた。

どれだけ疲弊していても、左利き祝(いわ)ウィルスからは逃れられない。一度右利きと認識した相手には顔を合わせるたびに「右利きなんだね!すごいね!」と言わねばならず、左利きに対して負の発言をしてひだりんにヂョキンヂョキンされながら追いかけられる右利きを見かける日々。

子からの涙ながらのお願いに、藁にも縋(すが)るような思いで、両親は左手でひだりんの絵を練習した。特訓した。
息子も必死で両親を応援した。
時には絵がうまくなるキットを買ってきて取り組んだ。

――――――――そして3ヶ月間の猛特訓の末……零沸(れふつ)反打亜呪(はんだあず)神社にその絵を奉納した。

……その、翌朝のことだった。

「あぁ、妻よ、おはよう!おはよう!!」
「あなたぁっ!!おはよううぅっ!!!」
顔を合わせてもいつもの【右利き挨拶】が繰り返されない朝に、彼らは涙し、子を交えて3人で抱き合い感謝した。

両親を無事に救えた彼は、自分と同じように右利きの誰かを大切に思う左利きのためにと、そのエピソードをSNSにアップした。そのエピソードは瞬く間にSNSを通じて日本中に、世界中に広まった。

左利き祝(いわ)ウィルスに感染した右利きたちはこぞって左手でひだりんを描く。

毎日毎日ひだりんを描きまくる。

しかし、ひだりんは完璧でなければ奉納を拒否される。ひだりんのひだの数さえ、完璧に合っていなければ拒否される。

奉納どころか神社から受け入れてもらえない。神社の鳥居にまず弾かれるのだ。

なお、ずるして鳥居を潜らないで侵入しようとすれば、鋏をジョキジョキしながら追ってくる大量のひだりんに追っかけられる。

強引に何度も鳥居に侵入しようとしても、追いかけられる。

ずるして左利きイラストレーターに描いてもらった完璧なひだりんを持ち込んだ右利きも、大量のひだりんに追いかけられた。

無理矢理左利きの知人に描かせたり、左利きの妻に描かせたり、パソコンでずるして画像を加工し、アナログ絵に見せかけたやからも、余さずひだりんに襲撃された。

零沸(れふつ)反打亜呪(はんだあず)神社は各地に支部があり、零沸(レフツ)反打亜呪(ハンダアズ)命(ノミコト)が奉られている神社でもまた、奉納は許可される。

なお、それらの神社でも鳥居拒否が行われ、ずるをすればひだりんに追っかけられる。

神主自身、巫女自身がずるして奉納しようとしても、ひだりんに境内を追いかけられる。
なお、神社に仕える彼らは、神社の鳥居でひだりんの問答に答えて特別に通過を許されるが、自身でひだりんを描き、奉納するまでは左利き祝(いわ)ウィルスから解放はされない。

参拝者の描いたひだりんをパクろうとした神社経験者はもれなくひだりんに追いかけられた。

審査もなく自由に鳥居を行き来できるのは、左利きと奉納を済ませた右利きだけなのである。

そして中には零沸(れふつ)反打亜呪(はんだあず)神社周辺の宿に泊まり込み、移住しひだりん修行するものも現れた。

外国からも国内で無慈悲に左利きを貶(けな)した右利きディレクターが休暇をとって訪れ、ひだりん修行に明け暮れたと言う。

こうして、左利き祝(いわ)ウィルスによって罰を受けた多くの右利きたちは、零沸(れふつ)反打亜呪(はんだあず)神社にて左利き祝(いわ)ウィルスから解放してもらうことができたそうだ。

「……その、こないだは、ごめんな」
左利き祝(いわ)ウィルス騒動が落ち着いた頃、ふと、暫く姿を見なかった右野が謝りにきた。
こいつもひだりん修行してたんだろうか。近くには零沸(れふつ)反打亜呪(はんだあず)神社があるしなぁ。ーーてか、俺の実家なのだけど。神主の親父のひだりん修行は大変だったけど、すぐ近くにひだりんがいたお陰か、無に奉納を済ませることができた。他の右利きのひだりん絵を奉納しながらひだりん修行するのは精神的にもきつかったらしく泣きながらやってたなぁー。

因みに家族の中で右利きは親父だけ。
母も弟も、同棲しているひだりはまんな左利き。レフツハンダーズ。ナカーマ。

そして左利き祝(いわ)ウィルスに冒されたこの右野も無事にひだりんを零沸(れふつ)反打亜呪(はんだあず)神社に奉納し、左利き祝(いわ)ウィルスから解放されたらしい。

「分かってくれたならいいよ」

そう言って右野に手を振り、ひだりと共にデートの続きを堪能する。

――――――しかし、たまに……

「君右利きなんだ!すごいね!」
左利き祝(いわ)ウィルスに感染した右利きを見かける。

「君、左利きなんだ!すごいね!」
そして、左利き祝(いわ)ウィルス騒動を経験したのに、懲りもせずレフハラを放つ右利き。恐らく明日には左利き祝(いわ)ウィルスを発症していることだろう。

一度ひだりんを神社に奉納しても、再びレフハラを働けば、ひだりん絵だけでは解放されないらしい。

ひだりんから更なる宿題を科されるのだ。それが激ムズ。室町風ひだりん、江戸風ひだりん、古代風ひだりんなどで、ひだりんを描くために修行した左手レベルも初期値に戻るので、また一から修行することになる。

――――――だと言うのに、よくやるよ。
俺はレフハラやろうに「だったらお前、右利きにも同じこと言ってまわるのかよ!!」と吐き捨てた。

その後はレフハラはいけないとおっさんおかんたちが集まってきて、叱られたレフハラ右利き。しかしそれでもレフハラを働いたので、もれなく|《・》ちひだりんに追っかけられて逃げていった。

「行こうか、ひだりん」
「うん、ヤマト」
俺は心の中でくすりと微笑み、ひだりーーいや、ひだりんの腕に飛び付き、俺に愛情深い微笑みを向けるひだりんとのデートコースを堪能するのであった。

(おわり)

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