3 / 16
熱の残る夜
しおりを挟む
寛は布団に横たわりながら、天井をぼんやりと見つめていた。
酒が少し残っているのか、頭がぼうっとする。
だが、それ以上に、健太郎の言葉が耳にこびりついて離れなかった。
「本当に一人でいいのか?」
健太郎のあの目つき——冗談ではなく、本気のまなざし。
寛のことをただの銭湯仲間としてではなく、一人の男として気にかけているような、そんな眼差しだった。
「……俺が、誰かと一緒に暮らす?」
声に出してみると、なんとも気恥ずかしい。
六十一歳にもなって、恋だの愛だのを考えるとは思ってもいなかった。
しかし、健太郎と過ごす時間が心地よいのは事実だった。
毎日銭湯で他愛もない話をしながら、一緒に湯に浸かる。
肩を並べ、同じ湯気の中で、同じ時間を過ごす。
それが当たり前になっている。
いや——当たり前だからこそ、変化が怖いのかもしれない。
寛は布団の中で寝返りを打った。
腹がずしりと重く、布団に沈む感覚が心地よい。
自分の体はずいぶんと貫禄がついてきた。
若い頃はもっと引き締まっていたが、今ではすっかり熊のような体型になっている。
胸も厚くなり、腹は丸みを帯び、腕も腿もむっちりとしている。
健太郎もまた、同じように年齢を重ねた体をしている。
太い腕、分厚い胸板、ぽっこりした腹。
銭湯で見慣れたその体を思い浮かべると、なぜかじんわりと熱がこみ上げた。
「……何考えてんだ、俺は」
苦笑しながらも、脳裏に焼き付いた健太郎の逞しい体つきが、消えない。
銭湯で湯船の縁に腕をかけ、湯に浸かる彼の姿。
湯気に濡れた肌の艶、無造作に撫でるように洗っていた分厚い腕と胸元。
ぽっこりとした腹が湯に沈み、揺れる様子。
思い出すだけで、体の奥がじわりと熱くなる。
「あの野郎……」
たまらず寛は布団の中で、太腿の間に手を滑り込ませた。
指が自分の体温に触れると、無意識に息を呑んだ。
まるで健太郎の体に触れているような錯覚すら覚える。
分厚い胸に触れたら、どんな感触がするのか。
腹に手を滑らせたら、どんな反応をするのか——。
そんなことを考えながら、寛は自分の体をなぞるように撫でた。
手のひらに感じる柔らかさと、わずかな汗の湿り気。
自分の体なのに、なぜか妙に敏感になっている。
まるで、誰かに触れられているような感覚が広がる。
ふと、健太郎の手が自分に触れたら
——そんな想像がよぎった。
あの分厚い手が、肩を掴み、腹を撫で、腕を這う。
無骨な指先が、自分の胸をゆっくりと滑るように触れたら——。
「……っ」
寛はゆっくりと目を閉じた。
体がじんわりと熱を帯び、まるで湯に浸かっているような気分になっていく。
心臓の鼓動が妙にうるさい。
こんな感覚、今まで味わったことがなかった。
「……もう、寝るか」
小さく息を吐き、寛は布団を引き寄せた。
だが、その夜はなかなか眠れなかった。
翌日、寛はいつものように松乃湯へと足を運んだ。
暖簾をくぐると、番台の婆さんが新聞をめくりながら
「おや、寛ちゃん。今日は少し遅かったねぇ」
と声をかけてくる。
「ちょっとな……」
昨日の夜のことを思い出しながら、寛は顔を逸らした。
脱衣所で服を脱ぐと、鏡に映る自分の体を見つめる。
昨夜、自分で触れたばかりの肌は、なぜかまだ熱を帯びている気がした。
浴場へ入ると、湯気の向こうに見慣れた姿があった。
「おう、寛。今日も来たか」
健太郎が湯船の縁にもたれ、手拭いを頭に乗せながらこちらを見ている。
「そりゃあな。風呂がねぇと、1日が締まらねぇ」
そう答えながらも、昨夜のことが頭をよぎる。
まるで、健太郎に悟られたくないように、寛はそそくさと体を洗い始めた。
桶に湯を汲み、ばしゃりとかぶる。
だが、いくら湯を浴びても、昨夜の熱は冷めないままだった。
そんな寛の様子に気づいたのか、健太郎がふと、湯船の中から声をかける。
「おい、寛。お前、なんか顔赤くねぇか?」
「は?」
寛は思わず顔を上げた。
「なんか、湯に入る前から赤いぞ」
健太郎がじっと寛の顔を覗き込んでくる。
間近で見ると、健太郎の肌は湯気でしっとりと濡れ、分厚い胸板が湯に沈んでいる。
無造作に撫でたのか、鎖骨のあたりに湯の滴が伝っていた。
その姿を見た瞬間、昨夜の記憶が鮮やかに蘇る。
「……っ!」
寛は慌てて視線を逸らし、桶の水をもう一度頭からかぶった。
「お、お前なぁ……他人の顔をジロジロ見るんじゃねぇよ」
「なんだよ、別に見たっていいだろ」
健太郎は笑いながら、湯に肩まで浸かる。
「……ったく、調子狂うぜ」
寛は低く呟きながら、心臓の鼓動を押さえ込むように湯船へと足を踏み入れた。
だが、熱い湯に浸かっても、昨夜の熱はまるで消える気配がなかった——。
酒が少し残っているのか、頭がぼうっとする。
だが、それ以上に、健太郎の言葉が耳にこびりついて離れなかった。
「本当に一人でいいのか?」
健太郎のあの目つき——冗談ではなく、本気のまなざし。
寛のことをただの銭湯仲間としてではなく、一人の男として気にかけているような、そんな眼差しだった。
「……俺が、誰かと一緒に暮らす?」
声に出してみると、なんとも気恥ずかしい。
六十一歳にもなって、恋だの愛だのを考えるとは思ってもいなかった。
しかし、健太郎と過ごす時間が心地よいのは事実だった。
毎日銭湯で他愛もない話をしながら、一緒に湯に浸かる。
肩を並べ、同じ湯気の中で、同じ時間を過ごす。
それが当たり前になっている。
いや——当たり前だからこそ、変化が怖いのかもしれない。
寛は布団の中で寝返りを打った。
腹がずしりと重く、布団に沈む感覚が心地よい。
自分の体はずいぶんと貫禄がついてきた。
若い頃はもっと引き締まっていたが、今ではすっかり熊のような体型になっている。
胸も厚くなり、腹は丸みを帯び、腕も腿もむっちりとしている。
健太郎もまた、同じように年齢を重ねた体をしている。
太い腕、分厚い胸板、ぽっこりした腹。
銭湯で見慣れたその体を思い浮かべると、なぜかじんわりと熱がこみ上げた。
「……何考えてんだ、俺は」
苦笑しながらも、脳裏に焼き付いた健太郎の逞しい体つきが、消えない。
銭湯で湯船の縁に腕をかけ、湯に浸かる彼の姿。
湯気に濡れた肌の艶、無造作に撫でるように洗っていた分厚い腕と胸元。
ぽっこりとした腹が湯に沈み、揺れる様子。
思い出すだけで、体の奥がじわりと熱くなる。
「あの野郎……」
たまらず寛は布団の中で、太腿の間に手を滑り込ませた。
指が自分の体温に触れると、無意識に息を呑んだ。
まるで健太郎の体に触れているような錯覚すら覚える。
分厚い胸に触れたら、どんな感触がするのか。
腹に手を滑らせたら、どんな反応をするのか——。
そんなことを考えながら、寛は自分の体をなぞるように撫でた。
手のひらに感じる柔らかさと、わずかな汗の湿り気。
自分の体なのに、なぜか妙に敏感になっている。
まるで、誰かに触れられているような感覚が広がる。
ふと、健太郎の手が自分に触れたら
——そんな想像がよぎった。
あの分厚い手が、肩を掴み、腹を撫で、腕を這う。
無骨な指先が、自分の胸をゆっくりと滑るように触れたら——。
「……っ」
寛はゆっくりと目を閉じた。
体がじんわりと熱を帯び、まるで湯に浸かっているような気分になっていく。
心臓の鼓動が妙にうるさい。
こんな感覚、今まで味わったことがなかった。
「……もう、寝るか」
小さく息を吐き、寛は布団を引き寄せた。
だが、その夜はなかなか眠れなかった。
翌日、寛はいつものように松乃湯へと足を運んだ。
暖簾をくぐると、番台の婆さんが新聞をめくりながら
「おや、寛ちゃん。今日は少し遅かったねぇ」
と声をかけてくる。
「ちょっとな……」
昨日の夜のことを思い出しながら、寛は顔を逸らした。
脱衣所で服を脱ぐと、鏡に映る自分の体を見つめる。
昨夜、自分で触れたばかりの肌は、なぜかまだ熱を帯びている気がした。
浴場へ入ると、湯気の向こうに見慣れた姿があった。
「おう、寛。今日も来たか」
健太郎が湯船の縁にもたれ、手拭いを頭に乗せながらこちらを見ている。
「そりゃあな。風呂がねぇと、1日が締まらねぇ」
そう答えながらも、昨夜のことが頭をよぎる。
まるで、健太郎に悟られたくないように、寛はそそくさと体を洗い始めた。
桶に湯を汲み、ばしゃりとかぶる。
だが、いくら湯を浴びても、昨夜の熱は冷めないままだった。
そんな寛の様子に気づいたのか、健太郎がふと、湯船の中から声をかける。
「おい、寛。お前、なんか顔赤くねぇか?」
「は?」
寛は思わず顔を上げた。
「なんか、湯に入る前から赤いぞ」
健太郎がじっと寛の顔を覗き込んでくる。
間近で見ると、健太郎の肌は湯気でしっとりと濡れ、分厚い胸板が湯に沈んでいる。
無造作に撫でたのか、鎖骨のあたりに湯の滴が伝っていた。
その姿を見た瞬間、昨夜の記憶が鮮やかに蘇る。
「……っ!」
寛は慌てて視線を逸らし、桶の水をもう一度頭からかぶった。
「お、お前なぁ……他人の顔をジロジロ見るんじゃねぇよ」
「なんだよ、別に見たっていいだろ」
健太郎は笑いながら、湯に肩まで浸かる。
「……ったく、調子狂うぜ」
寛は低く呟きながら、心臓の鼓動を押さえ込むように湯船へと足を踏み入れた。
だが、熱い湯に浸かっても、昨夜の熱はまるで消える気配がなかった——。
1
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる