病棟の片隅で

むちむちボディ

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追求

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翌朝も、空は薄曇りだった。
どこか、煙のようにぼやけた空気。

喫煙所に立つ俺の手には、いつものCAMEL。
でも、火をつけても味がしない。

すぐ横に、柴田が立っていた。
制服の上にジャージを羽織って、眠そうな目。

「……昨日、来んかったな。」

「……」

「なんか、あったんか?」

「佐野さんに会いました。」

一拍、空気が張り詰める。
柴田の顔が動いた。

「……そうか。」

「聞きました。あなたのこと。昔の、こと。」

柴田はゆっくりと煙を吐いた。
その吐息は、妙に苦そうだった。

「悪ぃ。……全部、話すわ。」

ベンチに並んで腰かけると、柴田はぼそぼそと語り出した。

「刑務官時代、俺は佐野って受刑者と、……長く関わってた。
最初は目立たん男やったけど、妙に人懐っこい目ぇしててな。」

「それで、抱いたんですか。」

俺の口調は思ったより冷たかった。
柴田は少しだけ眉をひそめたが、否定しなかった。

「……抱いた。最後の夜にな。
あいつ、移送前日やった。何も言わずに部屋に入ってきて、
“最後に抱いてください”って、泣きながら言うた。」

「それって、愛情ですか? 同情ですか?」

「どっちもや。」

柴田の声は、予想以上に静かだった。

「俺もずっと寂しかった。誰にも言えんまま、何十年もな。
あいつは、俺の弱さを引きずり出した男やった。」

「俺は……あいつの代わりですか?」

とうとう聞いてしまった。

柴田は、一瞬だけ目をそらし、それから俺の肩に手を置いた。

「違う。似てるけど、おまえは違う。」

「どこがですか。」

「……おまえは、俺に“居場所”をくれた。」

(居場所?)

「ただの夜勤明けの喫煙所。
けど、おまえがそこにおるだけで、俺の朝は意味を持つんや。」

その言葉に、胸の奥がきゅうっと絞られる。

「……信じていいんですか。」

「俺はな、大崎……」

と、柴田が言いかけたときだった。

ふと、彼の手が俺の膝に重なる。
その大きな掌の熱が、制服越しにじわじわと染みてくる。

「部屋、来い。今日……ちゃんと、抱かせてくれ。」

言葉ではなく、体で確かめたい――
そう言われた気がした。



アパートの部屋。
ベッドの脇には、ぬるくなった缶コーヒーと、二人のライター。

柴田は黙って俺の白衣を脱がせ、Tシャツをまくり上げた。
そして、じっくりと、腹にキスを落とす。

「ここが、ええねん。やわらかくて、あったかくて……生きてるって感じがする。」

肉に埋もれる乳首に、柴田の舌が這う。

「……っ!」

(なんでこんなに、恥ずかしくて、嬉しいんや)

ズボンが脱がされる。
下着の内側に伸びる指は、慣れた手つきで、だけど丁寧だった。

体が開かれると同時に、心の中の「影」が滲んでくる。

(この人は、俺を選んでくれるのか。
それとも、佐野の代わりでしか、ないのか――)

でもその問いは、肉と汗が交わる熱の中に、すべて溶けていった。

柴田は優しかった。
奥へ押し広げるたびに、必ず手を握ってくれた。

「……泣いてええぞ。おまえの涙は、俺のもんや。」

そして俺はまた、泣いていた。



終わったあと、裸のまま、柴田の胸に顔をうずめながら言った。

「俺、怖いんです。」

「何が。」

「こんなに誰かを欲しくなるのが、初めてで。
それが、いつか失われると思うと……怖いんです。」

柴田はしばらく黙っていた。

それからぽつりと、呟いた。

「……俺な、大崎。来月いっぱいで、この病院辞めることになってん。」
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