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02:どうやら、人格が違うようです(困)

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「オホン···、えー。お取り込み中失礼致します。殿下、ブランシュ様。薬の効き目は即効性ですので、じきに体の痛みも引きましょう」

「そうか。安心した。良かったな···、ブランシュ」

殿下は一安心したような、柔らかい笑みを浮かべて私の頭をふわりと撫で、髪を一房掬い口付けをした。

(うわぁ···うわぁー···髪にキスされてしまった···)

「ぇっ、あ、···ありがとう、ございます」

宮廷医にお礼を言うにも、どうにも意識してしまってドギマギしてしまう。

(うっ···、そ、そうだ···私、皆の目の前できっ···いやいや今のは口移し、口移しだから!!)

小さく気が付かれないように、スーハースーハーと深呼吸。あぁ、もう。このイケメン殿下は無自覚であんな事をサラッとしてしまうのか、それともわざとなのか···後者なら、私の分が悪過ぎる。色んな意味で心臓が持たない。

「私からも礼を言おう」

殿下は何語も無かったかのようだし、私ばかりがドキドキして、意識してしまっている。

あぁ···。
これが夢なら、早く覚めて欲しい。

メイドの子を見れば口元に手を当てて、何故か目を潤ませて顔を真っ赤にしていた。なんだろう···これは。乙女ゲームの推しのスチルを見て、尊いとか思われていそうな雰囲気だ。

お兄様は無表情(ある意味怖い)、宮廷医は苦笑い。

殿下は優雅に微笑まれている(正直何を考えているのか分からない)。

と、そうこう考えているうちに、私の体の痛みが引くのを感じて、体が軽くなった。先程までは体が石になってしまった様な感覚だったのに。

「···殿下」

私が体を起こすと、殿下が背中をスっと支えてくれる。

「ブランシュ。あまり無理はしてはいけないよ」

「大丈夫ですわ。ありがとうございます、殿下」

「ブランシュ!」

「ブランシュ様っ!!」

上から、殿下、お兄様、メイドの声だ。
お兄様何か今にも泣きそうだ。
いや、それはメイドも同じかな。

宮廷医は優しい笑みを浮かべている。

「ご心配をかけました。侍医と皆様のおかげで、すっかりこの通りですわ」

「ブランシュ様、どこか痛む所はありますかな?」

「いえ。どこも···、ありがとうございます」

「それはようございまました。しかし、念の為診察させて頂きたく。殿下、ブランシュ様に触れるお許しを頂きたく」

(そうだよね···。お妃様になる体に大事があっあてはならないものね)

「あぁ、よろしく頼もう」

「はっ。ブランシュ様、失礼致します」

「えぇ、お願いね」

私は座ったまま、現代医学の様に眼球の様子を見たり、聴力や顎の横の首を触り、心音に異常が無いかを調べた。

「特に問題はなさそうですな···。しかしまだ体が動くようになったばかり。些細な違和感を一瞬でも感じましたら、直ちにお呼びくださいませ。それでは、私はこれにて失礼致します」

「分かりました。ありがとう」

パタンと閉じられる扉を、宮廷医の姿が見えなくなるまで背中を見送った。姫様と言う立場上、相手に簡単に頭を下げてはならない。でも、それもどうなんだろう。私はここの宮廷医達の作ってくれた薬のおかげで体の痛みが引いたし、動けるようになったのだ。

ありがとう、だけで終わらせてしまうのは···。
感謝が足りていない気がする。

私は、上半身だけで申し訳無いと思いつつ、宮廷医に向かって頭を下げた。
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