兄ちゃん、今度は何?

智春

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簡単10分レシピ

「おい、絆創膏はどこにあるか分かるか?」

「え?絆創膏って・・・うわ!どうしたの、その手!」

部屋に入ってきた兄ちゃんは、左手から流血していた。

「何があったの?ちょっと傷みせて」

止血している右手をどけて、血が流れる左手を確認した。人差し指と中指の第二関節辺りを鋭利なモノで何ヶ所もスパッと切れていた。

「包丁は、手まで切ってしまうものだな。マニュアル通りにしたはずだが、まったく予想していなかった」

「そりゃ、刃物だしね。って言うか、包丁使ったの?料理でもしてた?」

僕の問いに「そうだ」と頷いた。

兄ちゃんが料理?カップラーメン作るにも、温度や湯量で大騒ぎする人が、なんで急に料理する気になったの?

「これを検証するためだ」

絆創膏を巻いた指で差し出された本の表紙には『10分で簡単、おかず事典』と書かれていた。ここに紹介された料理が本当に10分で調理できるかを確かめたかったそうだ。

「お客様にお薦めするのに、偽りの内容を謳った教本であってはいけない」

「それで料理を」

「しかし、この検証には問題があったのだ」

深刻な顔でじっとマニュアル本を見つめた。
兄ちゃんは基本的な調理方法をまったく知らなかった。包丁にも種類があると、さっき知ったばかりだそうだ。

「サイの目切り、千切り、削ぎ切り、銀杏切り。食材を切るにも多彩すぎる様式。乱切りとザク切りの差は?色紙切りと短冊切りの差は何ミリなのか?」

「は?」

「調味料も、少々とひとつまみの差は何グラムだ?出汁の濃度はどうやって確認する?焼き目と焦げの違いはどこだ?」

「ち、ちょっと!落ち着いて」

「料理というものがこれほど複雑で難解だとは・・・」

頭を抱えて座りこんだ兄ちゃんは、「左手を『猫の手』にしたのに切れてしまったし」と嘆いた。

あぁ、それは鈍くさいだけだよ?

「とりあえず、これ以上ケガしたら仕事に支障が出るから諦めようよ。きっと10分で出来る人は、基本的な調理スキルをマスターしてるって条件があるのかもしれないし」

「ならば、そう表記せねば不親切ではないか。明日、出版社に問い合わせよう」

「うん、そうだね。明日にしようか」

まだ納得いかないのか、料理用語を念仏みたいにブツブツ呟く兄ちゃんを風呂に送り、僕は床の方まで散らかり放題のキッチンの後片づけに取りかかった。
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