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変わり者の久志
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7月10日日没後
「この惨状はなんじゃ?」
「ま、松姫ちゃん・・・こんばんは」
揚げ物油はコンロ周りだけでなく、無残にも床にまで飛び散っている。さらに不揃いに刻まれた豆腐はまな板にもシンクの中にも散乱していて、油切りトレイには真っ黒に焦げた何かが積み上がっている。
まるで竜巻が通り過ぎたような台所の散らかり具合に、さすがの松姫ちゃんも絶句した。
「今日ね、お稲荷さんが食べる油揚げを自分で作ろうとしたんだけど、簡単な調理しかできない僕には難易度高くて・・・」
「大希殿は健闘したのでござるぞ。されど、油で揚げるということは容易いことではなく火傷まで負われて・・・無念でござる」
「左様か。しかし、妾には関係ないぞ」
「はいはい。当てにはしてないから、掃除が済むまで奥の間で時代劇観て待ってて」
調理を手伝っていた清蟹くんもしょんぼりしてしまった。これ以上巻き込むのはかわいそうなので、松姫ちゃんシッターを頼んで僕一人で台所に戻ってきた。
こうなれば最後の手段。明日、父さんの家まで行って祖母ちゃんに作り置きしてもらうしかない。
「それまでは悪夢に耐えるかな・・・」
そうと決まれば、連絡入れておかないと。
スマホで父さんに電話したけど仕事中だったので、家電にかけたら祖母ちゃんが出た。祖母ちゃんは僕がここで留守番することをスゴく心配していたので、声を聞けて喜んでくれた。
「さっそくお願いがあるんだけど、祖母ちゃん油揚げ作っておいてくれない?お稲荷さんが気に入らないみたいで悪夢見せてくるからさ」
「あら、あの子たちそんなことするの?ヤダ、こわい」
いや、そうなる原因を作ったのは祖母ちゃんだけどね。グルメに育てたから、安物じゃ満足しなくなったんだよ。
明日の午後に家に行く約束を取り付けた。
それから、父さんの評判がすこぶる悪いことを伝えると電話の向こうの祖母ちゃんは吹き出して笑った。
「久志はちょっと変わってるからね。小さい頃から何も怖がらないから、物の怪の類も寄って来ちゃうし困ったのよ、本当に」
「へぇ、父さんって妖怪とか怖くないんだ」
「生まれた時から物の怪に関わる機会がある集落の子でも、あそこまで平然としてる子はいないわ。物の怪をビックリさせて喜ぶような子だったのよ、あなたのお父さんは」
「そっか。妖怪たちにイタズラしまくったせいでここに居づらくなって出てったとか?もしかして、何かに恨み買ってる奴がいるとか?」
「・・・」
僕の言葉に、それまでカラカラ笑っていた祖母ちゃんの声がとまった。
「・・・祖母ちゃん?どうかした?」
「あ、ううん、何でもないわ。もう、久志は本当に手がかかる子だったのよ。おっとりした大希とは大違いね」
何か変だ。
明らかに取り繕っているって感じる。何か隠しているみたいな違和感がある。
父さんが実家を出たのには、イタズラとは別の理由があるとか?本人に訊いてもきっとのらくらかわすだろうし・・・
「じゃ、祖母ちゃんまた明日」
「はいはい。気をつけていらっしゃいね」
取りあえず、今ある疑問は明日直接祖母ちゃんに聞いてみよう。面と向かってなら、ごまかせないだろう。
「まずは僕が最優先でやるべき作業は、台所を元の状態に戻すことだな」
奥の間から漏れてくる松姫ちゃんの興奮した声を聞きながら、火傷した手で雑巾を絞った。
「この惨状はなんじゃ?」
「ま、松姫ちゃん・・・こんばんは」
揚げ物油はコンロ周りだけでなく、無残にも床にまで飛び散っている。さらに不揃いに刻まれた豆腐はまな板にもシンクの中にも散乱していて、油切りトレイには真っ黒に焦げた何かが積み上がっている。
まるで竜巻が通り過ぎたような台所の散らかり具合に、さすがの松姫ちゃんも絶句した。
「今日ね、お稲荷さんが食べる油揚げを自分で作ろうとしたんだけど、簡単な調理しかできない僕には難易度高くて・・・」
「大希殿は健闘したのでござるぞ。されど、油で揚げるということは容易いことではなく火傷まで負われて・・・無念でござる」
「左様か。しかし、妾には関係ないぞ」
「はいはい。当てにはしてないから、掃除が済むまで奥の間で時代劇観て待ってて」
調理を手伝っていた清蟹くんもしょんぼりしてしまった。これ以上巻き込むのはかわいそうなので、松姫ちゃんシッターを頼んで僕一人で台所に戻ってきた。
こうなれば最後の手段。明日、父さんの家まで行って祖母ちゃんに作り置きしてもらうしかない。
「それまでは悪夢に耐えるかな・・・」
そうと決まれば、連絡入れておかないと。
スマホで父さんに電話したけど仕事中だったので、家電にかけたら祖母ちゃんが出た。祖母ちゃんは僕がここで留守番することをスゴく心配していたので、声を聞けて喜んでくれた。
「さっそくお願いがあるんだけど、祖母ちゃん油揚げ作っておいてくれない?お稲荷さんが気に入らないみたいで悪夢見せてくるからさ」
「あら、あの子たちそんなことするの?ヤダ、こわい」
いや、そうなる原因を作ったのは祖母ちゃんだけどね。グルメに育てたから、安物じゃ満足しなくなったんだよ。
明日の午後に家に行く約束を取り付けた。
それから、父さんの評判がすこぶる悪いことを伝えると電話の向こうの祖母ちゃんは吹き出して笑った。
「久志はちょっと変わってるからね。小さい頃から何も怖がらないから、物の怪の類も寄って来ちゃうし困ったのよ、本当に」
「へぇ、父さんって妖怪とか怖くないんだ」
「生まれた時から物の怪に関わる機会がある集落の子でも、あそこまで平然としてる子はいないわ。物の怪をビックリさせて喜ぶような子だったのよ、あなたのお父さんは」
「そっか。妖怪たちにイタズラしまくったせいでここに居づらくなって出てったとか?もしかして、何かに恨み買ってる奴がいるとか?」
「・・・」
僕の言葉に、それまでカラカラ笑っていた祖母ちゃんの声がとまった。
「・・・祖母ちゃん?どうかした?」
「あ、ううん、何でもないわ。もう、久志は本当に手がかかる子だったのよ。おっとりした大希とは大違いね」
何か変だ。
明らかに取り繕っているって感じる。何か隠しているみたいな違和感がある。
父さんが実家を出たのには、イタズラとは別の理由があるとか?本人に訊いてもきっとのらくらかわすだろうし・・・
「じゃ、祖母ちゃんまた明日」
「はいはい。気をつけていらっしゃいね」
取りあえず、今ある疑問は明日直接祖母ちゃんに聞いてみよう。面と向かってなら、ごまかせないだろう。
「まずは僕が最優先でやるべき作業は、台所を元の状態に戻すことだな」
奥の間から漏れてくる松姫ちゃんの興奮した声を聞きながら、火傷した手で雑巾を絞った。
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