僕と松姫ちゃんの妖怪日記

智春

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雅志の妄想力

7月11日夜


「近くで見てると妙な感じだったぜ」

ガハハと笑いながら缶ビールをあおる叔父さんは「今もだけどな」と、松姫ちゃんを抱いている僕を指さした。

今日一日、丸々くっついて僕を作業を観察していた彼は、その言動をふり返って酒の肴にしていた。
まぁ、他所の人から見たら、僕は完全にヤバい奴だと思われるだろうけど、身内には言われたくないな。

「本当に何も見えないの?」

「見えないぜ。子供の頃から全然」

豪快にビールを飲み干して、遠慮もなく次の缶を開けた。

油揚げの一件は解決したけど、叔父さんがいちいち邪魔な行動をする。妖怪たちも傍若無人なタンクトップ中年にドン引きしていた。
ずっとこのままなのかな・・・

そう言えば、この人、秋香さんだけ感知できるんだったっけ。なんでだろ?
僕は秋香さんとの出会いを聞いてみた。

「茜の君とのなれそめか?なんだ、俺の恋バナに興味あるのか大希は」

来年40歳になるオッサンが恋バナって言うな。

「そうだね。参考までに」

水を向けると、叔父さんは嬉々として語り出した。

「俺が高校生の頃、そこの柿の木のうろが女の立ち姿に似てるって発見したんだよ。玄関の正面辺りな。今は暗くて見えないけど」

「へぇ、虚って、幹の穴でしょ?」

「そうそう、バクって空いてるアレな」

今より血気盛んな叔父さんは、いろいろな妄想をしながらその女性の形をした穴を毎日凝視し続けたそうだ。
どんな妄想してたかは、僕の口からは言えない。

「するとある日、その虚が本物の女に変わったんだ。赤い着物を着た若い女にな」

叔父さんの執念というのか、煩悩というのか、それが高じてついに柿の木の精霊を感知することが出来るようになったらしい。

ヤダ!変態。
松姫ちゃんも渋い顔してるよ。

秋香さんに一目惚れした顛末とかをビール片手にデレデレになって語る叔父さんは、急に何かを思いついたようで僕の肩を叩いた。

「俺の恋バナもいいけどよ、お前にも訊きたいことあるんだよ」

「え?何?恋愛系はヤダよ」

「違う。ここの妖怪たちがどういう風に見えてるのか、絵に描いてくれよ。お前、そう言うの得意だったろ?」

「絵で?」

僕は居間から新聞紙を持ってきて、折り込みチラシの無印刷の裏面に鉛筆で妖怪たちを描き始めた。叔父さんは、「おぉ」とか「へぇ~」とか言いながら腕を組んだ。

「人形とヒキガエルと狸はほとんどそのままだな。井戸にそんなデカい蛇がいるのは気づかなかった」

蟒蛇は人見知りだから、叔父さんが見える人でもきっと出てこないと思うんだけど。

僕が描いた妖怪図を手に取ってじっくり看ていた叔父さんは、うなずきながらこう言った。

「やっぱり上手いな。お前、子供の頃イラストレーターになりたいって言ってたろ?俺はまだイケると思うぜ」

「え、まだ覚えてるのそんなこと」

「当たり前だろう。可愛い甥っ子の夢だからな」

「・・・」

ずっと絵は好きだった。でも、今は描いていない。と言うか、描けないんだよ 。
返事に困っている僕の膝に乗った松姫ちゃんがふり返った。

「イラストレーターとは何じゃ?」

「絵師だよ。絵を描く仕事」

「なんと!」

松姫ちゃんは「面白き生業じゃ」とはしゃぎ、ぴょんぴょん跳ねた。この子が笑ってくれると気分が和む。

「うわ、気持ち悪!」

叔父さんが太い眉をひそめて、僕たちを見ていた。
「日本人形を抱いて話をしかけるアラサー男って、スゴく気色悪いな」

「は?」

何言ってるの、この人!柿の木の老木を凝視して、女の人が見えるようになった筋肉バカの方が気色悪いと思うけどね。
叔父さんは奇異の目で僕と松姫ちゃんと折り込みチラシとを見比べている。

明日もこんな感じでポンコツ叔父さんにペースを乱されるのかな・・・

ため息をついて、ノートパソコンを立ち上げた。
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