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一本杉の大天狗
7月14日昼過ぎ
僕は今、風になってる。
なんて言うと、ファンタジーに染まった痛い奴みたいだけど、実際そんなアクティビティを体験しているような感じなんだ。
上空から山々の尾根を見下ろす鳥視点って感動的だよ。
なんでこんな状況になっているかというと、僕は天狗に抱えられて空を飛んでいるからなんだ。彼が操る天狗風に乗って、ある処まで一緒に来て欲しいって頼まれた。
「食べられたり、精気を吸い取られたりしない?」
「大好きな人の大事な一人息子にそんなことしませんよ。身の安全は保障します」
そう押し切られ、日課の作業を最速で片づけてから、天狗に連れられて風なったというわけ。
正直、何されるのか怖い。
天狗はがっちり僕をホールドしたまま飛び続け、ひときわ険しい山の頂にそびえる一本杉の上に舞い降りた。景観は最高。不安感も最高潮。
枝に降ろされ、高所と怯えでビクビクしている僕の背後から、突然低い男の声がした。
「この子が、あの時の赤ん坊か。父親の面差しがあるな」
「ひぃ!」
耳のすぐ後ろで響くバリトンボイスに驚き、足を踏み外しそうになった僕をとっさに支えた天狗は「そうでしょう?父上」と微笑んだ。
「ち、父上?」
ふり返ったそこには、大柄な天狗をさらに倍加したような大男たちが並んでいた。
重量的に枝が折れそうだけど、杉の大樹は軋みもしない。そのことが彼らが人とは違うモノであることを証明しているみたいだ。
「この子の頼み事を断れなくて、巡回の番が引き継げなかったのですよ、兄上方」
僕を姫抱っこしながら、天狗は兄らしい天狗たちに任務をすっぽかした説明をした。
「私の時間をキミにあげた対価として、役目を怠けた言い訳に協力して下さい。キミに頼まれて、断れず・・・という体でお願いします。父上、激昂すると恐ろしいことになるので」
「僕のせいってことにするの?」
確かに、報酬をチラつかせて天狗を帰さなかったとも言える。あれ?帰っても良かったのに、べったりくっついてたのは天狗だし、自業自得じゃない?
それでも、大天狗様のブチ切れ状態を巻き込まれたくない僕は、自分の原因だと頭を下げた。
「本当にそうか信用ならん!」
「いくら久志の息子が証言しても、どこまで真実なのか怪しいものだ」
「大方、久志に似ている息子に言い寄っていただけなのではないか?」
彼とは違ったタイプの美形揃いの天狗たちは、納得いかないと責めた。最後の一人の言葉、正解!
どうしよう、全然信じてくれないじゃん。お兄さんたちへの日頃の行いが悪くて、信用されてなさすぎじゃない?無事に帰れるか心配になってきたよ。
そんな僕の心中を察した大天狗が言い争う息子たちを一喝した。
「今回の一件は、久志の息子が関わっておる故、不問とする」
「父上!」
満面の笑みを浮かべる天狗に対し「しかし」と父天狗は続けた。
「見回りの役目を抜けて良いということではない。次に兄たちに迷惑かけるようなことあらば、このワシ自らが重い罰を下そう。そう肝に銘じておけ」
「はい」
「それから、久志の子よ」
「あ、大希と言います」
「大希、立派になったな。あの騒動の際はどうなるかと身が縮む思いをしたが、無事に育ってなによりだ」
大天狗はごつごつした手のひらでそっと僕の頭を撫でた。
騒動って?
その疑問を口にする寸前で、天狗は「そろそろ戻りましょう」と会話を中断させた。さりげなく父天狗に目配せして、僕を抱いて一本杉の枝を蹴った。
「ねぇ、騒動ってなに?何か隠してるの?」
「いいえ。父上は、おそらく記憶違いしているのでしょう。大希くんは気にしなくていいですよ」
そう言う天狗の笑みは、いつものキラキラ感がちょっと鈍っていた。やっぱり何か隠し事があるんだな。
僕に過去に何かあるのか?あるとしたら、なんで誰
も教えてくれないんだ?
この田舎には、僕の知らないことがまだまだありそうだ。
僕は今、風になってる。
なんて言うと、ファンタジーに染まった痛い奴みたいだけど、実際そんなアクティビティを体験しているような感じなんだ。
上空から山々の尾根を見下ろす鳥視点って感動的だよ。
なんでこんな状況になっているかというと、僕は天狗に抱えられて空を飛んでいるからなんだ。彼が操る天狗風に乗って、ある処まで一緒に来て欲しいって頼まれた。
「食べられたり、精気を吸い取られたりしない?」
「大好きな人の大事な一人息子にそんなことしませんよ。身の安全は保障します」
そう押し切られ、日課の作業を最速で片づけてから、天狗に連れられて風なったというわけ。
正直、何されるのか怖い。
天狗はがっちり僕をホールドしたまま飛び続け、ひときわ険しい山の頂にそびえる一本杉の上に舞い降りた。景観は最高。不安感も最高潮。
枝に降ろされ、高所と怯えでビクビクしている僕の背後から、突然低い男の声がした。
「この子が、あの時の赤ん坊か。父親の面差しがあるな」
「ひぃ!」
耳のすぐ後ろで響くバリトンボイスに驚き、足を踏み外しそうになった僕をとっさに支えた天狗は「そうでしょう?父上」と微笑んだ。
「ち、父上?」
ふり返ったそこには、大柄な天狗をさらに倍加したような大男たちが並んでいた。
重量的に枝が折れそうだけど、杉の大樹は軋みもしない。そのことが彼らが人とは違うモノであることを証明しているみたいだ。
「この子の頼み事を断れなくて、巡回の番が引き継げなかったのですよ、兄上方」
僕を姫抱っこしながら、天狗は兄らしい天狗たちに任務をすっぽかした説明をした。
「私の時間をキミにあげた対価として、役目を怠けた言い訳に協力して下さい。キミに頼まれて、断れず・・・という体でお願いします。父上、激昂すると恐ろしいことになるので」
「僕のせいってことにするの?」
確かに、報酬をチラつかせて天狗を帰さなかったとも言える。あれ?帰っても良かったのに、べったりくっついてたのは天狗だし、自業自得じゃない?
それでも、大天狗様のブチ切れ状態を巻き込まれたくない僕は、自分の原因だと頭を下げた。
「本当にそうか信用ならん!」
「いくら久志の息子が証言しても、どこまで真実なのか怪しいものだ」
「大方、久志に似ている息子に言い寄っていただけなのではないか?」
彼とは違ったタイプの美形揃いの天狗たちは、納得いかないと責めた。最後の一人の言葉、正解!
どうしよう、全然信じてくれないじゃん。お兄さんたちへの日頃の行いが悪くて、信用されてなさすぎじゃない?無事に帰れるか心配になってきたよ。
そんな僕の心中を察した大天狗が言い争う息子たちを一喝した。
「今回の一件は、久志の息子が関わっておる故、不問とする」
「父上!」
満面の笑みを浮かべる天狗に対し「しかし」と父天狗は続けた。
「見回りの役目を抜けて良いということではない。次に兄たちに迷惑かけるようなことあらば、このワシ自らが重い罰を下そう。そう肝に銘じておけ」
「はい」
「それから、久志の子よ」
「あ、大希と言います」
「大希、立派になったな。あの騒動の際はどうなるかと身が縮む思いをしたが、無事に育ってなによりだ」
大天狗はごつごつした手のひらでそっと僕の頭を撫でた。
騒動って?
その疑問を口にする寸前で、天狗は「そろそろ戻りましょう」と会話を中断させた。さりげなく父天狗に目配せして、僕を抱いて一本杉の枝を蹴った。
「ねぇ、騒動ってなに?何か隠してるの?」
「いいえ。父上は、おそらく記憶違いしているのでしょう。大希くんは気にしなくていいですよ」
そう言う天狗の笑みは、いつものキラキラ感がちょっと鈍っていた。やっぱり何か隠し事があるんだな。
僕に過去に何かあるのか?あるとしたら、なんで誰
も教えてくれないんだ?
この田舎には、僕の知らないことがまだまだありそうだ。
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