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天狗と清蟹
7月15日日没後
「また来ておったか。暑苦しい奴じゃ」
寝起きの松姫ちゃんは、僕の背後から腕を回してベッタリくっついている天狗に嫌味を言った。
「姫にどう思われてもかまいません。大希くんに何かあったら久ちゃんに顔向けできないので、私の意思でこうしてお守りしているのです」
「お前の方が質が悪いわ。大希にけしからんことをやらかしそうじゃ」
「失礼ですね。純粋に幼馴染みの大事な息子を守っているのですよ」
さも当然といった感じの天狗に「守るほどのことが起きるとは思えぬ」と返した松姫ちゃんは、三枚重ねの座布団に乗っかった。
「いいえ。用心するにこしたことはありません。今日も、凶暴な猿に襲われそうなところを私がお救いしたのですから」
「猿?」
松姫ちゃんが一瞬驚いたように目を見開いた。
そんなに猿って怖い生き物なの?確かに、野生動物は何するか予測できないけどさ。
昼間も天狗が脅し文句を言った後、僕に近寄ってきていた大きな猿は群れに向かって一声鳴いて、おとなしく畑を出て行ったけどな。
その後、母屋に戻って狸たちに豆をあげて蟒蛇の井戸に御神酒持って行っている間に、天狗があんご爺ちゃんの水風呂を用意してくれたっけ。
あの時は、作業を手伝ってくれているだけだと思ったけど、遠目から見て、何事か密談しているようにも思えたんだよな。
そいうことされると、他所の人だって言われてるみたいで気分が悪い。
その後は天狗は家に上がり込み、いままでずっと僕から離れなかった。部外者だって邪魔にしてるのか、大事に守りたいのか、どっちなんだよ。
しばらく天狗と無言で見合っていた松姫ちゃんは、ふぅと一息吐いて話をやめた。
「頼もう!頼もう!」
「あ、清蟹くん。いらっしゃい」
元気よく挨拶して家に上がってきた清蟹くんは、ニコニコしながら頭を下げた。
「昨夜のように、また錦絵を見とうござる。よろしいかな、大希殿」
「うん、いいよ。じゃ、紙とか道具を持ってくるから待ってて」
僕が立ち上がろうと腰を浮かした時、背中にくっついていた天狗が素っ頓狂な声を出した。
「権現様!貴方、清蟹権現様ではございませんか?」
大きな男に名指しされた清蟹くん。
コレってビビるよね?叔父さんの時みたいに怖がって逃げてしまうかも?
僕は足をとめ、様子をうかがった。
「おぉ、お前はもしや子天狗か?ずいぶん大きく育ったな」
「はい。お陰様で。父も息災でございます」
は?何この会話!
話しぶりからして、清蟹くんの方が天狗より格上っぽいけど、どういうこと?
僕の困惑をよそに、二人は近況などの世間話をした後、天狗は門限があるので帰ると言った。
「権現様がいらっしゃるなら百人力でございましょう。大希くん、この方にお任せすれば安心です」
「やめてくれぬか。我はもはや霊力が失せてしまっておる故・・・」
「そんな、ご謙遜なさらず。軍神のごときあの凛々しきお姿、まだこの目に焼きついております」
軍神?このちっちゃい神様が?
「大希くんのこと、お頼み致します!」
「大天狗様によろしゅう!」
名残惜しそうに飛び去る天狗を清蟹くんと一緒に庭で見送った僕は、足にしがみつく男の子が本当は、スゴい神様なのかも知れない、と少しだけ緊張した。
「また来ておったか。暑苦しい奴じゃ」
寝起きの松姫ちゃんは、僕の背後から腕を回してベッタリくっついている天狗に嫌味を言った。
「姫にどう思われてもかまいません。大希くんに何かあったら久ちゃんに顔向けできないので、私の意思でこうしてお守りしているのです」
「お前の方が質が悪いわ。大希にけしからんことをやらかしそうじゃ」
「失礼ですね。純粋に幼馴染みの大事な息子を守っているのですよ」
さも当然といった感じの天狗に「守るほどのことが起きるとは思えぬ」と返した松姫ちゃんは、三枚重ねの座布団に乗っかった。
「いいえ。用心するにこしたことはありません。今日も、凶暴な猿に襲われそうなところを私がお救いしたのですから」
「猿?」
松姫ちゃんが一瞬驚いたように目を見開いた。
そんなに猿って怖い生き物なの?確かに、野生動物は何するか予測できないけどさ。
昼間も天狗が脅し文句を言った後、僕に近寄ってきていた大きな猿は群れに向かって一声鳴いて、おとなしく畑を出て行ったけどな。
その後、母屋に戻って狸たちに豆をあげて蟒蛇の井戸に御神酒持って行っている間に、天狗があんご爺ちゃんの水風呂を用意してくれたっけ。
あの時は、作業を手伝ってくれているだけだと思ったけど、遠目から見て、何事か密談しているようにも思えたんだよな。
そいうことされると、他所の人だって言われてるみたいで気分が悪い。
その後は天狗は家に上がり込み、いままでずっと僕から離れなかった。部外者だって邪魔にしてるのか、大事に守りたいのか、どっちなんだよ。
しばらく天狗と無言で見合っていた松姫ちゃんは、ふぅと一息吐いて話をやめた。
「頼もう!頼もう!」
「あ、清蟹くん。いらっしゃい」
元気よく挨拶して家に上がってきた清蟹くんは、ニコニコしながら頭を下げた。
「昨夜のように、また錦絵を見とうござる。よろしいかな、大希殿」
「うん、いいよ。じゃ、紙とか道具を持ってくるから待ってて」
僕が立ち上がろうと腰を浮かした時、背中にくっついていた天狗が素っ頓狂な声を出した。
「権現様!貴方、清蟹権現様ではございませんか?」
大きな男に名指しされた清蟹くん。
コレってビビるよね?叔父さんの時みたいに怖がって逃げてしまうかも?
僕は足をとめ、様子をうかがった。
「おぉ、お前はもしや子天狗か?ずいぶん大きく育ったな」
「はい。お陰様で。父も息災でございます」
は?何この会話!
話しぶりからして、清蟹くんの方が天狗より格上っぽいけど、どういうこと?
僕の困惑をよそに、二人は近況などの世間話をした後、天狗は門限があるので帰ると言った。
「権現様がいらっしゃるなら百人力でございましょう。大希くん、この方にお任せすれば安心です」
「やめてくれぬか。我はもはや霊力が失せてしまっておる故・・・」
「そんな、ご謙遜なさらず。軍神のごときあの凛々しきお姿、まだこの目に焼きついております」
軍神?このちっちゃい神様が?
「大希くんのこと、お頼み致します!」
「大天狗様によろしゅう!」
名残惜しそうに飛び去る天狗を清蟹くんと一緒に庭で見送った僕は、足にしがみつく男の子が本当は、スゴい神様なのかも知れない、と少しだけ緊張した。
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