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夏場所中の乱入者
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7月21日夜
段ボールで作ったコンパクトな土俵の上に、角を突き合わせたカブトムシが戦っていた。
黒光りする大きな体でぶつかって、テリトリーから追い出そうと躍起になっている。
「押せ!松の花!押しまくるのじゃ!」
「相手が寄り切るつもりであらば、隙をみて返すのでござるよ!清の里!」
取り組みに熱中する松姫親方と清蟹親方は、まるでそのまま自分たちも取っ組み合いかねない勢いで土俵にかぶりついている。
夕暮れ間際、清蟹くんと天狗と一緒にカブトムシ捕獲のトラップを回収に行った。
誰の仕業か、トラップは全部壊されていてショックだったけど、突然空から大量に降ってきたカブトムシに度肝を抜かれた。でも、そのおかげで助かった。
「やっぱり、あれも妖怪か何かの仕業なのかな・・・」
カブトムシを集めてくる妖怪なんているのかな?それとも、ただの山の怪現象?
原因は分からないけど、今回はマジで感謝だよ。
都会育ちの僕には山の虫は満足に捕まえられないと侮っていた松姫ちゃんは、ペットボトルのケージいっぱいに詰まったカブトムシに目を輝かせて「天晴れ!見直したぞ、大希」と飛び上がった。
あんなに喜んでくれて、僕も嬉しくなった。
そんなことを考えている目に前で、戦意を喪失した清蟹くんのカブトムシがブーンと飛んでいった。
「松の花、良くやった!褒めてつかわそう」
松姫ちゃんのカブトムシが押し出しで勝利したらしい。飛んで行った自分のカブトムシを追いかけた清蟹くんは「口押しや」と嘆いている。
「清!取り組み前に定めた罰を忘れるでないぞ」
「無念・・・」
「はははっ!妾の下す罰は、生易しいものではないぞ。覚悟しておれ!」
うなだれる清蟹くんは、捕まえてきた清の里を即席で作った虫用ケージに戻した。
嘘、罰ゲームがあるの?どうりで二人とも異様に力はいっていると思った。
「次は大希じゃ。お主には然るべき約定をもうけようぞ」
「約定って?」
松姫ちゃんは、フンっと鼻を鳴らし腕を組んだ。
「お主が負けたら、一生妾に仕えると誓え。この家で、死ぬまで妾の家来として生きるのじゃ」
「え、なにそれ!イヤだよ」
「決まりじゃ。嫌なら妾の松の花に勝てば良かろう」
不敵に笑う姫様。
ちょっと!僕が勝った場合には松姫ちゃんにペナルティー無いの?横暴だ!
そうこうしているうちに、松姫ちゃんは松の花を土俵に上げた。仕方なく、僕も大鵬と名付けたカブトムシを向かい合わせに乗せた。
勝てばいいんだよ、勝てば。
「見合って見合って、はっけよい・・・」
双方が手を離した。その直後。
「大希!!ちょっと来い!」
「!?」
玄関の方から野太いハスキーな怒鳴り声が響いた。ガラスが塡まった扉をガタガタ揺らし、僕を呼び続けている。
「え、この声って・・・まさか」
そんなはずないよ。だってその人は、リハビリを始めたばっかりで、まだ身動きが満足に出来ないはずで・・・
「おい!!何やってるんだ、大希!すぐ一万持って来い!急げ」
「や、やっぱり祖父ちゃんなの?なんでここに?」
「昭夫か!戻ったか!」
「昭夫殿!」
松姫ちゃんと清蟹くんに飛びつかれた祖父ちゃんは、左足のギブスを庇ってよろめいた。ちょっと痩せたみたいだけど、精悍な顔つきは変わっていない。
「大希、すまねぇが、庭にタクシー待たせてるから金払ってくれ」
「は?どういうこと?なんでタクシーが・・・」
「ぐだぐだ言ってんじゃねぇよ。車代なら踏み倒さねぇでちゃんと返すから心配すんな」
いや、心配してるのはそっちじゃないよ。
取りあえず、庭で待機しているタクシーに料金を払い帰してから、祖父ちゃんに肩を貸して家に入れた。
何があったの?祖父ちゃん。
突然帰宅した祖父ちゃんに戸惑い混乱する僕の背後
の 土俵上では、大鵬が松の花にひっくり返されていた。
段ボールで作ったコンパクトな土俵の上に、角を突き合わせたカブトムシが戦っていた。
黒光りする大きな体でぶつかって、テリトリーから追い出そうと躍起になっている。
「押せ!松の花!押しまくるのじゃ!」
「相手が寄り切るつもりであらば、隙をみて返すのでござるよ!清の里!」
取り組みに熱中する松姫親方と清蟹親方は、まるでそのまま自分たちも取っ組み合いかねない勢いで土俵にかぶりついている。
夕暮れ間際、清蟹くんと天狗と一緒にカブトムシ捕獲のトラップを回収に行った。
誰の仕業か、トラップは全部壊されていてショックだったけど、突然空から大量に降ってきたカブトムシに度肝を抜かれた。でも、そのおかげで助かった。
「やっぱり、あれも妖怪か何かの仕業なのかな・・・」
カブトムシを集めてくる妖怪なんているのかな?それとも、ただの山の怪現象?
原因は分からないけど、今回はマジで感謝だよ。
都会育ちの僕には山の虫は満足に捕まえられないと侮っていた松姫ちゃんは、ペットボトルのケージいっぱいに詰まったカブトムシに目を輝かせて「天晴れ!見直したぞ、大希」と飛び上がった。
あんなに喜んでくれて、僕も嬉しくなった。
そんなことを考えている目に前で、戦意を喪失した清蟹くんのカブトムシがブーンと飛んでいった。
「松の花、良くやった!褒めてつかわそう」
松姫ちゃんのカブトムシが押し出しで勝利したらしい。飛んで行った自分のカブトムシを追いかけた清蟹くんは「口押しや」と嘆いている。
「清!取り組み前に定めた罰を忘れるでないぞ」
「無念・・・」
「はははっ!妾の下す罰は、生易しいものではないぞ。覚悟しておれ!」
うなだれる清蟹くんは、捕まえてきた清の里を即席で作った虫用ケージに戻した。
嘘、罰ゲームがあるの?どうりで二人とも異様に力はいっていると思った。
「次は大希じゃ。お主には然るべき約定をもうけようぞ」
「約定って?」
松姫ちゃんは、フンっと鼻を鳴らし腕を組んだ。
「お主が負けたら、一生妾に仕えると誓え。この家で、死ぬまで妾の家来として生きるのじゃ」
「え、なにそれ!イヤだよ」
「決まりじゃ。嫌なら妾の松の花に勝てば良かろう」
不敵に笑う姫様。
ちょっと!僕が勝った場合には松姫ちゃんにペナルティー無いの?横暴だ!
そうこうしているうちに、松姫ちゃんは松の花を土俵に上げた。仕方なく、僕も大鵬と名付けたカブトムシを向かい合わせに乗せた。
勝てばいいんだよ、勝てば。
「見合って見合って、はっけよい・・・」
双方が手を離した。その直後。
「大希!!ちょっと来い!」
「!?」
玄関の方から野太いハスキーな怒鳴り声が響いた。ガラスが塡まった扉をガタガタ揺らし、僕を呼び続けている。
「え、この声って・・・まさか」
そんなはずないよ。だってその人は、リハビリを始めたばっかりで、まだ身動きが満足に出来ないはずで・・・
「おい!!何やってるんだ、大希!すぐ一万持って来い!急げ」
「や、やっぱり祖父ちゃんなの?なんでここに?」
「昭夫か!戻ったか!」
「昭夫殿!」
松姫ちゃんと清蟹くんに飛びつかれた祖父ちゃんは、左足のギブスを庇ってよろめいた。ちょっと痩せたみたいだけど、精悍な顔つきは変わっていない。
「大希、すまねぇが、庭にタクシー待たせてるから金払ってくれ」
「は?どういうこと?なんでタクシーが・・・」
「ぐだぐだ言ってんじゃねぇよ。車代なら踏み倒さねぇでちゃんと返すから心配すんな」
いや、心配してるのはそっちじゃないよ。
取りあえず、庭で待機しているタクシーに料金を払い帰してから、祖父ちゃんに肩を貸して家に入れた。
何があったの?祖父ちゃん。
突然帰宅した祖父ちゃんに戸惑い混乱する僕の背後
の 土俵上では、大鵬が松の花にひっくり返されていた。
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