45 / 66
勝手に決めないで!
7月22日午後
「大希くんがこの家を継ぐのですよ、土地神様!喜ばしいことです」
「めでたいでござる!祝宴を一席もうけとうござるな」
「良きかな、良きかな。グワッグワッグワッ」
裏庭に置かれた木桶の辺りで、にぎやかな声が上がった。あんご爺ちゃんに行水させながら、清蟹くんと天狗が好き勝手なことを言って盛り上がっている。
「ちょっと!本人の意思は無視なの?もう!」
きゃっきゃっと楽しそうな笑い声に背を向けて、ふて顔で井戸の上のお猪口にお神酒を注いだ。
早朝、祖父ちゃんが「跡取り」なんて言うから、清蟹くんが本気にしてしまった。しかも、朝ご飯を食べに山から下りてきた天狗にまで話しちゃったから収集つかなくなっていた。
いくら否定しても、みんな全然聞いてくれない。
「そりゃ、現在無職だし、就活もしてないから、一時的になら祖父ちゃんの手伝いをしろって言われたら断りづらいけどさ・・・」
跡取りとかいうなら話は別だ。コンビニも歩いて行ける距離にない田舎に一生住むなんて考えられないよ。
一升瓶を持ったまま立ちつくす僕に、井戸の中から低い声が呼びかけてきた。
「・・・大希、そこにいるか?」
「わ!蟒蛇?珍しいね、話しかけてくるなんて」
引きこもりの上に人見知りの大蛇・蟒蛇と話したのは一度だけだ。それも気さくな会話ってわけじゃなくて、クレームだったんだっけ。
その彼が自分からコミュニケーション取ってくるなんて超レアだ。
「大希、土地神様たちの話されていることは真実か?お前が、跡を継ぐというのは偽りなきことか?」
心地良い低音の声は、僕を気遣うように静かに訊いてきた。
「ううん。祖父ちゃんが勝手に言ってるだけだよ。僕はそんな気さらさらないし」
「・・・そうか」
「何?やっぱり蟒蛇も、僕がずっとこの家に住めばいいって思ってるの?」
「いや、私は大希の意思を尊重したいと思っている。お前は自身はどうしたいのか、その真意を知りたい」
「どうって決まってるじゃん。祖父ちゃん退院したら自分の家に帰るよ。それ以外の予定はないね」
僕の答えに「そうか」と言った蟒蛇は、寂しそうにぽつりと漏らした。
「それほどまでに、この里が嫌いか・・・」
「え?」
「私たちは皆、この里や山々や谷川を慈しみ大事に守ってきた。しかし、大希はそれほどまでに嫌っているのだな。悲しいことだが、仕方あるまい」
蟒蛇はそのまま井戸の奥へ潜ったのか、ふっと気配が消えてしまった。
「やめてよ。悲しいとかさ。そんなふうに言われると、嫌な気分になるじゃん」
僕が出会った神様や妖怪たちは、みんなこの田舎が大好きなのは分かる。祖父ちゃんや父さんたちが育った集落が愛されていて嬉しい。
けど、都会育ちの僕には今までの生活習慣を捨てて、不便でしかない土地に移り住むまでの情熱はない・・・
「どうせ、来月中には帰るんだし、みんなには言いたいように言わせておけばいいか」
そう言いながらも、ちくんと胸が痛んだ。
本当に帰らなきゃ行けないのかな?帰っても何ない都会へ。誰も待っているわけでもない場所へ、本心から帰りたいと思っているのかな、僕は・・・
ゲリラ豪雨みたい突然やって来て引っかき回して去って行った祖父ちゃんが残した波紋が、いつまでも心をゆらゆら乱していた。
「大希くんがこの家を継ぐのですよ、土地神様!喜ばしいことです」
「めでたいでござる!祝宴を一席もうけとうござるな」
「良きかな、良きかな。グワッグワッグワッ」
裏庭に置かれた木桶の辺りで、にぎやかな声が上がった。あんご爺ちゃんに行水させながら、清蟹くんと天狗が好き勝手なことを言って盛り上がっている。
「ちょっと!本人の意思は無視なの?もう!」
きゃっきゃっと楽しそうな笑い声に背を向けて、ふて顔で井戸の上のお猪口にお神酒を注いだ。
早朝、祖父ちゃんが「跡取り」なんて言うから、清蟹くんが本気にしてしまった。しかも、朝ご飯を食べに山から下りてきた天狗にまで話しちゃったから収集つかなくなっていた。
いくら否定しても、みんな全然聞いてくれない。
「そりゃ、現在無職だし、就活もしてないから、一時的になら祖父ちゃんの手伝いをしろって言われたら断りづらいけどさ・・・」
跡取りとかいうなら話は別だ。コンビニも歩いて行ける距離にない田舎に一生住むなんて考えられないよ。
一升瓶を持ったまま立ちつくす僕に、井戸の中から低い声が呼びかけてきた。
「・・・大希、そこにいるか?」
「わ!蟒蛇?珍しいね、話しかけてくるなんて」
引きこもりの上に人見知りの大蛇・蟒蛇と話したのは一度だけだ。それも気さくな会話ってわけじゃなくて、クレームだったんだっけ。
その彼が自分からコミュニケーション取ってくるなんて超レアだ。
「大希、土地神様たちの話されていることは真実か?お前が、跡を継ぐというのは偽りなきことか?」
心地良い低音の声は、僕を気遣うように静かに訊いてきた。
「ううん。祖父ちゃんが勝手に言ってるだけだよ。僕はそんな気さらさらないし」
「・・・そうか」
「何?やっぱり蟒蛇も、僕がずっとこの家に住めばいいって思ってるの?」
「いや、私は大希の意思を尊重したいと思っている。お前は自身はどうしたいのか、その真意を知りたい」
「どうって決まってるじゃん。祖父ちゃん退院したら自分の家に帰るよ。それ以外の予定はないね」
僕の答えに「そうか」と言った蟒蛇は、寂しそうにぽつりと漏らした。
「それほどまでに、この里が嫌いか・・・」
「え?」
「私たちは皆、この里や山々や谷川を慈しみ大事に守ってきた。しかし、大希はそれほどまでに嫌っているのだな。悲しいことだが、仕方あるまい」
蟒蛇はそのまま井戸の奥へ潜ったのか、ふっと気配が消えてしまった。
「やめてよ。悲しいとかさ。そんなふうに言われると、嫌な気分になるじゃん」
僕が出会った神様や妖怪たちは、みんなこの田舎が大好きなのは分かる。祖父ちゃんや父さんたちが育った集落が愛されていて嬉しい。
けど、都会育ちの僕には今までの生活習慣を捨てて、不便でしかない土地に移り住むまでの情熱はない・・・
「どうせ、来月中には帰るんだし、みんなには言いたいように言わせておけばいいか」
そう言いながらも、ちくんと胸が痛んだ。
本当に帰らなきゃ行けないのかな?帰っても何ない都会へ。誰も待っているわけでもない場所へ、本心から帰りたいと思っているのかな、僕は・・・
ゲリラ豪雨みたい突然やって来て引っかき回して去って行った祖父ちゃんが残した波紋が、いつまでも心をゆらゆら乱していた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
幼き改革者、皇孫降臨 〜三歳にして朝廷を震わせる〜
由香
キャラ文芸
瑞栄王朝の皇孫・凌曜は、わずか三歳。
泣かず、騒がず、ただ静かに周囲を見つめる幼子だった。
しかしその「無邪気な疑問」は、後宮の不正を暴き、腐敗した朝廷を揺るがしていく。
皇帝である祖父の絶対的な溺愛と後ろ盾のもと、血を流すことなく失脚者を生み、国の歪みを正していく凌曜。
やがて反改革派の最後の抵抗を越え、彼は“決める者”ではなく、“問い続ける存在”として朝廷に立つ。
これは、剣も権謀も持たぬ幼き改革者が、「なぜ?」という一言で国を変えていく物語。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜
もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。
ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を!
目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。
スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。
何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。
やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。
「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ!
ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。
ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。
2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!
※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
異世界ランドへようこそ
来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。
中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。
26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。
勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。
同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。
――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。
「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。
だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった!
経営者は魔族、同僚はガチの魔物。
魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活!
やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。
笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。
現代×異世界×職場コメディ、開園!