僕と松姫ちゃんの妖怪日記

智春

文字の大きさ
46 / 66

欠けた夜月

7月23日未明


「やかましい。早う、其奴そやつらを他所よそへ移せ」

祖父ちゃんのタンスから引っぱり出してきた手ぬぐいで、泥棒みたいにほっかむりをしている松姫ちゃんは、座布団の上に乗っかって渋い面で命を下した。

「そんな言い方はひどくない?松姫ちゃんが欲しいっていうから苦労して捕まえてきたカブトムシんじゃん」

「今は邪魔じゃ!その虫どもはガチャガチャうるさくてたまらん!わずらわしゅうて、まったく話が入ってこぬのじゃ!」

今夜の時代劇は『女ねずみ小僧』、彼女はその主人公と同じコスプレをしてふんぞり返っている。

あんなに熱中していたカブトムシ相撲は、たった一晩で飽きてしまった。松姫親方の力士が連戦連勝で、面白みがないというのが理由だ。でもね、そんなの接待相撲に決まってるでしょ。

「負けそうになると駄々をこねたり妨害しようとするんだもん、勝たせるしかないじゃん」

夜行性本来の活動状態に入ったカブトムシの軍団は、即席で作ったペットボトル製のケージを内側から破壊しかねないカオス状態だった。
いっそこのまま全員逃がしちゃおうかな。

「でも、ちょっともったいないような・・・」

もしかして天然カブトムシってことで売れたりする?養殖とは違う、大きくて生命力ハンパないオスのカブトムシなら、1匹いくらで売れるだろう・・・

「あ、見られてる・・・?」

そんな卑しいことを考えている僕を、松姫ちゃんの足元にちょこんと座っている2匹の白狐がじっと見ていた。

「あはは。ちゃんとお世話いたしますってば。ごめんなさい」

不純な皮算用をしていた心の中を見透かされたみたいで怖いな。小さくなってしまっていても、お稲荷さんは神様の使いだもんね。悪いことしようとするヤツは信用してくれない・・・
せっかく祖母ちゃんの油揚げで餌付けして、最近ちょっとだけ馴れてきてたのに、また一からやり直しかな。

奥の間から廊下を通って縁側に行くと、化け狸たちと一緒に月明かりを眺めている清蟹くんがいた。行儀良く並んだ狸と凛々しい眼差しの男の子の横顔を微笑ましく見つめた。

あぁ、可愛い。
こういう風景って、魅力的で独特で、他所では味わえない癒やしがあって和むんだよね。

「帰りたくないって思えることもあるよ、蟒蛇・・・」

嫌いなんかじゃないよ。

ここに来て、みんなに出会って、僕の中の何かが変わり始めてるってちゃんと気づいているよ。何もかも嫌になって、全部投げ出して逃げてきた僕が、心から「楽しい」ってまた思えるようになったんだから。

最初は変わり者ばっかろで戸惑いしかなかったけど、都会で傷ついていた僕を何も訊かず受け入れてくれた場所。もう一度、前向きに何かをしたいという意欲にさせてくれた、優しいモノたち・・・

「大希殿。いかがなされた?」

「え?」

「今にも泣き出しそうな顔をされているが・・・松姫に何かされたでござるか?」

「あ、ううん。なんでもないよ」

廊下に佇む僕に「欠けた月も良いものでござるよ」と笑った清蟹くんは、空を指さした。化け狸たちが僕を迎えにとてとて寄ってきた。

「ホント、キレイだね」

今の僕の心みたいに、いびつな形に削げた月が、大きく枝をのばした柿の老木の上で蒼白く輝いていた。
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

幼き改革者、皇孫降臨 〜三歳にして朝廷を震わせる〜

由香
キャラ文芸
瑞栄王朝の皇孫・凌曜は、わずか三歳。 泣かず、騒がず、ただ静かに周囲を見つめる幼子だった。 しかしその「無邪気な疑問」は、後宮の不正を暴き、腐敗した朝廷を揺るがしていく。 皇帝である祖父の絶対的な溺愛と後ろ盾のもと、血を流すことなく失脚者を生み、国の歪みを正していく凌曜。 やがて反改革派の最後の抵抗を越え、彼は“決める者”ではなく、“問い続ける存在”として朝廷に立つ。 これは、剣も権謀も持たぬ幼き改革者が、「なぜ?」という一言で国を変えていく物語。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます! ※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界ランドへようこそ

来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。 中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。 26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。 勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。 同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。 ――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。 「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。 だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった! 経営者は魔族、同僚はガチの魔物。 魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活! やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。 笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。 現代×異世界×職場コメディ、開園!