僕と松姫ちゃんの妖怪日記

智春

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狐と油揚げ

7月23日深夜


またじっと見てる。松姫ちゃんの膝の上から2匹で、歯をむいているようにも見える。

「なんで睨むの?今は何もやましいこと考えてないよ?」

なんだか詮議されているようで居心地が悪い。さすがお稲荷さん、眼力がハンパない。清蟹くんのスケッチをしている指が緊張して思う通りにいかない。

「大希殿、暑いのでござるか?」

「う、ううん。なんでもないよ」

清蟹くんの指摘通り、冷や汗かいてる。
あぁ、もう!睨んでる顔も可愛いな。
右半身に熱烈な視線を受けつつ、黙々と鉛筆を走らせた。

「大希、ちこう!」

時代劇の動画を再生しているノートパソコンから顔を上げ、松姫ちゃんが手招きしている。動画が終了したから次を再生しろってことかな?
僕はモデルになっている清蟹くんに一息ついてもらって鉛筆を置いた。

「次は何が観たいの?」

「違う。此奴こやつらに餌を食わせよ」

そう言って、稲荷たちを畳の上に押しのけた。

「ずっと着物を甘噛みしおって、鬱陶しい。腹が減っているなら素直に大希に申しつければいいものを」

「え?」

よく見ると、立ち上がった松姫ちゃんの着物は太ももの辺りがちょっと湿っていた。なんだ、お腹が空いていたのか。

「もしかして、昨日のガン見もそれが理由だったのかな?」

近づくと、ふぃっとそっぽを向いた。
素直じゃないのは、一番懐いている松姫ちゃんそっくりだ。
でも変だな。いつもは自分たちで勝手に冷蔵庫から作り置きの油揚げを出して食べるのに・・・

僕は台所へ行った。稲荷たちはちょこちょこついてくる。

「うわ!もう食べきってる」

保存容器の中は空だった。昨日からこの状態だったなら、かなりお腹空いているよね。

「どうしよう。もう夜遅いし、祖母ちゃんに連絡できないし・・・」

「自ら作るでござるよ、大希殿」

「え?」

いつの間にか台所に来ていた清蟹くんが「我も助太刀いたす」と袖をまくった。

自分で作る?今から?

確かに祖母ちゃんからレシピは教わっているけど、まだ一度も成功してない。数日前の大惨事がフラッシュバックするけれど、期待して尾っぽを揺らしている稲荷たちに出来ないとは言えない。

「一か八かだ」

清蟹くんと頷き合って、冷蔵庫から豆腐を取り出した。

ゆっくり慎重に作業をすれば大丈夫。豆腐の厚みを気をつけて、油の温度をちゃんと測って、上げる時間もちゃんと見極めて・・・
豆腐は一丁のみ。失敗はできない。

「ど、どうかな・・・」

揚がったばかりの油揚げは、香ばしくていい匂いがした。清蟹くんがゴクッと喉を鳴らす。
まだゆげが上がる油揚げを2等分に切って皿に乗せ、稲荷たちの前に置いた。料理番組の審査を受けてるみたいな気分で手に力が入る。

白い狐たちは、ツンと尖った鼻でしばらくフンフン匂いを嗅いでいた。

「あ!」

1匹がバクッと食らいついた。続いて、もう1匹もグワッと口を開けて皿に顔を突っ込んだ。
食べてくれた!僕の油揚げを!

「やったぁ!清蟹くん、食べてくれたよ!」

「苦労が報われたでござる!大希殿!」

満足そうに目を細めて頬張る稲荷たち。
ホンキの手作り料理を食べてもらえるってスゴく嬉しいんだね。いつもインスタントとか手抜き調理ばっかりだったけど、本気で料理男子を極めちゃおっかな。

あっという間に油揚げをたいらげた2匹は、「もっと食う」と言っているように僕を見上げて、ぴょんっと肩に乗ってきた。

「わ!可愛い!ヤバい、どうしよう」

最後まで警戒して懐いてくれなかった稲荷たちとやっと心が通じた感動で、ちょっとだけ、視界が温かい何かで潤んだりした。
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