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人と神と妖怪の縁
7月24日昼過ぎ
「ほぉ、稲荷が油揚げを食うたか」
木桶に浸かる巨大なヒキガエルは「良きかな、良きかな」と頷いた。
「これでこの家で出会った神様や妖怪みんなと仲良くなれたよ」
「そうか。グワッグワッグワッ」
バケツに入れてきた新鮮な井戸水を木桶に注ぐと、あんご爺ちゃんは全身を弛緩させてくつろいだ。
ずっと水道水だったけど、蟒蛇に頼んで閉じている井戸の奥から水をくみ上げてもらった。頼み事をされた蟒蛇が、ちょっと嬉しそうに見えたのは僕だけかな。
「爺ちゃん、この家の人ってずっと人以外のモノと暮らしてきたの?」
「この家だけではなく、この里の者は皆、古より我らと共に生きておる」
「じゃ、他の家にも行くことあるの?清蟹くんとか天狗とか、うちにしか来ないみたいだけど」
敷地内にある井戸に住む蟒蛇や、柿の木の精の秋香さん、祖母ちゃんが飼っている化け狸と稲荷以外は、うちだけに毎日来る必要はないと思う。守り神なら、集落のどの家も大事じゃないのかな。
「信じる心があってこそ、結ばれる縁じゃ。そこに居ると信じぬ者に、神も物の怪も姿を現さぬものじゃよ」
「へぇ、そういうものなの?」
存在を信じていなければ見ることもできないモノたち。信仰心が薄れてしまった集落の住人には、彼らが認識できる人は少ないらしい。
だとしたら、いつかは神様や物の怪と人は触れ合うことできなくなるということだろうか・・・
「そう言えば、叔父さんも見えない人だったっけ。兄弟なのに全然体質が違うんだな。父さんは逆に妖怪と遊ぶくらい感知能力バリバリだけど」
僕の独り言に、ブクブク水中に潜っていた爺ちゃんがスッと顔を上げた。
「雅志は違う。子供の頃に大天狗に目を塞がれたのじゃ」
「え!なにそれ」
塞がれたって、どういう意味?確か、秋香さんも同じような言い方してたよな。
僕は木桶の縁に顔を寄せて、水風呂で悠然と構える土地神様に迫った。
「叔父さんも昔は妖怪たちが見えたの?なんで今は見えないの?それって僕が巻き込まれた騒動と関係あるの?」
「・・・」
否定したり、ごまかす素振りは見えない。もしかしたら、あんご爺ちゃんなら全部教えてくれるかもしれない。もう一押しすれば、ずっと胸の引っかかっていた疑問が解けるかも。
爺ちゃんの蛙特有の離れ気味の目をじっと見つめてたたみかけるように質問を続けた。
「爺ちゃん。僕の赤ちゃんの頃、何があったんでしょ?この土地の神様なら、偉いんだよね?誰に遠慮することなく話せるよね?」
「・・・」
「ねぇ、爺ちゃんってば。答えてよ!」
その瞬間、背後から胸に抜ける衝撃が走った。
「大希くん!ただいま戻りました!」
「お役目、抜かりなく果たしたでござるぞ。大希殿!」
「うわ!」
前屈みだった背中に猛烈に突進されて、バランスを崩した僕は木桶に頭から突っ込んだ。その隙に、あんご爺ちゃんはひらりと飛び退いて姿を消してしまった。
「大丈夫ですか?あぁ、私たちのせいでかわいそうに」
「申し訳ない」
「もしかして、わざとじゃないよね?今の」
タイミング良すぎない?もうちょっとで何か分かったかもしれないって感じだったのに、謀ったかのように体当たりって。
胸の当たり前びしょびしょになった僕は、木桶から体を起こして二人を見上げた。
「な、何のことでござるか?」
「勘ぐりすぎですよ。さぁ、着替えましょう。夏風邪は厄介だといいますから、ね?私が愛情込めて着せてあげますよ」
天狗がキラキラした笑顔で僕を抱き起こした。いつもは同性から見ても魅力的で眩しく思える笑顔も、今日はなんだか胡散臭く感じる。
「触んないでよ。暑苦しいな」
「いいえ、体が冷えてしまってはいけません。キミ一人の体ではないのですよ」
「そういう言い方やめて。気持ち悪い」
肩に腕を回して濡れた髪をいじる天狗の手を払いながら、過去を白状させるならあんご爺ちゃんしかいないかもしれないと思った午後だった。
「ほぉ、稲荷が油揚げを食うたか」
木桶に浸かる巨大なヒキガエルは「良きかな、良きかな」と頷いた。
「これでこの家で出会った神様や妖怪みんなと仲良くなれたよ」
「そうか。グワッグワッグワッ」
バケツに入れてきた新鮮な井戸水を木桶に注ぐと、あんご爺ちゃんは全身を弛緩させてくつろいだ。
ずっと水道水だったけど、蟒蛇に頼んで閉じている井戸の奥から水をくみ上げてもらった。頼み事をされた蟒蛇が、ちょっと嬉しそうに見えたのは僕だけかな。
「爺ちゃん、この家の人ってずっと人以外のモノと暮らしてきたの?」
「この家だけではなく、この里の者は皆、古より我らと共に生きておる」
「じゃ、他の家にも行くことあるの?清蟹くんとか天狗とか、うちにしか来ないみたいだけど」
敷地内にある井戸に住む蟒蛇や、柿の木の精の秋香さん、祖母ちゃんが飼っている化け狸と稲荷以外は、うちだけに毎日来る必要はないと思う。守り神なら、集落のどの家も大事じゃないのかな。
「信じる心があってこそ、結ばれる縁じゃ。そこに居ると信じぬ者に、神も物の怪も姿を現さぬものじゃよ」
「へぇ、そういうものなの?」
存在を信じていなければ見ることもできないモノたち。信仰心が薄れてしまった集落の住人には、彼らが認識できる人は少ないらしい。
だとしたら、いつかは神様や物の怪と人は触れ合うことできなくなるということだろうか・・・
「そう言えば、叔父さんも見えない人だったっけ。兄弟なのに全然体質が違うんだな。父さんは逆に妖怪と遊ぶくらい感知能力バリバリだけど」
僕の独り言に、ブクブク水中に潜っていた爺ちゃんがスッと顔を上げた。
「雅志は違う。子供の頃に大天狗に目を塞がれたのじゃ」
「え!なにそれ」
塞がれたって、どういう意味?確か、秋香さんも同じような言い方してたよな。
僕は木桶の縁に顔を寄せて、水風呂で悠然と構える土地神様に迫った。
「叔父さんも昔は妖怪たちが見えたの?なんで今は見えないの?それって僕が巻き込まれた騒動と関係あるの?」
「・・・」
否定したり、ごまかす素振りは見えない。もしかしたら、あんご爺ちゃんなら全部教えてくれるかもしれない。もう一押しすれば、ずっと胸の引っかかっていた疑問が解けるかも。
爺ちゃんの蛙特有の離れ気味の目をじっと見つめてたたみかけるように質問を続けた。
「爺ちゃん。僕の赤ちゃんの頃、何があったんでしょ?この土地の神様なら、偉いんだよね?誰に遠慮することなく話せるよね?」
「・・・」
「ねぇ、爺ちゃんってば。答えてよ!」
その瞬間、背後から胸に抜ける衝撃が走った。
「大希くん!ただいま戻りました!」
「お役目、抜かりなく果たしたでござるぞ。大希殿!」
「うわ!」
前屈みだった背中に猛烈に突進されて、バランスを崩した僕は木桶に頭から突っ込んだ。その隙に、あんご爺ちゃんはひらりと飛び退いて姿を消してしまった。
「大丈夫ですか?あぁ、私たちのせいでかわいそうに」
「申し訳ない」
「もしかして、わざとじゃないよね?今の」
タイミング良すぎない?もうちょっとで何か分かったかもしれないって感じだったのに、謀ったかのように体当たりって。
胸の当たり前びしょびしょになった僕は、木桶から体を起こして二人を見上げた。
「な、何のことでござるか?」
「勘ぐりすぎですよ。さぁ、着替えましょう。夏風邪は厄介だといいますから、ね?私が愛情込めて着せてあげますよ」
天狗がキラキラした笑顔で僕を抱き起こした。いつもは同性から見ても魅力的で眩しく思える笑顔も、今日はなんだか胡散臭く感じる。
「触んないでよ。暑苦しいな」
「いいえ、体が冷えてしまってはいけません。キミ一人の体ではないのですよ」
「そういう言い方やめて。気持ち悪い」
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