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猩々との約束
日時不明・4
「だいき、くうか?」
猩々は、猿たちが持ってきたトマトを差し出した。よく熟れた赤くて大きな実は、ふわっと青臭い匂いがした。
この山奥に、トマト?
「ち、ちょっと、これどうしたの?どこかの畑から盗ってきたの?」
「ちがう」
そう言って大きなトマトを一口で食べきった猩々は、「つくった」と答えた。
「しょうじょう、つくった。いくじろう、あきお、しょうじょうに、おしえた」
「え!幾次郎?」
幾次郎は祖父ちゃんの父親、僕の曾祖父ちゃんだ。
「しょうじょう、はたけ、てつだう。やさい、おぼえた。ここで、つくった」
「そうなんだ」
猩々は、祖父ちゃんや曾祖父ちゃんの野良仕事を手伝って、教えてもらった野菜を洞窟の側で作っているらしい。誇らしげに大きなトマトを見つめる猩々は、他にも胡瓜や茄子も生っているって教えてくれた。
「でも、かぼちゃ、びょうき。いのしし、いった」
「南瓜が病気に?」
「そう。いっこ、びょうき。ぜんぶ、びょうきうつる」
伝染する病気が出るってこと?
それを山の猪から聞いて、祖父ちゃんの畑の南瓜が全滅しないように、症状が出始めた実だけを処分してたってこと?
まさか、枝豆畑の雑草取りも猩々が?
今までもそうやって、祖父ちゃんに内緒で畑を世話してたってことだったら・・・
「どうして祖父ちゃんにそれを言わないの?ホントのことを知ったら、あそこまで敵対しないと思うよ」
「みんな、しょうじょう、きらい。ちかづく、だめ」
「でも、昔は一緒に野良仕事をしてたんでしょ?どうして今は近づいてもダメなんてことになったの?なにがあったの?」
「わかんない」
猩々は、何を訊いても「わかんない」を繰り返すだけだった。
曾祖父ちゃんの頃までは仲良かったみたいなのに、祖父ちゃんの代になって何かがあった。それが原因で拒絶されるようになった。和解さえできれば、猩々もまたみんなと・・・
けど、肝心の猩々に心当たりがないって難しい。
「ねぇ、猩々。明日、山を下りようよ。それで、僕と一緒に祖父ちゃんに謝りに行こう」
「あやまる?」
「何で嫌われたかは分かんないけど、一生懸命に謝れば許してくれるって。だから、勇気出して」
「・・・だめ」
大きな体には似合わないナイーブな彼は、また背を縮めて丸まった。猩々は、僕が思っている以上に傷ついているのかもしれない。ある日突然、信じていた人達から拒絶されて。
「僕と同じだね」
背を向けている気弱な妖怪を見つめた。
親友だと思っていた同僚に、胸に秘めていた夢を打ち明けた翌日、職場中に触れ回られた。そして散々からかわられて恥ずかしくて逃げ出した。
その時頼まれた祖父ちゃんの家の留守番っていう口実に乗っかって、田舎に引きこもっている僕と。
勇気を出さなきゃいけないのは、僕もだね。
「猩々、僕も一歩踏み出すって約束するよ。だから、猩々も頑張って祖父ちゃんに会いに行こう」
「いっぽ?」
「そう。ここから出て、みんなのとこ行こう。僕も側にいてあげるから、ね?」
トマトが猩々の腕からころっと転がり落ちた。
「だいき、いっしょ?しょうじょう、きらい、いわない?」
「言わないよ。ずっと一緒にいるって約束する」
帰ったら、松姫ちゃんに真っ先に謝ろう。
ちゃんと向き合うことを避けていた将来のことをグサッと突かれて、八つ当たりしたなんて情けないよね。出て行ったんじゃない、また逃げ出しただけじゃん。
カッコ悪いな。
「そうと決まったら、明日に備えて寝ようか」
「わかった」
そう言えば、今は何時頃だろう?この洞窟に来てから、僕らのいる空間の入り口に差す灯りに一切変かがないのが気になるけど・・・
ドドン!!
「うわっ!な、なに?」
目の前に爆弾が落ちたみたいな衝撃に一瞬体が浮いた。洞窟の入り口が土埃で霞んでる。天井からはパラパラ岩の欠片が落ちてきた。
「だいき、あぶない」
突然の轟音に耳を塞いだ僕を庇うように、猩々が毛皮で包んで落石からの盾になってくれた。その隙間から外の様子を覗くと、もうもうと舞い上がる塵の向こうに、鮮やかな赤色の何かが姿を現した。
甲冑で身を固めた何者かは、僕を抱き込んだ猩々の仮面に刀の切っ先を突きつけ、勇ましい声でこう言った。
「清蟹権現、参上つかまつった!」
「だいき、くうか?」
猩々は、猿たちが持ってきたトマトを差し出した。よく熟れた赤くて大きな実は、ふわっと青臭い匂いがした。
この山奥に、トマト?
「ち、ちょっと、これどうしたの?どこかの畑から盗ってきたの?」
「ちがう」
そう言って大きなトマトを一口で食べきった猩々は、「つくった」と答えた。
「しょうじょう、つくった。いくじろう、あきお、しょうじょうに、おしえた」
「え!幾次郎?」
幾次郎は祖父ちゃんの父親、僕の曾祖父ちゃんだ。
「しょうじょう、はたけ、てつだう。やさい、おぼえた。ここで、つくった」
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猩々は、祖父ちゃんや曾祖父ちゃんの野良仕事を手伝って、教えてもらった野菜を洞窟の側で作っているらしい。誇らしげに大きなトマトを見つめる猩々は、他にも胡瓜や茄子も生っているって教えてくれた。
「でも、かぼちゃ、びょうき。いのしし、いった」
「南瓜が病気に?」
「そう。いっこ、びょうき。ぜんぶ、びょうきうつる」
伝染する病気が出るってこと?
それを山の猪から聞いて、祖父ちゃんの畑の南瓜が全滅しないように、症状が出始めた実だけを処分してたってこと?
まさか、枝豆畑の雑草取りも猩々が?
今までもそうやって、祖父ちゃんに内緒で畑を世話してたってことだったら・・・
「どうして祖父ちゃんにそれを言わないの?ホントのことを知ったら、あそこまで敵対しないと思うよ」
「みんな、しょうじょう、きらい。ちかづく、だめ」
「でも、昔は一緒に野良仕事をしてたんでしょ?どうして今は近づいてもダメなんてことになったの?なにがあったの?」
「わかんない」
猩々は、何を訊いても「わかんない」を繰り返すだけだった。
曾祖父ちゃんの頃までは仲良かったみたいなのに、祖父ちゃんの代になって何かがあった。それが原因で拒絶されるようになった。和解さえできれば、猩々もまたみんなと・・・
けど、肝心の猩々に心当たりがないって難しい。
「ねぇ、猩々。明日、山を下りようよ。それで、僕と一緒に祖父ちゃんに謝りに行こう」
「あやまる?」
「何で嫌われたかは分かんないけど、一生懸命に謝れば許してくれるって。だから、勇気出して」
「・・・だめ」
大きな体には似合わないナイーブな彼は、また背を縮めて丸まった。猩々は、僕が思っている以上に傷ついているのかもしれない。ある日突然、信じていた人達から拒絶されて。
「僕と同じだね」
背を向けている気弱な妖怪を見つめた。
親友だと思っていた同僚に、胸に秘めていた夢を打ち明けた翌日、職場中に触れ回られた。そして散々からかわられて恥ずかしくて逃げ出した。
その時頼まれた祖父ちゃんの家の留守番っていう口実に乗っかって、田舎に引きこもっている僕と。
勇気を出さなきゃいけないのは、僕もだね。
「猩々、僕も一歩踏み出すって約束するよ。だから、猩々も頑張って祖父ちゃんに会いに行こう」
「いっぽ?」
「そう。ここから出て、みんなのとこ行こう。僕も側にいてあげるから、ね?」
トマトが猩々の腕からころっと転がり落ちた。
「だいき、いっしょ?しょうじょう、きらい、いわない?」
「言わないよ。ずっと一緒にいるって約束する」
帰ったら、松姫ちゃんに真っ先に謝ろう。
ちゃんと向き合うことを避けていた将来のことをグサッと突かれて、八つ当たりしたなんて情けないよね。出て行ったんじゃない、また逃げ出しただけじゃん。
カッコ悪いな。
「そうと決まったら、明日に備えて寝ようか」
「わかった」
そう言えば、今は何時頃だろう?この洞窟に来てから、僕らのいる空間の入り口に差す灯りに一切変かがないのが気になるけど・・・
ドドン!!
「うわっ!な、なに?」
目の前に爆弾が落ちたみたいな衝撃に一瞬体が浮いた。洞窟の入り口が土埃で霞んでる。天井からはパラパラ岩の欠片が落ちてきた。
「だいき、あぶない」
突然の轟音に耳を塞いだ僕を庇うように、猩々が毛皮で包んで落石からの盾になってくれた。その隙間から外の様子を覗くと、もうもうと舞い上がる塵の向こうに、鮮やかな赤色の何かが姿を現した。
甲冑で身を固めた何者かは、僕を抱き込んだ猩々の仮面に刀の切っ先を突きつけ、勇ましい声でこう言った。
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