お手つき禁止!~機織り娘の後宮奮闘記~

織原深雪

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 そんな風に周囲が賑やかになってきた頃、工場に後宮の側妃さまもびっくりなほどの華やかな少女が突如として私専用になりつつある工場に現れた。

 「あなたが、機織り女中の春麗?」

 全く名乗ることも無く、いきなり訪れた少女に驚くものの、その衣装の豪華さと立ち居振る舞いでいい所の娘さんだと分かる。
 ここは無難に対応ずべきかなと、私は後宮で身につけた礼の姿勢をとり答えた。

 「はい、私がこちらで機織りを任されております。春麗でございます」

 そう言うと、彼女はクシャッと顔を不愉快げに歪めるときつい声音で言った。

 「陛下をたぶらかす女狐! あなたなんてここに用は無いわ! さっさと後宮から立ち去るのです!!」

 はて?女狐とは私のことだろうか? 結婚相手もなく、行き遅れて貰い手もなく女中として機織りしている私にはかなり真逆の言葉だと思うんだけれど? 

 「私の言葉が理解できないの!? さっさと立ち去りなさいと言っているのです。私の父は宰相ですのよ!」

 どうやら、この高貴そうな少女は宰相の娘さんらしい。
 「圭祥さま……」

 工場の入口で待っていたらしい、少女の付き人であろう女性が顔色を無くして少女を呼んだ。
 彼女は話を折られたからか、勢いよく振り返りそしてフラっとよろめいた。

 そう、彼女を呼んだ付き人であろう女性の横にはこっちがヒッと叫びたくなるほど凄んだ笑みを浮かべた陛下がいた……。

 普段、ダラっとしたりゆったりのんびりな陛下しか見ていなかったので、私も思わず一歩引いてしまった。

 「圭祥、お前はここでなにをしている? 誰に許可を得てここにおるのだ? 私は許可した覚えはないがな」

 これが絶対零度ってやつでしょうか。
 笑顔が、寒いです。凍えそうです……。

 「へ、陛下。これは、その今話題の機織り女中の話を聞きまして……。お会いしてみたいと……」

 とても、そんなに友好的ではなかったですよ? つい私はちょっと眉を寄せていると、工場の空気がさらに寒々しくなってしまう……。

 「この耳で、勝手にここで働くものにここから立ち去るように傲慢に話す声を聞いたんだがな」

 フッと一息吐くと、陛下は壮絶な笑顔で告げた。

 「圭祥、お前はいつからそんな権限を持ったんだ? ここに入る許可もないお前がなぜ女中を辞めさせられるんだ? 答えろ!」

 すぐそばの壁をダン!と拳で叩いてなお陛下は笑みのまま少女に問いただす。

 「宰相の顔を立てて側妃として迎える予定だったが、そちは今後一切後宮への立ち入りを禁ず! 即刻ここからそちが立ち去れ!」

 陛下の沙汰に少女は顔色は真っ青を通り越して真っ白になりつつ、頭を下げて小さく 「はい……」 と答えて付き人の女性に支えられて立ち去って行った。

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