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 工場をもらって一週間。
 その間に話題になったのだろう、流鶯さまも私の室に遊びに来てお茶をしたあと、工場を見ていかれた。

 「陛下の愛を感じるわねぇ。前の工場より春麗の使い勝手が良いように設計されているのがわかるわ。これなら春麗も作業がはかどるでしょう? 私、新しい生地をお願いしたいわ」

 そう楽しそうに、流鶯さまが言ってくれたので、数日前に染め上げた糸を出してきて聞いてみた。

 「どの色がいいでしょう? 新しく染めてみたんです。 お気に召した糸で生地をお作りします」

 そんな私の声掛けに、流鶯さまは楽し気に糸を触りつつ確かめて、薄橙の糸を選ばれたのでその糸で生地を織る約束をしたのだった。

 現在、その糸を使って絶賛機織り中の私はタンタンとリズムよく機織り機を動かして生地を織っていく。すると離れの扉が開いた。

 その音に振り返れば、お茶を抱えた陛下が姿を見せた。

 「まぁ、陛下。 今日いらっしゃるとは聞いておりませんでしたから、お出迎えもせず申し訳ありません」

 機織りの手を止めて陛下に向き合えば、陛下は気にした風でもなくニコニコと笑ってお茶を今は空いている作業台に乗せて、そこにある椅子に腰かけたので、私もそちらに移動する。

 「ここの使い心地はどうだ? 春麗の機織りの音は俺には落ち着くんだ。聞こえてきたから、こちらに寄ってみたが、急で驚かせたな」

 陛下がお茶を用意してくれるので、私はそれに合わせてお菓子を籠から取り出してそれそれの手元に置いた皿に載せる。

 「驚きはしましたが、ここには私と陛下しか入れないのですから構いません。つい久しぶりで熱中しておりましたが、そろそろ休む時間でしたしね」

 そんな私に、陛下は笑顔のままにお茶を入れてくれて二人でゆっくり過ごす。
 今日のお茶菓子は、揚げたパンに蜂蜜を垂らしたもので、私のお気に入りの菓子だ。

 「春麗はこの菓子が好きだな。 いつも美味しそうに食べている」

 口に入れたばかりだった私は、その発言にぐっとのどに詰まらせた。

 「ゴホゴホッ……」

 咳き込んだ私に、陛下はサッとお茶を渡してくれたのでなんとか飲み込んで事なきを得た。

 「私、そんなに分かりやすいですか?」

 なんとか飲み込んだ後にそう聞けば、陛下は頷いて答えた。

 「春麗は考えてることも気分も顔に出やすいからな。 わかりやすいとは思うが、装うときはうまく隠すからそこは困りものだな。 今はわりと自然体だ」

 確かに、この部屋で機織りを再開してから自分らしさが戻ってきたと思う。
 女官達も、この工場をくれたのが陛下なのでここに籠ってても文句はないらしい。
 おかげで、一週間前までの生活で感じていたストレスはすっかり少なくなってきていた。
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