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Ep.3 龍の噂 前編
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貨物船が到着したとあって埠頭は人であふれ返っていた。
「ありがと、これでサインするのは全部?」
クリップボードに挟まれた書類にさらさらと筆記体でサインを書くアイリ。書面を見た船乗りは「これで全部っす、あっしたー」と軽いノリで挨拶して別の取引先が待つ場所に向かっていった。
積み上げられた木箱の山。
「これを見るのも随分と久しぶりな気がするな」
ゼクスが一番最初にアイリから任された仕事。それがこの荷物の山を酒場に持っていくことだった。
「また魔法なしで運んでみる?」
「お前も冗談言うようになったな」
「おかげさまで。あんたも師匠に対した口が聞ける様になったわね」
「おかげさまでな」
そんな他愛ない冗談を交わしながら大きな木箱の積み荷を酒場に運び始めた。
「積み荷いつものとこでいいすか?」
裏庭の倉庫を漁っているフリルのついたスカート——もといキャミィに声をかける。
「おお、ろくでなしのゼクスくんじゃないっスかお久しぶりっすね!」
お尻を向けたまま尻尾を立てたりしてる。
「お、おひさしぶりっす」
「なんだなんだ~? 元気ないっスね~ちゃんとご飯たべてるスか? ダメっスよ、ちゃんと食べなきゃ」
尻尾を「!」にしたり揺らしたりして感情を表している様だが……ゼクスはそのスカートの秘境が見えてしまうのではないかとハラハラしていた。
(いや、見たくないわけじゃないがキャミねぇにはビーストリーディングっていう心を読む能力があってだな——)
ビーストリーディングは対象者が視界に入っていて意識を向けるという条件が付いているが厄介な能力。それだけでも脅威なのに使用者はもっと凶悪。いたずらで所構わず人の心理を暴露するタチの悪い女で——
「だーれがタチの悪い女っスか?」
ワントーン低い声とともにいつの間にかゼクスの方を向いていた。彼女の目はスリット状の瞳孔、猫目になっていた。能力を発動させている証拠だ。
「あ、いや別に、ってかほら、コレどこ置いとけばいいっスか?」
キャミィは一つため息を吐くと「いつものとこでいいから」と言い再び倉庫の中を漁り始めた。
「あ、そうだ。中でサラちゃんが掃除してるから読んできてちょ。非力軟弱根暗のゼクスくん一人じゃ時間かかっちゃうでしょ」
「根暗は関係ないだろ。はいはい、俺より頼りになるサラ様呼んできますよっと」
裏口からバーカウンターの方に向かう。ちょうど床を拭いていたサラと向き合う形で紅い目が合う。
汚れないように前掛けをして、灰色のロングヘアは邪魔にならないように後ろでくくってまとめていた。そして彼女のお尻から伸びる鱗の尻尾には水の入ったバケツがぶら下がっている。
彼女もまた龍人と呼ばれるドラゴンの血を引いた種族。
バッチリ視線が交わしたのだが、サラはまるで何事もなかった様に再び床を拭く。
(あー、やっぱそうなるのかぁ)
思わず後頭部を掻く。予想はできていたもののやっぱり堪える。
先日の一連の事件で彼女の母、シエラと死闘を繰り広げたゼクス。操られていた彼女を救うことができずに死なせてしまった。それがきっかけでゼクスはサラが一人で生きていけるまで一緒にいることになった——ある約束をして。
「キャミねぇが積み荷を持ってくるの手伝ってくれって。俺じゃ頼りないんだとよ」
サラは器用に尻尾のバケツを前に持って来てそこで雑巾を絞る。道具を置くと何も言わずスタスタとゼクスが入って来た裏口へ出ていってしまった。
「ありがと、これでサインするのは全部?」
クリップボードに挟まれた書類にさらさらと筆記体でサインを書くアイリ。書面を見た船乗りは「これで全部っす、あっしたー」と軽いノリで挨拶して別の取引先が待つ場所に向かっていった。
積み上げられた木箱の山。
「これを見るのも随分と久しぶりな気がするな」
ゼクスが一番最初にアイリから任された仕事。それがこの荷物の山を酒場に持っていくことだった。
「また魔法なしで運んでみる?」
「お前も冗談言うようになったな」
「おかげさまで。あんたも師匠に対した口が聞ける様になったわね」
「おかげさまでな」
そんな他愛ない冗談を交わしながら大きな木箱の積み荷を酒場に運び始めた。
「積み荷いつものとこでいいすか?」
裏庭の倉庫を漁っているフリルのついたスカート——もといキャミィに声をかける。
「おお、ろくでなしのゼクスくんじゃないっスかお久しぶりっすね!」
お尻を向けたまま尻尾を立てたりしてる。
「お、おひさしぶりっす」
「なんだなんだ~? 元気ないっスね~ちゃんとご飯たべてるスか? ダメっスよ、ちゃんと食べなきゃ」
尻尾を「!」にしたり揺らしたりして感情を表している様だが……ゼクスはそのスカートの秘境が見えてしまうのではないかとハラハラしていた。
(いや、見たくないわけじゃないがキャミねぇにはビーストリーディングっていう心を読む能力があってだな——)
ビーストリーディングは対象者が視界に入っていて意識を向けるという条件が付いているが厄介な能力。それだけでも脅威なのに使用者はもっと凶悪。いたずらで所構わず人の心理を暴露するタチの悪い女で——
「だーれがタチの悪い女っスか?」
ワントーン低い声とともにいつの間にかゼクスの方を向いていた。彼女の目はスリット状の瞳孔、猫目になっていた。能力を発動させている証拠だ。
「あ、いや別に、ってかほら、コレどこ置いとけばいいっスか?」
キャミィは一つため息を吐くと「いつものとこでいいから」と言い再び倉庫の中を漁り始めた。
「あ、そうだ。中でサラちゃんが掃除してるから読んできてちょ。非力軟弱根暗のゼクスくん一人じゃ時間かかっちゃうでしょ」
「根暗は関係ないだろ。はいはい、俺より頼りになるサラ様呼んできますよっと」
裏口からバーカウンターの方に向かう。ちょうど床を拭いていたサラと向き合う形で紅い目が合う。
汚れないように前掛けをして、灰色のロングヘアは邪魔にならないように後ろでくくってまとめていた。そして彼女のお尻から伸びる鱗の尻尾には水の入ったバケツがぶら下がっている。
彼女もまた龍人と呼ばれるドラゴンの血を引いた種族。
バッチリ視線が交わしたのだが、サラはまるで何事もなかった様に再び床を拭く。
(あー、やっぱそうなるのかぁ)
思わず後頭部を掻く。予想はできていたもののやっぱり堪える。
先日の一連の事件で彼女の母、シエラと死闘を繰り広げたゼクス。操られていた彼女を救うことができずに死なせてしまった。それがきっかけでゼクスはサラが一人で生きていけるまで一緒にいることになった——ある約束をして。
「キャミねぇが積み荷を持ってくるの手伝ってくれって。俺じゃ頼りないんだとよ」
サラは器用に尻尾のバケツを前に持って来てそこで雑巾を絞る。道具を置くと何も言わずスタスタとゼクスが入って来た裏口へ出ていってしまった。
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