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Ep.6 不満と発散
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もっと俺に魔力があればな、とゼクスは実力不足に感嘆していた。
ゼクスの左手に刻まれている魔術式ーー拡張の魔法陣は自分の魔力を1部質量変換させて物を格納できる。格納できる量は変換した魔力分の質量で剣数本や盾の武具類、旅をする道具一式で限界。つまりはいまこの時点でリミットいっぱいだった。
魔力変換する量を増やせばもっと入るのだがその分戦闘に使える絶対量が減少してしまう。
背中におぶっているサラを格納するには圧倒的にスペースが足りない(そもそも生き物をしまえるかどうかはまた別の話だが……)
ぶつぶつ独り言を言いながら快晴の街道をひた歩く。
予定よりも1日遅れてクアーロ村に到着した。
「サラ、起きてくれ」
眠気眼をこすりながら「なに?」とくぐもった声を上げた。
「悪いんだが水とか食糧、魔除けとかいろいろ集めなきゃいけない。手伝ってもらえるか?」
フードの下でまだうとうとしているが、コクンとうなずく。
「あと、フードは絶対にとるなよ? 顔も見られないように。窮屈だろうが我慢してくれ」
再度注意を促す。
「お兄さんたち、旅人でしょ? 今日の宿決まってるの?」
少し長めの黒髪を揺らしてにっこりと笑顔を浮かべながらやってくる。身なりは整えているのだろうが、ところどころ服にほつれが見えている。
「なんだ?」
「いやいや、失敬。私そこの宿のメイドしてるものでして。見たところ今着いたところかなー、と。宿が決まってなければうちでいかがです?」
手振りはぶり陽気に話しかけてくる彼女。
クアーロ村は小さいながらも街道の近く村ゆえに旅人や冒険者向けの施設が立っていた。道具屋、武具屋修理屋。宿なんかは数件立ち並ぶほどで村人はほぼ全員商いを営んでいるみたいだ。
ほかの店に客をとられないように村の中央広場には何人か客引きがいるのがみえる。彼女もそのうちの一人だ。
「いや、いい。用が済んだらすぐに出るからな」
「いやいやそういわずにっ! 見たところお嬢さんもお疲れみたいですし、そう急ぐことはないですよ~? 焦って走ると転びますし、ね? ね?」
「ゼクス、泊まらないの? 今日も野宿?」
サラの発言にゼクスは目を細めて心の中で舌打ちをした。ゼクスの予想通り彼女は目の色を変えてさらに突っかかってくる。
「ほら、嬢ちゃん休みたいよね? それに野宿は危険、ここクアーロ村には衛兵もいるし、門もある。外なんかよりもよっぽど安全! 危険にさらされながら寒い夜、硬い地面で寝るのはつらいでしょ? うちに来ればふかふかのベッド、温かいご飯やお風呂、魔物を気にせずに熟睡できますよ!!」
よくそんなつらつらとうたい文句が出てくるなと内心関心しながらも、意思は揺るがない。むしろ揺るんではいけない。
そんな欲望につられて宿屋に行ってみろ。サラの正体がばれて、すぐにさわぎになる。こう誰かと会話しているのさえ避けたいのに、それ以上のリスクを背負ってたまるか。
などと思ってはいるのだが心が揺れ動く。正直野宿で疲れが取れるわけがなく日中これからもサラを背負い続けてノーザンラークに向かうのは……
「じゃあ――――
代わりにいい道具屋教えてくれないか? 訳あって泊まれないんだ」
ゼクスは至って平穏な口調で彼女に提案した。
「どんな訳です? 出来ることならーー」
彼女は懐から何かを出そうとしたが、手が止まる。
「同じこと言わせないでくれ?」
「う……あ、はい」
ついゼクスは威圧的になってしまった。
大人しく彼女は村の外れにポツリと佇む雑貨屋に連れられてきた。
広場近くの派手な店と違いこじんまりと必要最低限の装飾だけされていた。
「ここ、村の人しか使わなくて安いから」
どこかビクついて居るようにも見える。ゼクスの顔をチラと見て顔を逸らす。やはりという所か、あからさまに怖がっている。
ひとまず彼女は放っておいて、買い物を済ませてしまう。
乱雑に品物は置かれてはいるけど悪くない。まずまずのものだった。
物陰に隠れるように老婆が座っていた。監視されるようにも思いながら物色をして回復薬、魔除けと燃焼用の油をとって老婆の元に向かう。
口を開いて言葉を発する前に素早く、彼女は指を3本立ててみせた。
言われるまま銅貨を渡して店を出る。
「じゃあ私はこれでーー」
「おい、ちょっと待て」
ゼクスの声掛けに体を強ばらせるとそのまま走り去っていく。
遠ざかる彼女の手には小さな皮袋。
ゼクスがマントの下に入れていたものだった。
「浅はかだったか? まぁいい行くぞ」
盗られた中にはほぼ何も入っていない、大体の金品は左手に入っている。
しかし不注意で盗られてきしまった不注意、ゼクスは至って普通人。
頭の中では既にふつふつと熱を帯びてきていた。
サラに声をかけずに村を出ていく。
ゼクスの左手に刻まれている魔術式ーー拡張の魔法陣は自分の魔力を1部質量変換させて物を格納できる。格納できる量は変換した魔力分の質量で剣数本や盾の武具類、旅をする道具一式で限界。つまりはいまこの時点でリミットいっぱいだった。
魔力変換する量を増やせばもっと入るのだがその分戦闘に使える絶対量が減少してしまう。
背中におぶっているサラを格納するには圧倒的にスペースが足りない(そもそも生き物をしまえるかどうかはまた別の話だが……)
ぶつぶつ独り言を言いながら快晴の街道をひた歩く。
予定よりも1日遅れてクアーロ村に到着した。
「サラ、起きてくれ」
眠気眼をこすりながら「なに?」とくぐもった声を上げた。
「悪いんだが水とか食糧、魔除けとかいろいろ集めなきゃいけない。手伝ってもらえるか?」
フードの下でまだうとうとしているが、コクンとうなずく。
「あと、フードは絶対にとるなよ? 顔も見られないように。窮屈だろうが我慢してくれ」
再度注意を促す。
「お兄さんたち、旅人でしょ? 今日の宿決まってるの?」
少し長めの黒髪を揺らしてにっこりと笑顔を浮かべながらやってくる。身なりは整えているのだろうが、ところどころ服にほつれが見えている。
「なんだ?」
「いやいや、失敬。私そこの宿のメイドしてるものでして。見たところ今着いたところかなー、と。宿が決まってなければうちでいかがです?」
手振りはぶり陽気に話しかけてくる彼女。
クアーロ村は小さいながらも街道の近く村ゆえに旅人や冒険者向けの施設が立っていた。道具屋、武具屋修理屋。宿なんかは数件立ち並ぶほどで村人はほぼ全員商いを営んでいるみたいだ。
ほかの店に客をとられないように村の中央広場には何人か客引きがいるのがみえる。彼女もそのうちの一人だ。
「いや、いい。用が済んだらすぐに出るからな」
「いやいやそういわずにっ! 見たところお嬢さんもお疲れみたいですし、そう急ぐことはないですよ~? 焦って走ると転びますし、ね? ね?」
「ゼクス、泊まらないの? 今日も野宿?」
サラの発言にゼクスは目を細めて心の中で舌打ちをした。ゼクスの予想通り彼女は目の色を変えてさらに突っかかってくる。
「ほら、嬢ちゃん休みたいよね? それに野宿は危険、ここクアーロ村には衛兵もいるし、門もある。外なんかよりもよっぽど安全! 危険にさらされながら寒い夜、硬い地面で寝るのはつらいでしょ? うちに来ればふかふかのベッド、温かいご飯やお風呂、魔物を気にせずに熟睡できますよ!!」
よくそんなつらつらとうたい文句が出てくるなと内心関心しながらも、意思は揺るがない。むしろ揺るんではいけない。
そんな欲望につられて宿屋に行ってみろ。サラの正体がばれて、すぐにさわぎになる。こう誰かと会話しているのさえ避けたいのに、それ以上のリスクを背負ってたまるか。
などと思ってはいるのだが心が揺れ動く。正直野宿で疲れが取れるわけがなく日中これからもサラを背負い続けてノーザンラークに向かうのは……
「じゃあ――――
代わりにいい道具屋教えてくれないか? 訳あって泊まれないんだ」
ゼクスは至って平穏な口調で彼女に提案した。
「どんな訳です? 出来ることならーー」
彼女は懐から何かを出そうとしたが、手が止まる。
「同じこと言わせないでくれ?」
「う……あ、はい」
ついゼクスは威圧的になってしまった。
大人しく彼女は村の外れにポツリと佇む雑貨屋に連れられてきた。
広場近くの派手な店と違いこじんまりと必要最低限の装飾だけされていた。
「ここ、村の人しか使わなくて安いから」
どこかビクついて居るようにも見える。ゼクスの顔をチラと見て顔を逸らす。やはりという所か、あからさまに怖がっている。
ひとまず彼女は放っておいて、買い物を済ませてしまう。
乱雑に品物は置かれてはいるけど悪くない。まずまずのものだった。
物陰に隠れるように老婆が座っていた。監視されるようにも思いながら物色をして回復薬、魔除けと燃焼用の油をとって老婆の元に向かう。
口を開いて言葉を発する前に素早く、彼女は指を3本立ててみせた。
言われるまま銅貨を渡して店を出る。
「じゃあ私はこれでーー」
「おい、ちょっと待て」
ゼクスの声掛けに体を強ばらせるとそのまま走り去っていく。
遠ざかる彼女の手には小さな皮袋。
ゼクスがマントの下に入れていたものだった。
「浅はかだったか? まぁいい行くぞ」
盗られた中にはほぼ何も入っていない、大体の金品は左手に入っている。
しかし不注意で盗られてきしまった不注意、ゼクスは至って普通人。
頭の中では既にふつふつと熱を帯びてきていた。
サラに声をかけずに村を出ていく。
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